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細胞老化における核内アクチン繊維の役割:機構解明と人為的操作法の基盤確立

高橋, 祐人 東北大学

2023.03.24

概要

論文内容要旨

細胞老化における核内アクチン繊維の役割:
機構解明と人為的操作法の基盤確立

東北大学大学院農学研究科
応用生命科学専攻

分子生物化学分野

高 橋 祐 人

指導教員

原田 昌彦 教授

第 1 章 研究の背景と目的
真核生物の遺伝情報を担うゲノム DNA は、核内タンパク質であるヒストンとの複合体であるクロ
マチン構造を形成し、球形の細胞内器官である細胞核(核)に収められている。クロマチン構造は、
コアヒストンに DNA が巻き付いたヌクレオソームを基本構成単位とし、転写が不活性な凝集した状
態であるヘテロクロマチンと、転写活性が高く、弛緩した状態のユークロマチンの状態で存在して
いる。核内のクロマチン構造に着目すると、一般的にヘテロクロマチンが核膜近傍に多く存在し、
ユークロマチンが核の中央部分に集まっていることが知られている。このようなクロマチンの空間
配置が適切に維持されていることが、正常な遺伝子発現制御を介した健全な生命現象の維持に重要
である。そのため核内には、クロマチンの空間配置を制御する構造体である核骨格が存在する。核
骨格の一つである核ラミナは核内膜に網目状に局在する核内構造体であり、ラミン A/C、ラミン
B1/B2 を主要な構成因子とする。核ラミナは、ヘテロクロマチンを核膜近傍に引き付けることや核
膜の機械的な安定性をもたらすことで、核膜の正常な構造維持に必要である。
核ラミナは後生生物に特有の構造体であり、核ラミナが変化することでラミン病と呼ばれる様々
な疾病が引き起こされる。ラミン病の一つであり、異常に老化が早く進行する早期老化症のハッチ
ンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)は、ラミン A 遺伝子の一塩基置換の突然変異
でもたらされる。この突然変異により、野生型ラミン A と比較して C 末端付近のアミノ酸 50 残基
を欠失した変異体ラミン A であるプロジェリンが核に蓄積することで、HGPS 病態が出現する(Fig.
1A)。ラミン A は正常な核構造形成に関与しているため、プロジェリンが核に存在することで HGPS
患者の核は核膜が陥入したような異常な形態が観察され、ヘテロクロマチンが減少するなどのクロ

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マチン立体構造変化を伴う核内構造異常が観察される(Fig. 1A)

HGPS による核構造異常と病態が出現する原因として、核骨格である核内アクチン繊維の変化に
注目した。アクチンは細胞質に豊富に存在して細胞骨格を形成するタンパク質である。アクチンの
一部は核にも存在し、核内アクチン繊維は細胞質と同様に単量体アクチンが重合して形成される。
核内アクチン繊維は遺伝子発現制御や、DNA 損傷修復の促進を行い、細胞分裂終了時のクロマチン
の脱凝縮を促進することで核骨格として機能する(Fig. 1B)。このように様々なゲノム機能に関与す
る核内アクチン繊維を構成するアクチンは、ラミン A と直接相互作用することが報告されている
(Fig. 1B)。正常なラミン A は C 末端付近に 2 か所のアクチン結合部位(AB 部位)を有している
が、プロジェリンは 2 か所目の AB 部位を部分的に欠失している(Fig. 1C)。このことから、プロジ
ェリンの発現により、HGPS 細胞では核内アクチン繊維の構造と機能が変化していることを予想し
た。この予想に基づき、核内アクチン繊維の変化と HGPS 病態との関連性を解析した。

