Breast reconstruction using free medial circumflex artery perforator flaps: intraoperative anatomic study and clinical results
概要
[序論]
乳房再建手術は乳癌患者の増加とともに徐々に普及してきており,乳癌治療の一部として欠かせない要素となりつつある.古くは広背筋皮弁に代表される有茎皮弁による再建から始まり,1976 年に Fujino et al.が上殿部の遊離皮弁(free superior gluteal flap)による乳房再建を報告し,以降さまざまな遊離皮弁による再建方法が報告されてきた.
一方で大腿内側領域において薄筋皮弁は縦軸型の有茎皮弁として,おもに会陰部の組織欠損に使用されてきた.1992 年に Yousif et al.は大腿内側の血行が横軸型であることを報告し,薄筋の筋体上に横軸型の皮島を置いた横軸型薄筋皮弁(transverse gracilis musculocutaneous flap)による乳房再建を行った.さらに穿通枝皮弁法の発展にともない, 2002 年にはPeek et al.が薄筋の栄養血管である大腿内側回旋動脈穿通枝(medial circumflex femoral artery perforator: MCFA perforator)を血管柄とした大腿内側回旋動脈穿通枝皮弁(medial circumflex femoral artery perforator flap: MCFAp flap)による乳房再建を報告した.
当施設では 2006 年より,大腿内側に横軸型皮島をおいた遊離穿通枝皮弁による乳房再建を行っており,MCFA perforator または後内側大腿穿通枝(posterior medial thigh perforator: PMT perforator)を血管柄としている.後者については,2014 年に後内側大腿穿通枝皮弁(posterior medial thigh perforator flap: PMTp flap)として Satake et al.が報告し,さらに今回は MCFAp flap について,術中所見による穿通枝の解剖学的評価と臨床例の検討を行った.
[対象と方法]
2006 年 6 月から 2015 年 5 月まで,98 名 102 乳房に対し大腿内側からの遊離穿通枝皮弁による乳房再建を行い,そのうち MCFAp flap による再建を行った 14 名 15 乳房について症例および皮弁の臨床的検討を行った.
また 2010 年 7 月から 2015 年 5 月まで,大腿内側からの遊離穿通枝皮弁による乳房再建を行った 53 名 55 皮弁について,大腿近位 1/3 における径 0.5mm 以上の MCFA perforator について評価を行った.皮弁挙上時にこれを同定し,穿通枝の数,局在,大腿基部からの距離を記録した.
[結果]
MCFAp flap による再建を行った 14 名 15 乳房のうち,一次再建が 10 例,二次再建が 5 例であった.患者のBMI は平均 19.3,A~B cup の小ぶりな乳房であった.全例で皮弁は生着し,外科的修正を要する合併症を認めなかった.採取部の合併症として 3 例に漿液腫を認めたが,保存治療で軽快した.皮弁については,4 例で同側から,10 例で対側から,1 例は両側からの連合皮弁として採取した.皮弁採取量は平均 202g,最終的な皮弁移植量は平均 177g であった.血管柄長は平均 4.5cm,吻合部の動脈血管径は平均 1.64mm,静脈血管径は平均 1.65mm であった.血管柄として皮弁に含めた穿通枝の局在は薄筋と大内転筋および長内転筋と薄筋の筋間中隔穿通枝が多く,続いて薄筋の筋体内穿通枝であった.
大腿内側からの遊離穿通枝皮弁による乳房再建を行った 53 名 55 皮弁について,術中に同定した大腿内側近位 1/3 におけるMCFA perforator の総数は 131 本,1 大腿につき平均 2.4本であった.渉猟された 0.5mm 以上の全穿通枝の局在については薄筋の筋体内穿通枝が最も多く,全穿通枝の 80.2%を占めた.続いて長内転筋と薄筋の筋間中隔穿通枝,薄筋と大内転筋の筋間中隔穿通枝,長内転筋の筋体内穿通枝であった.平均的な穿通部位(perforating point)は大腿基部から 6.8cm であった.
[考察]
日本人女性に多くみられる小柄でやせ型かつ乳房が小ぶりな患者では,従来広背筋皮弁による乳房再建が行われることが多かったが,筋力低下などの採取部の合併症や,筋委縮による再建乳房の萎縮,不随意運動といった問題点が指摘されている.一方でインプラントは小ぶりなサイズのものが少なく,健側との対称性を再現しにくいことがあり,脂肪注入法はまだ治療のプロトコールが確立されていない.
そこで注目されるのが大腿内側からの遊離穿通枝皮弁法である.もともと筋体を含んだ 筋皮弁としては,横軸型薄筋皮弁(transverse musculocutaneous gracilis flap: TMG flap あるいは transverse upper gracilis flap: TUG flap)が欧米では頻用されているが(Arnez et al.,2004),筋体を温存した穿通枝皮弁はより侵襲が少なく望ましい.たとえやせ型の患者であっても,大腿内側から後面にはある程度厚みのある皮下脂肪があることが多く,採取部の機能的な 犠牲が少ないこと,瘢痕が目立ちにくいことなどのメリットがある.
この領域から皮弁を採取するにあたり 2 種類の穿通枝が存在し,ひとつは大腿深動静脈の主枝である大腿内側回旋動静脈からの穿通枝である.その後方に大腿深動静脈から直接派生する穿通枝が存在し,それぞれを血管柄として 2 種類の穿通枝皮弁を挙上することができる.前者が MCFAp flap,後者が PMTp flap である.多くの場合は PMT perforator の方が優位であるが,今回の検討では 15%において MCFA perforator が優位であり,常に 2 種類を比較した上で血管柄を選択する必要がある.
MCFAp flap として採取する利点はPMTp flap に比べて挙上や乳房マウンドの設置が容易なことである.また PMT perforator が優位であっても,MCFA perforator をバックアップ血管として皮弁内に温存することは非常に有用である.