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大学・研究所にある論文を検索できる 「新規 HIV-1 integrase-LEDGF/p75 allosteric inhibitors の探索合成研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

新規 HIV-1 integrase-LEDGF/p75 allosteric inhibitors の探索合成研究

杉山, 修一 東京大学 DOI:10.15083/0002008288

2023.12.27

概要

審査の結果の要旨
⽒名

杉⼭

修⼀

杉⼭ 修⼀は「新規 HIV-1 integrase-LEDGF/p75 allosteric inhibitors の探索合成研究」を論⽂
題⽬とし、以下の研究をおこなった。

HIV (human immunodeficiency virus)はレトロウイルスに分類され,主に CD4 陽性 T リンパ
球とマクロファージ系の細胞に感染する.感染初期にはウイルス⾎症になり,発疹,発熱,リン
パ節腫脹等の急性症状が現れる.その後免疫反応によってウイルスは減少するが,完全には排除
できず免疫系とウイルスの増殖が拮抗し,慢性感染状態へと移⾏する.HIV は薬の飲み忘れ等
のアドヒアランス不良により容易に耐性変異が起こる.⼀度耐性変異が⼊ってしまうと今まで
使⽤していた薬の効果が減弱するため、薬の変更を余儀なくされ,治療レジメンの幅が狭くなっ
ていく.使⽤できる薬がない状態を避けるためにも新規メカニズムの薬は依然求められており,
その探索研究が盛んに⾏われている.
そこで私は新規メカニズムである INLAIs (HIV-1 integrase
LEDGF/p75 allosteric inhibitors)に着⽬し,研究に取り組むことにした.
この INLAIs は⾮常に多くの研究機関が特許を出願しており,詳細な SAR (structure-activity
relationship)研究を⾏うために、独⾃の⾻格の創出および、他の化合物との差別化を狙った新規
ファーマコフォアの獲得を本研究の⽬的とし研究を⾏った.さらに臨床試験に進んだ化合物で
ある BI 224436 と⽐較して,より強⼒な抗ウイルス活性を⽰す化合物を⾒出すことも⽬的とし
た(図1)


図1.BI 224436 の構造
1. ベンゼン⾻格を有する新規 INLAIs の創出
BI 224436 の構造を⾒て分かるように,部分構造としてピリジン環と t -ブトキシ酢酸ユニッ

トを有している(図1).t -ブトキシ酢酸ユニットは報告されている化合物ほぼ全てに共通する

構造で必須のファーマコフォアだと考えられる.杉⼭は,中⼼⾻格としてピリジン環が多く⽤い
られていることに気づいた.このピリジン環を他の環に変換することによって,他の化合物との
差別化した独⾃の⾻格の創出と詳細な SAR 研究ができるのではないかと考え,INLAIs に共通
する構造である t -ブトキシ酢酸ユニットが置換したピリジン 5 を基に新規⾻格をデザインした
(図 2).先述したように t -ブトキシ酢酸ユニットはおそらく活性発現に必須の構造であると考え
られるのでそのまま残し,⺟核のピリジンを変換することを考えた.その際,ピリジン環では下
⽅向に置換基が伸ばせないことに着⽬し,その⽅向に置換基が伸ばすことができるベンゼン⾻
格を考案した.また窒素原⼦は環外に出し,アニリンにすることで,置換基修飾が容易になり
SAR を⾏いやすくなると考え,新規ベンゼン⾻格 6 を考案した.他の研究機関の⾻格において,
⺟核の 1 位から置換基を伸ばしているものはほとんどなく,新たなファーマコフォアをこの領
域で獲得できるチャンスがあると考えた.

図2.新規ベンゼン⾻格のデザイン
表1に置換基 R1 の最適化を⽰した.アニリン 17 が良好な活性(EC50 = 27 nM)を⽰したが,
置換基の脂溶性が上がるに従って活性が低下する傾向があった (20a, 20b).また Ms 体 22g がベ
ストの活性(EC50 = 11 nM)を⽰したことから,⽔素結合アクセプターが重要ではないかと考察
した.また活性と細胞毒性の乖離は⼗分であった (100 倍程度).
次に置換基 R1 を Ms 基に固定して,置換基 R2 の最適化を⾏った (表2).無置換のベンゼン
34a は EC50 = 34 nM を⽰したが,パラ位に Cl 基を導⼊した 34b では活性が 3 倍向上した.こ

のことから,パラ位の置換基が活性に重要だという事が分かった.また⼆置換ベンゼン 34c が活
性を維持したことから,2環性の置換基を導⼊した.クロマン 34g は 34c と同程度の活性を⽰
した.この化合物 34g は異性化が早いアトロプアイソマーのため分離ができず,混合物として
評価した.そこで,回転を制御するためにオルト位に Me 基を導⼊した化合物 34h を合成した.
34h は⾮常に強い活性 (EC50 = 3.9 nM)を⽰した.