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第2章

HGPS 細胞における核内アクチン繊維変化とその病態との関連性解析

本研究では、米国 NIH・NCI の Tom Misteli 博士から分与された control 細胞と HGPS モデル細胞
を用いた。この細胞では Tet-On システムが導入されており、ドキシサイクリン(Dox)を培地に添
加することで、control 細胞は EGFP-ラミン A を、HGPS 細胞は EGFP-プロジェリンをそれぞれ発現
する。この要旨では、control 細胞と HGPS モデル細胞の培地に Dox を 96 時間添加して EGFP-ラミ
ン A または EGFP-プロジェリンの発現を促した細胞を、それぞれ lamin A-Dox(+)および progerinDox(+)と表記する。
まず HGPS 細胞で核内アクチン繊維がどのように変化しているか調べる目的で、核内アクチンク
ロモボディ(nAC-mCherry)を細胞に発現させた。nAC-mCherry は、アクチン結合クロモボディに核
移行シグナル(NLS)と mCherry が付与されたもので、核内アクチンの状態を赤色蛍光で観察する
ことができる。これにより、核内アクチン繊維を持たない核と、持たない核が、Fig. 2A のように区
別される。核内アクチン繊維を有する細胞の割合(核内アクチン繊維形成率)を計測した結果、
progerin-Dox(+)では核内アクチン繊維形成率が顕著に減少した(Fig. 2B)
。このことから、HGPS 細
胞では正常な核内アクチン繊維形成が損なわれていることが示唆された。さらにこの結果を検証す
るため、核内アクチン繊維が活性を促進する Wnt/β-カテニン標的プロモーター(TCF/LEF プロモー
ター)の活性をルシフェラーゼアッセイにより解析した。Lamin A-Dox(±)では変化が認められなか
ったが、progerin-Dox(+)では有意な TCF/LEF プロモーター活性の減弱が見られた(Fig. 2C)
。さらに
TCF/LEF プロモーターの標的遺伝子の一つであり、核内アクチン繊維により発現が増える TCF-1 遺
伝子の発現量を、定量 RT-PCR(qRT-PCR)法で比較した。TCF/LEF プロモーター活性の減少を裏付

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けるように、progerin-Dox(+)では対象群と比べて TCF-1 の発現量が減少していた(Fig. 2D)。以上の
実験結果から、HGPS 細胞では核内アクチン繊維形成が減少し、このことが HGPS 細胞の遺伝子発
現変化を引き起こしている可能性が示された。

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次に、核内アクチン繊維の形成減少がどのような HGPS 病態に関連しているかを詳細に調べた。
そのために、HGPS モデル細胞に NLS を付与したアクチン(NLS-アクチン)を高発現させて人為的
に核内アクチン繊維形成を促し、この場合にどのような HGPS 病態が相補されるかを解析した(Fig.
3A)。実際に NLS-アクチンの高発現が progerin-Dox(+)で核内アクチン繊維形成の増加をもたらすか
調べたところ、NLS-アクチンを高発現させた progerin-Dox(+)群では、有意な核内アクチン繊維形成
率の上昇が確認された(Fig. 3B)
。HGPS 病態の代表的なものとして、主に核形態異常性、遺伝子発
現異常、DNA 損傷の増加、細胞老化が挙げられる。はじめに NLS-アクチンを高発現させた progerinDox(+)の核形態変化を蛍光顕微鏡で観察したところ、興味深いことに HGPS 細胞の核が歪んだよう
な形態が相補され、核が正常な球形に近付くことが見出された(Fig. 3C)
。この結果を定量的に解析
するために、nuclear irregularity index 値(核形態異常性値, NII 値)を用いて progerin-Dox(±)のプラ
スミド非導入群、野生型アクチン導入群、NLS-アクチン導入群および NLS-G13R アクチン(G13R
アクチンは繊維形成ができない変異体アクチン)導入群の核形態異常性変化を NII 値によって比較
解析した。NII 値は核が円形から離れて異常な形態になるほど高い値を示す。その結果、progerinDox(+)の NLS-アクチン導入群は progerin-Dox(-)のプラスミド非導入群と同程度まで NII 値が減少し、

