リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「手術侵襲がもたらす2型糖尿病モデルマウスの行動抑制と海馬のノルアドレナリン抑制」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

手術侵襲がもたらす2型糖尿病モデルマウスの行動抑制と海馬のノルアドレナリン抑制

Nishimura, Momoka 神戸大学

2020.03.25

概要

【背景】
近年、周術期に発⽣する精神神経学的合併症が問題視される中、そのリスク因⼦として、肥満、糖尿病、脂質代謝異常などが報告されている。糖尿病患者は 4 億 2500 万⼈に上り、その 90%以上が⾷事や⽣活習慣が原因とされる 2 型糖尿病患者である。糖尿病患者では、術後早期に、認知機能の悪化や精神疾患の進⾏、術後せん妄などが⾮糖尿病患者よりも⽣じやすいと⾔われている。しかし、糖尿病患者において、術後に精神神経学的な障害や⾏動変化が⽣じる病態機序については不明である。⼿術を受ける糖尿病患者がますます増加することを考えると、糖尿病患者における⼿術侵襲による精神神経学的な影響について調べることは重要である。

⼀⽅、神経伝達物質であるモノアミンは、覚醒、認知活動、情緒的な活動に重要であると報告されており、モノアミン系の障害はうつ病、情動障害、不安障害などの精神疾患と関連する。精神病理学的観点から、我々は神経伝達物質の障害が糖尿病患者における術後の⾏動変化や精神疾患と関連があるのではないかと仮説を⽴てた。

モノアミン系の中でも、ノルアドレナリンはストレス時の動態変化や予期せぬ状況での活性化が⽰唆されている。また、⻘斑核からの⽪質や海⾺へのノルアドレナリンの投射は注意⼒の調節にも深く関わっているとされる。動物モデルにおいて、海⾺のノルアドレナリンシグナルの増加は神経可塑性、シナプス可塑性、記憶の想起と関連すると⾔われる⼀⽅、海⾺のノルアドレナリン値の減少は不安、抑うつ、低活動性などとの関連が⽰唆されている。しかし、海⾺ノルアドレナリン系に対する⼿術侵襲が与える影響については不明である。

したがって、本研究では、糖尿病状態における周術期の⾏動変化と海⾺のノルアドレナリンに焦点を当て、2 型糖尿病モデルマウス(Type 2 diabetes mellitus; T2DM)を⽤いて、⼿術侵襲が術後の⾏動および海⾺のノルアドレナリンに与える影響について調べた。

【⽅法】
84 匹の 6 週齢の雄性 C57BL/6J マウスを 4 群(Non-DM 群、Non-DM ⼿術群、T2DM 群、T2DM ⼿術群)に分類した。T2DM は⾼脂肪⾷(High Fat Diet; HFD)を 8 週間摂⾷させることで作製し、体重と空腹時⾎糖値の推移の測定、腹腔内ブドウ糖負荷試験、HbA1c 測定を⾏った。14 週齢において、各群 15 匹のマウスに対して、オープンフィールド試験、新奇物体認識試験、明暗試験を含む⼀連の⾏動実験を施⾏した。⼿術群に対しては⾏動実験 24 時間前にセボフルランによる全⾝⿇酔下、開腹腸管操作⼿術を施⾏した。また、各群 6 匹のマウスに対して、⾼速液体クロマトグラフィーにより海⾺のノルアドレナリン濃度を測定した。統計は反復測定分散分析と Mann-Whitney U 検定を⽤いて⾏い、P値<0.05 未満を統計学的有意差ありとした。

【結果】
T2DM 群の体重は Non-DM 群と⽐較して有意に増加した(各群 n=12、 P<0.0001)。空腹時⾎糖値は T2DM 群では Non-DM 群と⽐較して有意に上昇した(各群 n=12, P<0.0001)。13 週齢で施⾏した腹腔内ブドウ糖負荷試験において、T2DM 群は Non-DM 群よりも有意に⾎糖値が上昇し、⾼⾎糖の遷延を認め(各群 n=12、P<0.0001)、HFD 摂⾷による耐糖能異常が⽰唆された。Hb♙1cも T2DM 群において、Non-DM 群よりも有意に⾼値であった(各群 n=10、 P=0.009)。

探索活動と認知機能を評価した新奇物体認識試験において、獲得試⾏での総探索時間が T2DM 群でNon-DM 群と⽐較して有意に増加した(P=0.001)。また、探索活動と不安を評価した明暗試験において、T2DM 群は Non-DM 群よりも有意に明暗箱の移動回数が増加した(P=0.043)。⼀⽅、⾃発活動と不安様⾏動を評価したオープンフィールド試験において、総運動距離と中⼼滞在時間は T2DM 群と Non-DM 群の間で有意な差を認めなかった。新奇物体認識試験でのテスト試⾏において、識別指数は T2DM 群、Non-DM 群の間で有意な差は認めず、本実験では認知機能障害は認めなかった。