図3に化合物 34d と IN-CCD の共結晶構造を⽰した.
他の INLAIs と同様にカルボン酸が INCCD の E170, H171 の主鎖と⽔素結合を形成していることが分かった.更に 1 位から伸⻑した
Ms 基がグルタミン酸(Q95)との相互作⽤を獲得し新たなファーマコフォアを創出した.この
相互作⽤は,INLAIs で良く⽤いられているピリジン⾻格では直接狙う事の出来ない相互作⽤で
あり,新たな知⾒である.

表1.置換基 R1 の最適化

表2.置換基 R2 の最適化

MT-4/MTT

MT-4/MTT

NL432 : EC50

CC50

(nM)

(nM)

17

27 ± 4.1

12000 ±130

20a

31 ± 8.1

8800 ± 280

Cmpd.

1

R

20b

480 ± 130

4000 ± 190

22g

11 ± 0.5

15000 ± 650

22h

29 ± 6.6

11000 ± 1100

22i

33 ± 10

11000 ± 1200

MT-4/MTT

MT-4/MTT

NL432 :EC50

CC50

(nM)

(nM)

34a

34 ± 4.0

>50000

34b

11 ± 2.9

26000 ± 610

34c

26 ± 3.7

22000 ± 3000

34d

330 ± 12

42000 ± 12000

34g

22 ± 3.7

28000 ± 2700

34h

3.9 ± 1.2

24000 ± 1000

56 ± 8.1

>50000

Cmpd.

2

R

BI 224436

図3.化合物 34d と IN-CCD の共結晶構造
2.ピリジン⾻格を有する新規 INLAIs の創出
次に得られた知⾒を基に別の新規⾻格をデザインすることにした.そこで,INLAIs に共通
するピリジン⾻格 5 と杉⼭が⾒出した 1 位の置換基を組み合わせた⾻格 36 を着想した (図 4).

ここでピリジンの窒素原⼦は 1 位から置換基を伸⻑させるために左にずらした.この新規⾻格
36 の位置に窒素原⼦を有するピリジン⾻格は未だに報告されていない.

図4.新規ピリジン⾻格のデザイン
置換基の最適化はベンゼン⾻格の時と同様に⾏い,置換基 R1 としては分⼦内⽔素結合が形成
できるウレアが良いことが分かり,その中でもシクロヘキシルウレアが最適な置換基であった.
また R2 は同様に o -メチルクロマンがベストであり、化合物 69f が最も良い活性を⽰した (表
3).
表3.BI 224436 と化合物 34h, 69f のプロファイルの⽐較

最後に対照化合物である BI 224436 と化合物 34h, 69f のプロファイルを⽐較した (表3).化
合物 69f は活性⾯において野⽣株 WT, NL432 だけでなく,耐性変異株 T174I に対しても BI
224436 より優れた活性を⽰した.⼀⽅、動態⾯においては,化合物 34h は代謝安定性が悪く,

CLt も悪かった.
本研究結果から,ベンゼン、ピリジン⾻格という有望な新規⾻格を⾒出すことができた.また
1位から置換基を伸⻑することで Q95 と相互作⽤するファーマコフォアを獲得することができ

た. 以上の業績は、新規 INLAIs の探索において有⽤な知⾒を提供するものであり、メディシ
ナルケミストリーにおける分⼦設計指針を整理・提案するものであり、その実効性を⽰し、薬科
学の進歩に有意に貢献するものである。よって本論⽂は博⼠(薬科学)の学位に値するものと判
断した。

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参考文献

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70

謝辞

本研究を纏めるにあたり,終始御懇意なるご指導とご鞭撻を賜りました東京大学大学院

薬学系研究科 大和田智彦教授に心より感謝の意を表します.

本論文の審査にあたり,有益なご助言を賜りました東京大学大学院薬学系研究科

金井

求教授,浦野泰照教授,清水敏之教授,川島茂裕特任准教授に厚く御礼を申し上げます.

塩野義製薬株式会社 井埜章所長には,本研究の遂行および本論文の作成に際し,終始温

かい御指導,御助言を賜りました.心から感謝致します.また,本研究を発表するにあたり

御尽力頂きました,塩野義製薬株式会社

川筋孝プロジェクトマネージャーに厚く御礼申

し上げます.

本研究を共に遂行し,また論文作成に温かい御協力を賜りました,塩野義製薬株式会社

秋山俊行氏,富田健嗣博士,垰田善之博士,岩耒努氏,松岡瑛梨子氏,秋久恵里佳氏,有田

修平氏,関貴弘博士,吉永智一博士に感謝致します.また,本論文の作成を温かく見守って

下さいました吉田裕ディレクター,奥野隆行プロジェクトマネージャー,創薬化学1グルー

プの皆様に感謝致します.

最後に,いつも温かく私を励ましサポートしてくれた妻 佳那恵,息子 慶輔,娘

友理に心から感謝致します.

71

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