医療用麻薬廃棄の現状および廃棄削減に関する研究
概要
九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
医療用麻薬廃棄の現状および廃棄削減に関する研究
太田, 麻美
https://hdl.handle.net/2324/6787551
出版情報:Kyushu University, 2022, 博士(臨床薬学), 課程博士
バージョン:
権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (3)
(様式5)
氏
名
:太田麻美
論文題名
:医療用麻薬廃棄の現状および廃棄削減に関する研究
区
:薬学府・臨床薬学・甲
分
論
文
内
容
の
要
旨
日本人の死因は、昭和 56 年(1981 年)より「がん」が死因の第 1 位であり 8)、生涯のうち
に、約 2 人に 1 人が罹患すると推計されている。がん治療の進展は目覚ましく、手術療法や放射
線療法、薬物療法、免疫療法、ゲノム療法など様々な治療法が取り入れられているが、患者の QOL
向上のため、こうした治療法と並行して、医療用麻薬を用いたがんの痛みに対する緩和が積極的
に取り入れられるようになった。医療用麻薬は、麻薬及び向精神薬取締法の規制をうけるため、
その保管や管理、廃棄に際して非常に煩雑な手続きを要するが、一方で、医療機関や薬局におい
ては期限が切れた、または患者から返納された麻薬を廃棄せざるを得ない場合があり、その廃棄
量は増大している 13-14)。
本研究では、医療用麻薬の廃棄量を分析するとともに、小包装化が医療用麻薬の廃棄量削減
に寄与するのかを調査し、評価を行った。
第 1 章では、熊本市内の医療機関及び薬局における麻薬廃棄量を調査し、麻薬廃棄量の現状
について検証した。熊本市内の医療機関及び薬局で廃棄された医療用麻薬は 2018 年度 12,688,133
円、2019 年度には 14,156,882 円であった。廃棄となった理由としては、死亡・転院(家族等から
の返却・廃棄依頼)や未調剤(期限切れ・業務廃止・閉局)などの理由が多かった。医療機関お
よび薬局とも未調剤(期限切れ・業務廃止・閉局)による場合が最も多く、医療機関においては
症状変化(増量、経口投与困難、薬剤・剤形変更)による廃棄も大きな割合を占めていた。廃棄
理由のうち、死亡・転院(家族等からの返却・廃棄依頼)による廃棄は、医療機関および薬局と
もオキノーム®散やオプソ®内服液などの臨時追加投与(レスキュー・ドーズ)で施用される医療
用麻薬の廃棄が多く、残薬として自宅等に保管される傾向がある可能性が考えられた。他都道府
県でも同様に麻薬が廃棄されているのであれば、年間 7 億円超の麻薬が廃棄されているのではな
いかと考えられた。
第 2 章では、熊本市及び福岡市の薬局における麻薬廃棄量の調査を行い、広域的な麻薬廃棄
量の現状について評価した。薬局から廃棄された医療用麻薬は、福岡市及び熊本市とも、品目な
どに大きな差異は見られず、2 年間で廃棄された金額は福岡市で 4,671,915 円、熊本市で 8,873,329
1
円であった。廃棄された理由についても、第 1 章の熊本市と同じであり差異はなく、全国的にも
同じような状況が見られるのではないかと推察された。
第 3 章では、小包装化による麻薬廃棄量の削減について、シミュレーションを行った。MSコ
ンチン®錠、MSコンチン®錠 10 ㎎、アブストラル®舌下錠 200 ㎍、アンペック®坐剤 10 ㎎にお
いて、小包装化を行うことで麻薬廃棄量が有意に減少し、小包装化による麻薬廃棄量の削減が推
察された。一方、MSコンチン®錠 30 ㎎においては、50 錠包装や 20 錠包装それぞれの小包装化
の場合は有意な廃棄量の削減は見られなかった。したがって、小包装化に際しては、麻薬廃棄量
の現状を把握し、小包装化を追加することによるコストなども考慮して実施することが望ましい
と推察された。
本研究は、熊本市及び福岡市の医療用麻薬の廃棄状況を明らかにするとともに、医療用麻薬
の小包装化が廃棄量の削減の一助となることを明らかにした。
医療用麻薬は、麻薬及び向精神薬取締法の規制により、その保管や管理が厳しく規制されて
いる。厚生労働大臣の許可がなければ返品ができず、不動在庫となった場合も一定の要件をクリ
アしなければ他の麻薬取扱施設に譲渡することもできないため、期限がきれた、また患者から返
納された麻薬は廃棄せざるを得ず、医療用麻薬の品目数が増えるとともに、その年間の廃棄量は
年々増加している。
これまでに、麻薬小売業者間譲渡に関して麻薬及び向精神薬取締法の規制緩和も進んでいるが
麻薬廃棄量の大幅な削減にはつながっておらず、本研究により麻薬廃棄の現状を明らかにし、シ
ミュレーションを一手法として取り入れることで、医薬品製造に係るコスト増と麻薬廃棄量削減
効果を検証することができるものと考える。さらに、こうした小包装化による麻薬廃棄量の削減
効果について医薬品製造販売業者や国に働きかけることで、不動在庫の削減、医療機関や薬局に
おける発注コントロールにつながり、ひいては医療費の削減につながるものと考えらえる。
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