Long-term outcomes of lateral skull base reconstruction with a free omental flap and facial nerve reconstruction
概要
主論文の要旨
Long-term outcomes of lateral skull base
reconstruction with a free omental flap and facial
nerve reconstruction
顔面神経再建に着目した遊離大網弁を用いた
中頭蓋底再建術の長期成績
名古屋大学大学院医学系研究科
運動・形態外科学講座
総合医学専攻
形成外科学分野
(指導:亀井 讓
神戸 未来
教授)
【緒言】
側頭骨亜全摘術(STBR)や外側側頭骨切除術(LTBR)においての再建では、頭蓋底の
閉鎖と死腔の充填に加えて、顔面神経の合併切除があればその再建が必要になる。遊
離皮弁や有茎皮弁を用いて再建されるのが一般的であるが、顔面神経が切除された場
合は欠損底部を這わせるように再建せざるを得なかった(図 1)。これに対して我々は、
STBR や LTBR において、顔面神経が温存された場合は神経の周りを、顔面神経が切
除された場合は神経を最短経路で再建してその周りを血流の良い組織で充填するとい
う方針のもと遊離大網弁移植による再建術を考案した。本術式の提唱と術後合併症、
術後の顔面神経機能について調査した。
【対象および方法】
新しい術式を考案するテクニカルノート及び観察研究である。
手術手技
顔面神経が切除された場合は顔面神経近位断端が利用できる場合は直接縫合や神
経グラフトを用いて、顔面神経近位部断端が利用出来ない場合は舌下神経に直接縫合
や神経グラフトを用いて、いずれも最短経路となるように再建する。大網弁の栄養血
管を移植床血管に吻合して大網弁を欠損部に移植する。頭蓋底欠損部と顔面神経の裏
にできる死腔に大網弁の近位部を充填し、大網弁の遠位部で顔面神経の表を被覆する
(図 2)。皮膚欠損が生じた場合は直接縫合や皮膚移植を行って閉創する。
対象と方法
2005 年から 2017 年まで当院において STBR または LTBR に対して遊離大網弁移植
による即時再建術を施行し、術後 1 年以上の追跡ができた症例について、周術期合併
症と顔面神経の術後機能について診療録をもとに後向きに調査した。
過去に耳下腺切除歴または特発性顔面神経麻痺の既往歴がある患者は除外した。切
除は耳鼻科医と脳外科医の合同で行われた。硬膜欠損は原則生じないが、硬膜の脆弱
性がある場合はフィブリン糊や筋膜移植を用いて補強した。予防的な髄液ドレナージ
チューブの留置はしなかった。
術後合併症は診療録から調査し、顔面神経機能は、診療録と術後臨床所見、臨床写
真を元に術後 1 年以上経過した状態を柳原法と House-Brackmann 評価法を用いて評
価した。
倫理的配慮
本研究はヘルシンキ宣言に基づき人間を対象とする医学研究の倫理的原則を遵守
し、名古屋大学医学部附属病院倫理委員会の承認を受けて行われている。すべての共
同著者において本検討での利益相反はない。
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【結果】
16 症例が本研究の対象となった。女性 12 例、男性 4 例で平均年齢は 55.1 歳(32−77
歳)であった。16 例中 15 例で STBR、1 例で LTBR を受けた。5 例で術後放射線療法を
受けた。顔面神経は 14 例で切除されたため再建を行い、2 例で顔面神経は温存され
た。顔面神経の再建は、顔面神経近位端と遠位端を神経移植を用いて再建したものが
9 例、直接縫合したものが 1 例、舌下神経と顔面神経を神経移植を用いて再建したも
のが 2 例、直接縫合したしたものが 2 例であった。16 症例の臨床データ、切除および
再建手術を表 1 にまとめた。
遊離大網弁は全例で血流不全なく生着を得た。4 例で術後合併症を認め、そのうち
2 例は髄液漏を認めたが安静のみで軽快した。残り 2 例は軽微な創部合併症であった。
顔面神経機能は、柳原法で平均 19.6 点(6−40 点)と House-Brackmann 法で 3.60(1-6 点)
であった。術後合併症、顔面神経機能について表 2 にまとめた。
【考察】
STBR や LTBR に対する中頭蓋底再建では、髄液漏や髄膜炎を予防するために、血
流のある組織で硬膜を補強し、死腔を充填することが必要である。また顔面神経の走
行部位であるため温存されればより複雑な形状の欠損が生じ、切除された場合は神経
再建も考慮する必要がある。
従来の筋皮弁による中頭蓋底再建は、切除された顔面神経は長い神経グラフトを用
いて欠損の底面を這わせるように再建して、その上に筋皮弁を充填する方法である(図
1)。顔面神経が温存されたり、最短経路で再建された場合は、宙吊りとなった神経の
周りを筋皮弁で充填するには欠損が複雑であり難しい術式である。
我々が考案した術式の利点は、従来の中頭蓋底再建に加えて、顔面神経を最短経路
で再建できることである。大網は一般的な筋皮弁とは異なり、血管解剖に応じて自由
に分割することができるため、側頭下窩や中頭蓋底の複雑な欠損や、最短距離で再建
されたり、温存された顔面神経の周囲に隙間なく充填できるというメリットがある。
術後の顔面神経機能については柳原法で平均 19.6 点、House-Brackmann 評価法で
