リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「線維化を促進する転写共役因子の機能解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

線維化を促進する転写共役因子の機能解析

堀井, 雄真 HORII, Yuma ホリイ, ユウマ 九州大学

2022.03.23

概要

線維化とは、組織にコラーゲンなどの細胞外マトリックス蛋白質が過剰に産生され、蓄積した状態である。これら細胞外マトリックス蛋白質は筋線維芽細胞という細胞群によって産生される。筋線維芽細胞は、炎症や老化などによって主として組織に常在する線維芽細胞が分化することにより生じる。コラーゲンなどの細胞外マトリックス蛋白質は、弾性力の強い線維であるため、線維化した組織は硬化する。そしてこの組織の硬化は、筋線維芽細胞に対して機械的な刺激を与え、筋線維芽細胞の分化状態の維持に寄与する。すなわち、組織の硬化は筋線維芽細胞による細胞外マトリックスの産生を促進し、更なる線維化を誘導する。我々は、線維化を促進する新規分子を探索し、転写共役因子として知られてきたVestigial like family member 3(VGLL3)が線維化を促進する可能性を見出した。そこで本研究では、VGLL3の線維化における機能を解明することを目的に研究を行った。

 まず、心筋梗塞処置後の線維化したマウス心臓におけるVGLL3の発現細胞を検討した。その結果、VGLL3は線維化マウス心臓において筋線維芽細胞に強く発現しており、その他の血球系細胞や心筋細胞等には発現しないことが明らかになった。次に、実際にVGLL3が線維化関連因子の発現を促進する分子であるかを検討した。線維化マウス心臓から筋線維芽細胞を単離し、VGLL3のノックダウンを行い、線維化関連因子の発現を測定した結果、コラーゲンなどの線維化関連因子の発現が有意に抑制された。以上の結果から、VGLL3は線維化したマウス心臓の筋線維芽細胞において線維化関連因子の産生を促進することが明らかになった。

 線維化した硬い組織において、細胞はインテグリンなどの受容体を介してコラーゲン繊維等による細胞外の硬さ(機械的刺激)を感知し、細胞内にシグナルを伝え、細胞骨格の形成および線維化因子の産生を促進する。これまで、VGLL3と同じく、転写共役因子として知られたYAPやMRTF-Aは機械的刺激によって核移行することが知られている。このことから、VGLL3も機械的刺激を感知して核移行するのではないかと考えた。そこで、筋線維芽細胞を正常な組織の硬さを模した柔らかい(1kPa)プレート、あるいは線維化した組織の硬さを模した硬い(50kPa)プレートで培養し、VGLL3の細胞内局在を検討した。その結果、VGLL3は硬いプレートで培養すると核に局在する一方、柔らかいプレートで培養すると細胞質に局在した。従って、VGLL3は機械的刺激によって核移行することが明らかになった。

 次に、VGLL3の下流分子を同定するため、質量分析計を用いてVGLL3と相互作用する分子を網羅的に探索した。その結果、VGLL3は意外にも多くのRNA結合蛋白質と相互作用することが明らかとなった。これらRNA結合蛋白質の中には、液-液相分離によって形成される核内非膜オルガネラの一つであるパラスペックルの構成分子が多く含まれていた。そこで、パラスペックルのマーカー分子として知られるRNA結合蛋白質、NONOとVGLL3との共染色を行ったところ、VGLL3とNONOの局在がほぼ完全に一致した。すなわち、VGLL3は核内でパラスペックルに取り込まれる分子であることが明らかになった。興味深いことにVGLL3のアミノ酸配列を精査すると、特定の立体構造を持たない天然変性領域が存在していた。そこで、この天然変性領域に変異を入れたところ、VGLL3はパラスペックルへの局在が認められなくなった。すなわち、この天然変性領域がVGLL3のパラスペックル局在に重要であることが明らかとなった。

 質量分析によって同定したVGLL3と相互作用するRNA結合蛋白質の中で、VGLL3と同じく線維化を促進する分子を探索した結果、EWSR1が線維化因子の産生を促進することが明らかとなった。そしてさらにVGLL3とEWSR1は、コラーゲンmRNAを分解するmiR-29bの産生を抑制することで、コラーゲンの発現を促進することを見出した。

 最後に、VGLL3ノックアウト(KO)マウスを用いて、VGLL3の生体における線維化への寄与を検討した。その結果、VGLL3KOマウスにおいては野生型マウスの場合と比較して、心筋梗塞後の心臓の線維化、および心機能低下が有意に軽減していた。また、この結果と一致してVGLL3KOマウスの心筋梗塞後の心臓においては、miR-29bの発現が増加していた。以上の結果から、VGLL3は心臓においてmiR-29bの産生を抑制することで、線維化関連因子の発現を促進し、線維化病態を悪化させる分子であると考えられた。さらに、VGLL3の筋線維芽細胞特異的発現は、マウスのみならず、心筋梗塞患者の心臓においても認められた。また、心臓だけでなく、肝臓や腎臓においてもVGLL3の発現は線維化によって有意に増加した。

 本研究成果により、VGLL3は機械的刺激を感知して核移行し、パラスペックルにてEWSR1と相互作用し、miR-29bの産生を抑制することでコラーゲンの発現を促進することを初めて明らかにした。コラーゲン線維は、機械的刺激を生成することで、筋線維芽細胞によるコラーゲン産生を促進し、線維化のポジティブフィードバックループを形成している。本研究成果は、機械的刺激による線維化の増悪にVGLL3が関与していることを示した新しい知見である。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る