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大学・研究所にある論文を検索できる 「乳牛の定時人工授精プログラムの改良に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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乳牛の定時人工授精プログラムの改良に関する研究

万代 一翔 北里大学

2021.07.20

概要

定時人工授精 ( TA I ) プ ロ グ ラ ム は 、ホルモン剤 の投与 に よ り 排卵の タイミングを同期化し 、 排卵時期に合わせて人工授精 ( A I ) を行う方 法で 、 理論上 A I 実 施 率 が 100% に な る こ と か ら 効率的な繁殖管理 技術 として広く普及している。 特に 乳牛においては、 高泌乳化に伴う 発情徴候の微弱化や発情持続時間の短縮 による A I 実 施 率 低 下 を改 善 で き る こ と か ら 有用 な ツ ー ル と言える 。 そ の 代 表 例 で あ る O v s y n c h を基 に 、 処置回数低減を目的として排卵誘発剤の G n R H 投与と TA I を 同 時 に 実 施 す る C o s y n c h や 、 排卵同期化 の 失敗を 防ぐた めに 前処置を行う 各種 プログラム が考案・実 用化 されている 。 しか し 後者 では 処置実施回数 が増 加し 、 処置実施者の労力や 投薬 コスト が 増大 するデメリットが あ る。 さらに 動物福祉の観点から も 、 保定 や処置によって牛が受けるストレス は 最小限 に抑え られ ることが望 ましい。

そこで 、これらの問題を解決する一つの方法 として S h o r t - S y n c h プログラム ( S S ) が 挙 げ ら れ る 。 こ の 方 法 は 、 黄 体 期 の 牛 に プ ロ ス タ グランジン F 2 α ( P G F ) を投与して黄体 を 退行 させ 、その後 エストラジオ ール ( E 2 ) や 性 腺 刺 激 ホ ル モ ン 放 出 ホ ル モ ン ( G n R H ) の 投 与 に よ り LH サージを発生させて排卵を誘発する ものであ り、 上述の方法と比較 して所要日数が短いメリットが あ る。 しかし過去に報告されている SS では 、処置実施回数や労力 面・ コ ス ト 面 でのデメリット が 依然と して存在している。そこで 本研究 では、 排卵誘発剤として安価な安 息 香 酸 エ ス ト ラ ジ オ ー ル ( E B ) を 用 い 、 処 置 実 施 間 隔 を 等間隔 に設定 することで コスト と労力 の両者 を軽減可能な SS ( EB - S S ) について 、従来の G n R H を用いた SS ( G n R H - SS) を 対照 として評価 し た。

さらに 、 近年 では 臨床現場において も 超音波 画像 診断装置が 広く普及し、 黄体や卵胞のサイズや個数といった 卵巣所見 を詳細に観察 することが可能に な って いる 。また G n R H - S S では 、処置開始時 の 卵巣画像所見 に よって受胎率に差異が 生じ ることが報告されている。 一方 で 、EB - SS と G n R H - SS では 、P G F 投与から TA I 実 施 ま で の 間 隔が異な り 、処置開始時の 卵巣画像所見 によ る 受胎率 差 に は 、こ の TA I実施 の タ イ ミ ン グ が 影 響 し て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 よって G n R H - SS に お い て も 、 TA I 実 施 時 間 の 調 整 に よ る 受胎率向上が期待 される。

そこで 本研究では 、① 労力 および コスト を 軽減 可能な EB - SS では 従来法の G n R H - SS と 同 等 以 上 の 受 胎 率 が 得 ら れ 代 替 法 と な り 得 るのか、 ② 処置開始時の卵巣画像所見に基づき TA I 実 施 タ イ ミ ン グ を調整することで G n R H を用いた SS の受胎性が向上するのか 、③ EB - SS に お い て も 処 置 開 始 時 の 卵 巣 画 像 所 見 に よ る 受 胎 率 の 差 異 が 存在するのか 、の 3 点 を明らかにする目的 で 臨床試験を実施 した。

1. 排 卵 誘 発 剤 に 安 息 香 酸 エ ス ト ラ ジ オ ー ル ( E B ) を 使 用 す る 低 コ ストで実用的な S h o r t - S y n c h プログラム
過去に報告されている SS では 、 P G F 投 与 の タ イ ミ ン グ に よ っ ては以後の処置を夜間や早朝に実施する必要が生じ、 実施者 に時間面 の制約が生じるデメリットが存在する。またこれらのプログラム の受胎率は O v s y n c h と同等程度に留まり 、SS のメリットは処置実施回 数と金銭コストの 低減 のみであった 。 そこで、労力の低減化を図る とともに 受胎率 向上を目指す方法として、 P G F 投 与 か ら 24 時間後 に EB を 投 与 し 、 そ の 24 - 28 時 間 後 に TA I を 実 施 す る 新 た な プ ロ グラム ( EB - SS) の 有 用 性 を 検 証 した 。対 照 群 には 、従 来 法 で あ る P G F 投与から 56 時 間 後 に G n R H を 投 与 し 、 そ の 1 6 - 20 時 間 後 に TA I を実 施するプログラム ( G n R H - SS) を 設 定 し た 。 その結果 EB - SS の受胎率 は 56.6% であり 、 G n R H - SS の 29.8% より有意に高 かった。 特に 経産 牛で 有意差が認められ た一方で 、初産牛では群間に有意 差 は認めら れなかった。 排卵誘発剤として用いた EB は G n R H よりも安価であ ることから 、EB - SS は G n R H - SS と比較して コストと労力の低減が実 現可能であり、有用な定時人工授精プログラムの一つとなる ことが 示された 。 ( B a n d a i e t a l . , T h e r i o g e n o l o g y, 2 0 2 0 )

