酸化亜鉛系透明導電膜の熱処理による特性変化に関する研究
概要
本論文は、高伝導性を有した Ga 添加 ZnO(GZO)膜の作製の対する課題として、アニールによる膜内の亜鉛、及び、酸素の拡散が特性に及ぼす影響をまとめたものである。第 1 章には透明導電体の特徴、及び、代表的な材料の特性について述べている。また、現在まで ZnO 系透明導電膜の研究内容と課題を提起した。第 2 章では、本研究における試料の作製方法および、試料の評価方法について述べた。第 3 章では、GZO 膜の特性のアニール時間依存性を調べた。GZO 膜はアニールすることで、移動度が向上する一方で、400 ºC 以上で膜内から亜鉛が脱離することが知られおり、アクセプター性欠陥が増加することでキャリア密度が減少すると考えられているが、未だに解明されていない。また同様に、酸素の脱離の影響も不明である。そこで、本章では、アニール時間をパラメータとし、アニール後に特性を評価することで、亜鉛、及び、酸素の脱離過程における特性の評価を行なった。大気アニール処理を施し酸素を取り込んだ GZO 膜は、真空アニールによって、キャリア密度と移動度は大幅に回復し、電気抵抗率も低下した。また、キャリア密度は、大気アニール前の値まで回復することはなかったが、移動度は大気アニール前の 2.8倍程度まで向上した。酸素の脱離により、電気特性が大幅に変化した一方で、結晶特性に変化は見られなかった。このことから、大気アニールによって取り込んだ酸素は、粒内に入らずに、粒界に偏在している可能性が高いことを明らかにした。また。粒界の取り込んだ酸素が GZO 膜の移動度を大きく向上させる効果があると考えられる。膜からの亜鉛の脱離による GZO 膜の特性の変化は、アニール時間が長くなるにつれて、キャリア密度は減少し、c 軸長は収縮することがわかった。このことから、亜鉛の脱離によって、アクセプター性の欠陥が増加することで、キャリア密度が減少することが、GZO 膜の電気抵抗率の上昇の要因であることを明確化した。第 4章では、アニール時間に依存して亜鉛が脱離し、キャリア密度が減少するため、アニール時間が極端に短いフラッシュランプアニール(FLA)法とラピッドサーマルアニール(RTA)法の 2 つのアニール手法を用いて ZnO 系透明導電膜に熱処理を施した。FLA 法は、試料に光を照射し、光を吸収させることで加熱する手法であり、RTA 法は、従来の電気炉で昇温速度を5 倍程度まで早め、目的のアニール温度で保持する時間を短くする手法である。どちらの手法も、アニールが短時間であるため、アニール後においても、高いキャリア密度を維持し、従来よりも低い電気抵抗率である膜の作製に成功した。FLA 法を用いてアニールを施した GZO 膜は、アニール時間が長くなるにつれてキャリア密度は増加し続ける結果となった。これは、アニール時間が極短時間であるため、膜から亜鉛が脱離しない為だと考えられる。第 5 章では、GZO 膜中に Zn 富化層を挿入して、アニールを施すことで亜鉛由来の欠陥を制御することを目的とした。実際に、Zn 富化層を挿入した GZO 膜の高温でのアニール後は、Zn 層の影響でキャリア密度が増加し、電気抵抗率は低下した。また、マグネトロンスパッタリング法における問題点の1つであるエロージョン位置で作製した GZO 膜の電気特性の悪化は、Zn 富化層を挿入し、アニールを施すことで、中心位置と同程度の電気特性を示すようになった。Zn 富化層により、マグネトロンスパッタリング法の基板位置における特性の分布を均一化することが成功した。また、Zn 層挿入した GZO 膜の透過率はアニール後に向上していることから、Zn 層は膜内で拡散したことがわかった。