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大学・研究所にある論文を検索できる 「炭酸リチウムの根管貼薬が根尖性歯周炎の治癒に与える影響およびその機能解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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炭酸リチウムの根管貼薬が根尖性歯周炎の治癒に与える影響およびその機能解析

鍵岡, 琢実 大阪大学

2021.03.24

概要

【研究目的】
根尖性歯周炎では,根尖部歯周組織への細菌感染に対して免疫応答が生じ,その際に産生される炎症性サイトカインにより歯槽骨の吸収が引き起こされ,根尖病変が形成される.従来の根管貼薬剤は根管の無菌化を目的としており,生体の免疫応答や骨代謝を賦活化する作用は有さない.そこで筆者の研究グループでは以前より,免疫応答や骨代謝を賦活化できるバイオアクティブな根管貼薬剤の開発を目指してきた.

その端緒として,先行研究にて根尖性歯周炎に罹患した日本人の患者における疾患関連遺伝子についてのSNP解析をおこなったところ,Wnt受容体の共役受容体であるLRP-5をコードする遺伝子上のSNPが,根尖性歯周炎の発症と関連性があることが明らかとなった.さらに,Wnt/β-cateninシグナル伝達経路を活性化する塩化リチウムを根管貼薬剤としてマウスに用いたinvivo実験をおこない,Wnt/β-cateninシグナルが根尖病変の治癒に関与していることを明らかにしてきた.

本研究では,根管貼薬処置をより確実におこなうことができるラットを用いて,別種実験動物における有効性の再検証をおこなうことにした.また,将来的なヒトへの応用を見据えて,双極性障害に有効な治療薬としてすでに臨床応用されている炭酸リチウムを根管貼薬剤として用いたinvivo実験をおこない,炭酸リチウムが根尖病変の治癒に与える影響を評価するとともに,その治癒メカニズムを組織学的に解析することを目的とした.

【材料と方法】
本研究における動物実験は,大阪大学大学院歯学研究科動物実験委員会の承認のもと,大阪大学動物実験規定に則って実施した(承認番号:動歯-26-011-0).

実験1:炭酸リチウム根管貼薬の安全性についての検討
10週齢雄性Wistarラットの下顎第一臼歯を露髄させ,4週間口腔内に開放することにより根尖性歯周炎を惹起した.被験歯に感染根管治療をおこない,炭酸リチウムを12%の濃度で配合した根管貼薬剤を貼薬した(n=4).コントロール群には露髄後4週の時点で炭酸リチウム腹腔内投与(74mg/kg)をおこなった(n=4).処置後1,3,6,12,24,48,72時間の血液を採取し,遠心分離後に血清を検体として吸光度測定により血液中に含まれるリチウムイオン濃度を測定した.

実験2:炭酸リチウム根管貼薬がラット根尖性歯周炎へ及ぼす影響
実験1と同様にしてラット下顎第一臼歯に根尖性歯周炎を惹起した.被験歯に感染根管治療をおこない,炭酸リチウムを1%,12%の濃度で配合した根管貼薬剤,またはコントロールとして水酸化カルシウム製剤(カルシペックス®Ⅱ)もしくはブランク(基材のみ)を貼薬した(n=4).貼薬後のラットは1週ごとに屠殺して被験歯周囲のマイクロCT撮影をおこない,得られた画像から画像解析ソフトを用いて病変体積(mm3)を計測し,体積変化を評価した.

実験3:ラット根尖性歯周炎に対する炭酸リチウム根管貼薬の用量反応の検討
炭酸リチウム根管貼薬のラット根尖性歯周炎に対する容量反応について検討した.具体的には,炭酸リチウムを1%,0.1%,0.01%,0.001%の割合でそれぞれ配合した根管貼薬剤とブランクとを用いて上記と同様の実験をおこない,根尖病変体積(mm3)の変化を評価した(n=5).

実験4:炭酸リチウム根管貼薬による病変治癒メカニズムの組織学的解析
既述の実験と同様に,ブランクもしくは12%炭酸リチウムの根管貼薬をおこなったラットを灌流固定後,下顎骨を摘出し,病理組織学的解析に用いた.摘出したサンプルは脱灰処理後パラフィン,もしくはコンパウンドに包埋し,それぞれパラフィン切片,凍結切片を作製した.作製した切片に対して,ヘマトキシリン‐エオジン(HE)染色,免疫組織化学染色,蛍光免疫染色,insituハイブリダイゼーションをおこない,根尖周囲組織を光学顕微鏡または蛍光顕微鏡にて観察した.

【結果および考察】
実験1:炭酸リチウムを腹腔内投与すると,投与後1時間から3時間で約2mMまで一過性に上昇し,その後は徐々に低下し続けた.12%炭酸リチウム根管貼薬群では,観察をおこなった72時間を通して血中からリチウムイオンは検出されなかった.このことから,根尖孔より溢出するリチウムイオンは全身的にほとんど影響を及ぼさず,炭酸リチウムの根管貼薬は生物学的に安全であることが示唆された.

実験2:根管貼薬後2週において,1%および12%炭酸リチウム群はブランク群と比較し,有意差をもって病変体積が縮小していた.さらに,12%炭酸リチウム群は水酸化カルシウム群と比較し,有意差をもって病変体積が縮小していた.また3週,4週において,12%炭酸リチウム群はブランク群,水酸化カルシウム群と比較し,有意差をもって病変体積が縮小していた.同様に,1%炭酸リチウム群はブランク群と比較し,有意差をもって病変体積が縮小していた.

実験3:1%,0.1%,0.01%,0.001%炭酸リチウム群は貼薬後2週以降,ブランク群と比較して有意差をもって病変が縮小したが,貼薬後4週において,0.01%以上の用量では0.001%よりもさらに病変体積の縮小効果が大きかった.これら二つの実験結果から,炭酸リチウムの根管貼薬は,根尖病変の治癒を促進することが明らかとなった.そして,炭酸リチウム濃度が0.01%以上であれば,根尖性歯周炎に対してほぼ同等の作用を発揮することが示された.以上より,根管貼薬剤として十分な効果を得るためには,炭酸リチウムを0.01%以上の濃度で使用するのが適切であることがわかった.

実験4:貼薬後4週の根尖病変周囲のH-E染色像において,炭酸リチウム群ではブランク群と比較して,根尖病変が小さかった.また,免疫組織化学染色および蛍光免疫染色において,炭酸リチウム群ではブランク群と比較して,制御性T細胞やM2マクロファージの増加およびM1マクロファージの減少が認められ,多数のAxin2陽性細胞が認められた.また,insituハイブリダイゼーションにおいて,炭酸リチウム群ではブランク群と比較して,骨芽細胞マーカーであるCol1a1の強い発現が認められた.これらの結果から,炭酸リチウムの根管貼薬は,Wnt/β-cateninシグナル伝達経路を活性化し,M1マクロファージの分化を抑えるとともに,M2マクロファージや制御性T細胞,そして骨芽細胞の分化を誘導し,根尖病変の治癒を促進していると考えられる.

【結論】
本研究により,炭酸リチウム根管貼薬は,根尖病変の治癒を促進することが示され,血中濃度の経時的測定より生物学的に安全な材料であることが示唆された.そして,炭酸リチウムは,Wnt/β-cateninシグナル伝達経路を活性化することでM1マクロファージの分化を抑制しつつM2マクロファージや制御性T細胞の分化を促進して抗炎症状態を導き,一方で,骨芽細胞の分化を誘導することで病変の治癒を促進していることが明らかとなった.

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