2. 排 卵 誘 発 剤 に G n R H を 用 い る S h o r t - S y n c h プ ロ グ ラ ム の 改 良
EB - SS で 高 受 胎 率 が 得られる 要因として、 TA I 実 施 の タ イ ミ ン グが G n R H - SS より早い こ と が 挙げられる 。 一方、 G n R H - S S において は、 P G F 投与時 に 超 音 波 画 像 診 断 を 行 い 、 直径 1 0 m m 以上の卵胞が1 個のみ存在した牛 ( 卵胞 1 個群 ) よ り も 2 個 以 上 存 在 し た 牛 の 方 が高受胎率となることが報告されている 。卵胞 1 個 群 は 、 第 1 卵胞波 主席卵胞 ( W 1 D F ) が 存 在 す る 時 期 に 処 置 を 開 始 し て い る 可 能 性 が 高い。 W 1 D F は P G F 投与後の 排卵 タイミングが早 いケースも想定され る ことから、 EB - SS の早い TA I 実 施 が 受胎率差 を 生 んだ 一因と考え られる。 そこで 、卵胞 1 個 群 に 対 す る G n R H - SS でも TA I 実施 時期 を EB - SS と 近似 させ れば受胎率が向上すると仮説を立て 、P G F 投与 から 48 〜 5 6 時 間 後 に G n R H 投与と TA I を 同 時 に 実 施 す る プ ロ グ ラム ( G n R H - C o s y n c h ) について 、従来の G n R H - SS と受胎率 を 比較した。 その結果、 前者の受胎率 ( 61 .1% ) は 後者 ( 2 3 . 1 % ) より高 い 傾 向 が み られ ( P = 0 . 0 7 ) 、卵胞 1 個群 の牛 の TA I 実施適期は P G F 投与から 48 〜 5 6時間 後である 可能性 が 示唆さ れた 。

3. S h o r t - S y n c h プ ロ グ ラ ム 開 始 時 の 卵 巣 画 像 所 見 と 定 時 人 工 授 精 実施後の 受胎率の関係
卵胞 1 個 群 に 対 す る SS において 、TA I 実 施 時 期 を 早 め る こ と が 受胎性を向上させる可能性が示された。 そこで卵胞 1 個 群 の 牛 で は 、 EB - SS の受胎率が G n R H - SS より高い と仮説を立て 、両者 の受胎率と 卵 胞 個 数 の 影 響 を 評 価 し た 。 群 全 体 の 受 胎 率 は EB - SS (4 5.4 %) が G n R H - SS (3 5.0 %) よりも有意に高く 、経産牛でのみ有意差が認められ ることを再確認した 。またロジスティック回帰分析の結果、 卵胞個 数と 排卵誘発剤の種類の間に交互作用が認められた。多 重比較検定 の 結 果 、卵 胞 1 個 × G n R H 群 ( 2 7.5 %) と 比 較 し て 、卵 胞 2 個 × G n R H 群 ( 5 3 . 4 % ) ・卵胞 1 個 × EB 群 ( 4 3.4 %) ・卵胞 2 個 × EB 群 ( 5 1 . 9 % ) の 3 群が い ず れ も 有 意 に 高 い 受 胎 率 を 示 し た 。 こ れ ら の こ と か ら 、 EB - SS で高い受胎率が得られた要因は、卵胞 1 個 群 で も 高 い 受 胎 率 が 得 られるためであることが示された。

本研究の成果から、 処置開始時の 超音波 卵巣画像所見 に基づき 適切な S h o r t - S y n c h プログラムを選択すること で 、 高 い 受胎率 を得ら れることが明らかとなった 。コストを重視する場合には EB - SS が 優位であり 、 労力 を重視する場合には卵胞 1 個群で は G n R H - C o s y n c hも選択肢となる。 これら の成果 は、 卵巣画像所見と TA I プログラム の受胎性 の関係 や 、 P G F 投与と TA I 実施 の 最適 間隔に 関する 新たな 知見であるとともに 、 臨床現場でも 広く普及 可能な技術として 期待 される。

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