生体シミュレーターを用いた薬理学教育の可能性
概要
6年制薬学教育では、臨床に懸かる実践的な能力を養い質の高い薬剤師を輩出するため、各大学でバイタルサイン実習や救急医療実習など、既存の教育にはなかった新たな試みに取り組んできた。この様な教育を遂行するためのツールとして、一部の大学では生体シミュレーターが導入されその教育的有効性が認識されつつあるが、単に血圧の測定や呼吸音の聴診など技術的な手技習得に留まっている例が多く、これらの目的以外で積極的に活用している大学は少ない。その理由の一つとして、生体シミュレーターの薬物反応に対する妥当性が不明確である点が挙げられる。生体シミュレーターの薬物に対する反応性が明らかとなれば、基礎薬学教育での活用も想定され、学習者に対して効率的な教育を提供できるだけでなく、体験学習することで知識定着の向上も見込まれる。また近年、薬学教育は臨床系実習が充実する一方、カリキュラムの過密などを理由に基礎系実習が一部削除されるなど問題を抱えている。基礎薬学教育の分野で生体シミュレーターを用いた実習が可能となれば、このような教育問題を一部解消できる可能性がある。
そこで本研究では、生体シミュレーターに対する循環器系作用薬の反応性を明らかにすることを第一義とした。その上でヒトに対する反応性や動物実験による薬物応答性と比較することでその類似性と相違性を明らかにし、薬学教育における生体シミュレーターの新規活用方法と教育への応用について検討することを目的とした。