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NLS-アクチンの発現で核形態異常性が抑制されることが示された(Fig. 3D)。次に NLS-アクチンの
発現により遺伝子発現異常が相補されるか明らかにするために、progerin-Dox(+)で活性が減少した
TCF/LEF プロモーターの活性が回復するかを調べた。ルシフェラーゼアッセイで解析を行った結果、
NLS-アクチンを発現させた progerin-Dox(+)群の TCF/LEF プロモーター活性は、mCherry を発現させ
た progerin-Dox(-)群と同等のレベルまで増加した(Fig. 3E)。このことから、核内アクチン繊維の形
成不全が、HGPS 細胞の TCF/LEF プロモーター活性減少の原因の一部となっていることが示唆され
た。核内アクチン繊維は相同組換え修復経路に寄与することで DNA 損傷修復を促進する。このこと
から、HGPS 細胞では核内アクチン繊維減少でゲノム不安定性による DNA 損傷の増加が起きるのか
を調べた。そのために、NLS-アクチンを発現させた progerin-Dox(+)の γH2AX(DNA 損傷マーカー)
の集積点(foci)の数を蛍光顕微鏡で計測した。NLS-アクチンは核内アクチン繊維形成を促すため、
核内アクチン繊維による DNA 損傷修復が促進されて γH2AX foci が減ることを予想していたが、逆
に NLS-アクチン発現 progerin-Dox(+)群では γH2AX foci 数が増加した(Fig. 3F)。さらに、NLS-アク
チンの発現で核内アクチン繊維形成を増やすことで細胞老化が抑制されるかについても調べた。老
化関連 β-ガラクトシダーゼ
(SA-β-gal)
は老化細胞に蓄積するため、
老化マーカーとして用いられる。
Progerin-Dox(+)の SA-β-gal を蛍光標識して検出したが、NLS-アクチンの発現で SA-β-gal は変化しな
かった(Fig. 3G)
。以上の結果から、核内アクチン繊維の減少が HGPS 細胞の核形態異常と遺伝子発
現異常の原因の一部となっていることが示された。その一方で、核内アクチン繊維の減少と、DNA
損傷の増加、および細胞老化との明確な関連性は示されなかった。

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第 3 章 総合考察
本研究により、新規に、核内アクチン繊維の形成減少と HGPS の関連性が示された。核内アクチ
ン繊維は広範かつ重要なゲノム機能を制御することから、核内アクチン繊維の正常な形成が損なわ
れることで、少なくとも一部の HGPS 病態がもたらされると予想される。例えば、核内アクチン繊
維の減少で Wnt/β-カテニン標的プロモーターの活性が減弱することが示唆されたが、これまでに
HGPS 患者の細胞で実際に Wnt/β-カテニン標的遺伝子の発現減少が報告されており、核内アクチン
繊維の減少がその病態を生じさせる可能性が予想される(Fig. 4)
。さらに、核内アクチン繊維は様々
な条件で形成され、適切なクロマチンの核内立体配置を促す。HGPS 細胞では核内アクチン繊維形成
が減少しているため、クロマチン構造異常による核形態異常が起きる可能性がある(Fig. 4)。今後
は、NLS-アクチンの発現による人為的な核内アクチン繊維で核内のクロマチン構造のような変化も
解析し、核内アクチン繊維の誘導による核構造異常の相補をさらに詳細に調べる必要がある。
また、予想に反して NLS-アクチンの高発現は、DNA 損傷の増加と細胞老化を相補しなかった(Fig.
3F,G)
。NLS-アクチンの発現により核内アクチン量が増加し、継続的かつ過度な核内アクチン繊維の
形成促進が行われることも考えられる。DNA 損傷の修復には一過的に形成される核内アクチン繊維
の機能が重要で、NLS-アクチンの発現では DNA 損傷を効果的に修復させる一過的な核内アクチン
繊維形成を行えていないことが原因となり、DNA 損傷の増加の表現型が相補されなかった可能性が
ある。また、本研究はヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)の発現で不死化された HGPS 細胞を
用いている。hTERT の発現は SA-β-gal の蓄積を抑制するという研究結果があることから、本研究で
用いた人工的な HGPS モデル細胞を使った実験系には、HGPS 患者で起きている SA-β-gal の蓄積の

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ような本来の細胞老化表現型を検出することに限界があるのかも知れない。SA-β-gal の変化を調べ
る定量実験について、さらに実験系を改良する余地がありそうである。本研究で得られた結果を総
括すると、世界的に初めて核内アクチン繊維の減少と細胞老化との関連を発見した。この知見は核
内アクチン繊維を標的とした細胞老化抑制技術の実現可能性を示唆している。 ...

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