飯田下伊那薬剤師会におけるコロナ処方箋の対応について
概要
Shinshu Journal of Public Health Vol. 18 No. 1, August 2023
飯田下伊那薬剤師会におけるコロナ処方箋の対応について
06-3
奥村哲永 (ともえ伊賀良薬局)
キーワード: 経口治療薬、ラゲブリオ、対応薬局
要旨:新型コロナウイルス感染症の治療薬が国内で実用化された場合は、新たな治療の選択肢が増え
ることが期待される。自宅療養者に適切かつ迅速に必要な治療薬を提供できるよう対応薬局をあら
かじめリスト化して経口治療薬を配備する体制を整備する必要がある。当地域では、4 薬局を対応薬
局として整備。経口治療薬ラゲブリオ発売に伴いラゲブリオ対応薬局 13 薬局に拡大。そんな中、処
方医へのリアルタイムな在庫状況の報告を開始。報告内容は、医師会ホームページにアップされる。
2022 年 1 月から 9 月までの処方実績は累計で 1059 名となっている。
A.目的
ゲブリオ対応薬局の内、供給の役割を担う薬局で
2021 年 11 月 9 日、厚労省の新型コロナウイル
は、ラゲブリオの在庫上限が 10 個に引き上げられ
ス感染症対策推進本部から、薬局における新型
た。それ以外の薬局ではこれまで同様に、3 個であ
コロナウイルス感染症経口治療薬の配分に関わ
った。
る医薬品提供体制の整備の指針が示された。
その様な状況下で、現場からは、リアルタイムな
今後、新型コロナウイルス感染症の新たな経
在庫情報を伝える必要性が叫ばれた。
口治療薬が国内で実用化されれば、新たな治療
そこで、2022 年 2 月 3 日から一般流通が開始さ
の選択肢の拡大が期待される。
れる 2022 年 9 月 16 日まで毎日医師会の事務局に
その際供給量が限られる場合には、安定供給
在庫報告を行った。報告の内容は医師会ホームペー
が可能になるまで一般流通は行わず厚労省が所
ジにアップされた。
有し、医療機関の処方に基づき必要な患者に配
C.結果
分することが想定される。
北部地域を担当したある薬剤師の対応について
特に自宅療養者に対して、外来診療後に院外
紹介する。
処方として処方される場合、対象患者に適切か
2022 年 1 月からラゲブリオの処方が出始めた。
つ迅速に必要な治療薬を提供できるよう地域の
医療機関からは電話で事前に配達対応可能かの確
医師会、薬剤師会、医薬品卸業者等と連携の上、
認があり。
地域において供給に係る薬局(対応薬局)をあ
その後 FAX にて処方箋、患者情報、適格性情
らかじめリスト化し経口治療薬を供給する体制
報、チェックリストが送信される。
を整備する必要がある。
チェックリストを確認後、患者さんと連絡を取り、
B.方法
ヒアリングを行い何時頃届けに行くかを伝え、閉局
当地域では、2021 年 11 月。4 薬局を対応薬局と
後に患者宅を訪問、対面不可のため薬を玄関先に
して整備。2021 年 12 月に経口治療薬モルヌビラビ
置き、車に戻ってから電話連絡にて薬を確認しても
ル(ラケブリオ カプセル 200 ㎎、以下ラゲブリオ
らい 服薬指導を行うという形をとった。
とする)が発売となった。
翌日ラゲブリオ登録センターに必要事項を入力す
それに伴い対応薬局が当初の 4 薬局から 13 薬局
るほか、ラゲブリオ処方にあたっての適格性情報調
に拡大。ただし各薬局の備蓄上限は 3 個までと定
査の報告、配送などの実地状況については県薬剤
められていた。
師会に報告を行った。
当初 4 つの対応薬局の薬剤師は、処方箋を応需
当初、薬局の在庫数は 3 個が上限である上、薬
してから患者さん宅に薬剤を配達する上で様々な困
局間の貸し借りもできないなかで苦慮したのがある
難があった。
施設でのクラスター対応である。毎日複数名の処方
令和 4 年 2 月 28 日、厚労省からの通達にて、ラ
が出るため、すぐに在庫が足りなくなった。医師に
®
88
信州公衆衛生雑誌 Vol. 18 No. 1, August 2023
Shinshu Journal of Public Health Vol. 18 No. 1, August 2023
確認の上、その方の当日と翌朝の 2 回分はすでに交
れて本当にありがたく思っている。』
付した他の方の分を服用してもらい、納品されしだ
医師会の先生方からこの様な言葉を頂けた事で、
い不足分を届けるという対応が数日続いた。
薬剤師としての役割を果たせたのではないかと感じ
対応薬局が少ないため、大鹿村まで往復 1 時間
ている。
半かけて配達したこともあった。 準備が整うのは多
コロナ禍における薬剤師業務として貴重な体験を
くの場合、夕方以降になるため、辺りは暗くナビと
する事が出来た。
マップを頼りに探しても辿り着くのが困難だった。た
その後、ゴールデンウィーク前に対応薬局は 14
とえ地図上の目的に着いたとしても表札がなく、家
薬局に増え一般流通が開始される令和4年 9 月 16
の特定に時間を有する事例が多かった。
日までには 15 薬局の対応薬局でラゲブリオの処方
ある時患者さんが目印に車種とナンバーを教えて
箋応需。
くださった時は、すぐに家がわかりその後の対応に
E.まとめ
大いに活かされた。
現在、飯田下伊那地区保険薬局 51 薬局がラゲブ
図表の通り令和 4 年 1 月から 9 月までの各対応
リオを備蓄している。
薬局の調剤実績は、累計で 1059 名。
(図表参照)
今後も当地域の新型コロナウイルス感染者に対し
表からもわかるとおり 8 月にピークが見られる。同
て治療薬の安定供給を図り、安心安全な薬物療法
時に薬局のコロナ対応も多忙を極めた。
のため飯田市下伊那薬剤師会としてその薬剤師職能
D.考察
を発揮していきたい。
『地域で在庫出来る数が限られている上、施設な
F.利益相反
どのクラスターも発生し続けている状況下で、治療
利益相反なし。
薬の数量を把握できるのは医師会(登録医)として
G.文献
大変ありがたく感じている。』
記載事項なし。
演題番号06-3
『処方した際、薬局側が大変丁寧な対応をしてく
図表:令和 4 年 1 月から 9 月までの各対応薬局の
図表:令和4年1月から9月までの各対応薬局の調剤実績
調剤実績
国購入品
1月
2月
A薬局
10
B薬局
20
C薬局
2
3月
10
5月
2
9
D薬局
E薬局
4月
16
7
6月
7月
8月
9月
9/16開局
時在庫
合計
9
2
15
65
10
113
10
9
9
1
24
81
7
167
20
3
2
13
14
34
5
3
17
17
42
4
26
55
13
162
20
10
11
7
32
9
1
4
20
9
9
4
F薬局
3
G薬局
1
6
10
8
2
18
48
17
110
9
9
4
2
2
1
5
42
3
70
10
I薬局
12
7
12
31
32
94
13
J薬局
3
6
12
32
8
62
9
1
6
23
35
6
73
20
1
3
2
20
10
38
10
2
13
1
6
21
44
10
3
7
2
12
4
6
6
14
159
1059
167
2
H薬局
1
2
K薬局
2
L薬局
1
M薬局
1
N薬局
O薬局
合 計
44
40
43
57
74
89
11
167
464
信州公衆衛生雑誌 Vol. 18 No. ...