3.6 点であった。結果にばらつきがあるが、顔面神経の切除範囲の違い、術前の顔面神
経麻痺などの影響を受けるため生じたと考えらる。また現状の評価方法自体にも問題
があると考える。特に柳原法では顔面の各部位の意図的な動きを健側と比較すること
により評価するため、顔面を動かせるようになったとしても対側と同じような意図下
で動かせなければ点数は低くなる。これらの理由により、本研究での対象において標
準化した顔面機能評価をするのは不可能である考える。
従来の再建方法による報告では、術後の合併症は 0-35%と報告されている。我々の
自術式による方向では術後合併症は 25%であり、従来の中頭蓋底再建術式と遜色ない
成績である。
大網は様々な組織増殖因子の産生能があり、大網そのものが神経再生に寄与する可
能性がある。一方、大網が悪性腫瘍の進行に関連する可能性もある。過去に我々は髄
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膜腫術後の頭蓋形成術に遊離大網弁を用いた後に、髄膜腫の悪性転化を呈した症例を
報告している。今回の対象群において局所再発は生じていないが、注意深い経過観察
が必要である。
本研究の limitation は 2 点ある。1 つは後向きの観察研究という点、もう 1 つは術後
の顔面神経機能について、従来の筋皮弁術と我々が考案した術式を比較ししたもので
はない点である。しかし、本術式は中頭蓋底再建における新しい概念で、顔面神経が
温存された場合のみならず、顔面神経が切除された場合に最短経路で神経再建が出来
る術式であり、中頭蓋底再建において術後の顔面神経機能に着目した初めての報告で
あることに意義がある。
【結語】
遊離大網弁を用いた中頭蓋底再建における新しい術式を報告した。
本術式は、大網弁を用いることで、中頭蓋底の複雑な形状を再建するだけでなく、
顔面神経が切除された場合には神経を最短経路で再建を可能とする術式である。
従来の術式と比較して術後合併症の発生率は遜色なく、術後の顔面神経機能につい
て調査した初めての報告である。
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表1.症例一覧と再建方法
Postoperative
Preoperative
UICC TNM
Age
Sex
Primary lesion
Follow-up
Facial nerve reconstruction
facial nerve
Classification
(years)
Facial nerve
Type of temporal
Histopathology
period (months)
defect
bone resection
(Gy)
paralysis
Case 1
32
F
Temporal bone
Case 2
56
F
External auditory canal
Chondroblastoma
radiation therapy
N/A
STBR
-
-
Intact
N/A
26
T3N0M0
STBR
-
+
Sural nerve graft
N/A
74
Squamous cell
carcinoma
Case 3
74
M
External auditory canal
Squamous cell carcinoma
T3N0M0
STBR
-
+
Hypoglossal-facial nerve anastomoses
60
24
Case 4
73
M
Parotid gland
Adenocarcinoma
T4bN1M0
STBR
-
+
Sural nerve graft
40
84
Case 5
63
M
Parotid gland
Adenocystic carcinoma
T4N0M0
STBR
+
+
Sural nerve graft
60
132
Case 6
62
M
Mandibular bone
N/A
LTSR
-
+
Direct suture
N/A
105
Giant cell reparative
granuloma
Case 7
56
F
Parotid gland
Squamous cell carcinoma
T4aN1M0
STBR
+
+
Sural nerve graft
60
48
Case 8
42
F
External auditory canal
Squamous cell carcinoma
T2N1M0
STBR
-
+
Sural nerve graft
N/A
128
Case 9
34
F
External auditory canal
Squamous cell carcinoma
T2N0M0
STBR
-
+
Sural nerve graft
N/A
92
Case 10
43
F
External auditory canal
Squamous cell carcinoma
T2N1M0
STBR
-
+
Sural nerve graft
N/A
71
Case 11
77
F
External auditory canal
Squamous cell carcinoma
T4N0M0
STBR
-
+
Sural nerve graft
N/A
13
Case 12
43
F
External auditory canal
Squamous cell carcinoma
T4N0M0
STBR
-
+
N/A
13
N/A
19