⼿術侵襲による術後の⾏動変化を評価するため、開腹腸管操作⼿術 24 時間後に、同様の⼀連の⾏動試験を Non-DM ⼿術群および T2DM ⼿術群に対して施
⾏した。オープンフィールド試験において、T2DM ⼿術群では T2DM 群に⽐較して、総運動距離の有意な減少を認めたが(P=0.015)、Non-DM マウスではその変化は認めなかった。中⼼滞在時間は Non-DM ⼿術群でも T2DM ⼿術群でも術前に⽐較して有意に減少し(Non-DM 群 vs Non-DM ⼿術群:P=0.006、 T2DM 群 vs T2DM ⼿術群:P=0.006)、Non-DM マウス、T2DM マウスのいずれにおいても⼿術侵襲が不安様⾏動をもたらすことが⽰唆された。新奇物体認識試験の獲得試⾏において、T2DM ⼿術群は T2DM 群に⽐較して、総探索時間が有意に減少したが(P=0.009)、Non-DM マウスではその変化は認めなかった。また、明暗試験において、T2DM ⼿術群では T2DM 群に⽐較して、明暗箱の移動回数が有意に減少した(P=0.007)。⼀⽅、新奇物体認識試験のテスト試⾏では、Non-DM ⼿術群、T2DM ⼿術群いずれにおいても識別指数に有意な差は認めず、術後の認知機能障害は⽰唆されなかった。

⾼速液体クロマトグラフィーを⽤いた海⾺のノルアドレナリン解析では、術前に Non-DM 群と T2DM 群で海⾺のノルアドレナリンに有意な差は認めなかった。しかし、⼿術侵襲後である T2DM ⼿術群は T2DM 群に⽐較して、海⾺ノルアドレナリンが有意に減少した(P=0.015)。⼀⽅、この変化は Non-DM マウスでは認めなかった。

【考察】
本研究では 8 週間 HFD を摂⾷させた T2DM モデルマウスは新奇物体認識試験において探索活動が増加し、明暗試験において移動回数が増加した。術後には Non-DM 群と T2DM 群の間で有意な差は認めなかったが、T2DM マウスに焦点を当てると、術後には術前に⽐較して有意に活動が低下し、海⾺のノルアドレナリンが減少した。これらの知⾒から、⼿術侵襲が T2DM において⾏動と海⾺のノルアドレナリンに抑制的な影響を与えることが⽰唆された。

T2DM 群において、活動性が増加したことに関して、6 週齢の雄性のマウスに 2 週間 HFD を摂⾷させたモデルにおいて、同様に新奇物体認識試験で探索活動が増加したという報告がある。⼀⽅、HFD を 14 週間摂⾷させたアルビノマウスでは明暗試験で移動回数が減少したとの報告もあり、HFD の摂⾷期間の違いが⾏動変化の違いをもたらしたと考えた。抗不安薬投与により、明暗箱間の移動回数が増加すると報告されており、T2DM 群では不安が少ないことによって明暗試験での移動回数が増加したことが⽰唆された。

本研究において、開腹⼿術による⼿術侵襲は T2DM マウスにオープンフィールドでの総運動距離の減少、新奇物体認識試験での総探索時間の減少、明暗試験での移動回数の減少によって⽰される低活動性をもたらした。HFD 摂⾷モデルに対して⼿術侵襲を加えた報告で、15 ヶ⽉のマウスに 14 週間 HFD を摂⾷させたモデルにおいて、腓⾻⾻折内固定術後にオープンフィールド試験を施⾏したものがあり、総運動距離が減少しなかったとしている。この点に関して、⼿術侵襲の種類、HFD 摂⾷時期、マウスの週齢が異なっていた。不安様⾏動に関して、 T2DM も Non-DM マウスもいずれも⼿術侵襲後には術前に⽐較してオープンフィールド試験での中⼼滞在時間が減少し、いずれの群も術後に不安様⾏動が増加したことが⽰唆された。この結果は、16 ヶ⽉のラットに対して、脾臓摘出後に中⼼滞在時間が減少したとの報告と類似していた。また、不安によって明暗試験での移動回数が減少することが⾔われており、本研究結果から、T2DM マウスにおいて、⼿術侵襲がもたらした不安な状態が、各⾏動試験で術後の低活動性をもたらした可能性があると考えた。

本研究では⼿術侵襲により T2DM マウスにおいて術前に⽐較して術後に海⾺のノルアドレナリン濃度の減少を認めた。海⾺のノルアドレナリンに対する⼿術の影響に関して、嗅球切除術によるうつ病ラットで、⼿術 2 週間後に海⾺のノルアドレナリンが減少したとする報告がある。また、慢性的に予測不可能な軽度なストレスを 6 週間与えたマウスにおいて、海⾺のノルアドレナリンが減少したとの報告がある。これらの知⾒から、T2DM マウスにおいて、⼿術侵襲が海⾺のノルアドレナリン減少をもたらし、このことが T2DM マウスでの術後の⾏動抑制に関連している可能性があると考えた。

本研究にはいくつかの限界がある。第⼀に、実験に⽤いるマウスをできるだけ少なくするために、限られた期間に同⼀マウスに対して⼀連の⾏動評価を施⾏した。⾏動に関してさらに詳しく評価するためには、認知、不安、うつ様⾏動を評価するための他の試験も必要である。第⼆に、⼿術侵襲として開腹腸管操作⼿術を施⾏し、⾏動評価を 24 時間後に⾏ったが、実際の糖尿病患者における術後の⼿術侵襲を忠実に模倣したものではない。最後に、本研究では海⾺のノルアドレナリンに関するシグナルの増減に関しては観察できていない。よって、T2DMに対する⼿術侵襲が与える術後の⾏動変化と海⾺のノルアドレナリンの関連について証明するためには、更なる研究が必要である。

【結語】
8 週間 HFD を摂⾷させた T2DM モデルマウスが⾏動変化を⽰し、T2DM モデルマウスに対する⼿術侵襲が術後の低活動性と海⾺のノルアドレナリン減少をもたらした。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る