Great auricular nerve graft +
Hypoglossal-facial nerve anastomoses
Case 13
61
F
External auditory canal
Squamous cell carcinoma
T3N1M0
Great auricular nerve graft +
STBR
-
+
Hypoglossal-facial nerve anastomoses
Case 14
60
F
External auditory canal
Squamous cell carcinoma
T3N0M0
STBR
-
+
Great auricular nerve graft
N/A
23
Case 15
49
F
Temporal bone
Chondroblastoma
N/A
STBR
-
-
Intact
N/A
30
Case 16
57
F
External auditory canal
Squamous cell carcinoma
T4N0M0
STBR
-
+
Hypoglossal-facial nerve anastomoses
60
33
UICC = The Union for International Cancer Control, STBR = subtotal temporal bone resection, LTBR = lateral temporal bone resection
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表2.術後合併症と顔面神経機能
Wound complication
Facial nerve recovery: Yanagihara Score
Facial nerve recovery: H-B GS
Survival status
Case 1
-
38
1
Disease-free survival
Case 2
CSF leakage
26
2
Disease-free survival
Case 3
-
22
3
Disease-free survival
Case 4
-
6
5
Disease-free survival
Case 5
-
6
6
Survival with liver and lung metastases
Case 6
-
20
4
Disease-free survival
Case 7
Partial necrosis of temporal muscle and omental flap
24
3
Disease-free survival
Case 8
CSF leakage
26
2
Disease-free survival
Case 9
-
14
5
Disease-free survival
Case 10
Partial necrosis of temporal muscle
14
5
Disease-free survival
Case 11
-
16
4
Disease-free survival
Case 12
-
6
5
Disease-free survival
-
18
4
Disease-free survival
Case 14
-
20
4
Disease-free survival
Case 15
-
40
1
Disease-free survival
Case 16
-
18
4
Disease-free survival
Case 13
CSF leakage = Cerebrospinal fluid leakage, H-B GS = House-Brackmann grading system
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図1.
Lateral skull base reconstruction with a standard musculocutaneous flap.
a The standard musculocutaneous flap is transferred after the facial nerve is reconstructed.
b The facial nerve is reconstructed with a nerve graft running along the floor of the defect in an indirect pathway.
図2. Lateral skull base reconstruction with an omental flap.
a The omental flap is transferred and the deep space is filled with the proximal part of the omental flap. Then, the facial
nerve is reconstructed with a nerve graft or other methods.
b The distal part of the omental flap is turned and used to sandwich the reconstructed nerve.
c The facial nerve is reconstructed in the shortest distance.
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