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大学・研究所にある論文を検索できる 「膜融合タンパク質GP64のアミノ酸多型とカイコ核多角体病ウイルスの増殖・病原性に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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膜融合タンパク質GP64のアミノ酸多型とカイコ核多角体病ウイルスの増殖・病原性に関する研究

関口, 真理 北海道大学

2023.03.23

概要

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膜融合タンパク質GP64のアミノ酸多型とカイコ核多角体病ウイルスの増殖・病原性に関する研究

関口, 真理

北海道大学. 博士(農学) 甲第15297号

2023-03-23

10.14943/doctoral.k15297

http://hdl.handle.net/2115/89557

theses (doctoral)

Sekiguchi_Mari.pdf

Instructions for use

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

膜融合タンパク質 GP64 のアミノ酸多型と
カイコ核多角体病ウイルスの増殖・病原性に関する研究

北海道大学

大学院農学院

生命フロンティアコース

関口 真理

博士後期課程

謝辞
本編に入るに先立ち、本研究を進めるにあたって多大なご指導並びにご鞭撻を賜
り、さらに本論文をご校閲頂きました、北海道大学大学院農学研究院

応用分子昆虫

学研究室准教授 佐藤昌直博士に厚く御礼申し上げます。
また、本研究を進めるにあたり、ご指導・ご助言いただきました本研究室教授 浅
野眞一郎博士、本研究室名誉教授
子酵素学研究室教授
室助教

伴戸久徳博士、北海道大学大学院農学研究院 分

奥山正幸博士、北海道大学大学院農学研究院 分子酵素学研究

田上貴祥博士に心より御礼申し上げます。

カイコを飼育・供与してくださった北海道大学北方圏フィールド科学センター耕地
圏ステーション生物生産研究農場

山田恭裕技術専門職員、Gamillus-pRSETB を分譲し

てくださった大阪大学産業科学研究所

生体分子機能科学研究分野 永井健治栄誉教

授、カイコ 106 系統を分譲してくださった九州大学大学院農学研究院遺伝資源開発研
究センター

九州大学農学研究院

生命機能科学部門 システム生物学教授

伴野豊博

士、九州大学農学研究院 生命機能科学部門 システム生物工学助教 山本幸治博士に
厚く御礼申し上げます。
共焦点レーザー顕微鏡 TCS SP5(Leica Microsystems)、リアルタイム PCR 装置
LightCycler480(Roche)の利用にあたり、北海道大学農学研究院 生物構造解析セン
ター、並びに顕微鏡での撮影に際して技術指導してくださった安井雅範担当職員に御
礼申し上げます。
研究室の皆様には日々の生活、研究のなかでとてもお世話になり、心から感謝して
います。カイコへのウイルス注射や細胞実験を教えてくださった本研究室 OB の九州
大学農学研究院准教授

藤田龍介博士にお礼申し上げます。画像解析の面では後輩の

中西登志紀君、藤村大樹君、前田麻亜子さんに多くのご助言・ご協力をいただき、感
謝しています。また、カイコの実験においては佐藤拓海君、黒光玲緒奈さん、川満龍
平くん、恩田昂輝くん、木村弥優さんに大きくのご協力をいただき、ありがとうござ
いました。
最後に、9 年間にわたる学生生活を支えてくれた両親に心から感謝申し上げます。
2023 年 3 月
関口 真理

目次
Ⅰ. 序論 ………………………………………………………………………..

1~6

Ⅱ. 材料と方法 ……………………………………………………………….

7 ~ 18

1. 培養細胞、ウイルス、昆虫
a) 供試細胞
b) 供試ウイルス
c) 試供昆虫
2. BmNPV の GP64 のアミノ酸配列のアライメント
a) BmNPV と GroupⅠアルファバキュロウイルスの GP64 のアミノ酸配列のアラ
イメント
b)BmNPV の GP64 のアミノ酸配列のアライメント
3. BmNPV の近縁ウイルスの系統樹推定
T3

7
7
7
7
7
8
8
8

4. GP64 の立体構造予測

8

5. GP64 変異組み合わせウイルスの作製

8

5-1. ドナープラスミドの作製
a) pFastbac-Luc-gp64 T3/L99M,Y172H、pFastbac-Luc-gp64 T3/Y172H,V181I の作製
b) pFastbac-Luc-gp64 T3/G158S,V181I,R191K の作製
c) pFastbac-Luc-gp64 T3/A30Δ,G158S,V181I,R191K、

8
8
9
9

pFastbac-Luc-T3gp64 T3/A30Δ,G158S,Y172H,V181I,R191K の作製
d) pFastbac-Luc-gp64 H4/M99L、pFastbac-Luc-gp64 H4/H172Y の作製
5-2. 各種 gp64 遺伝子復帰バクミドの作製
5-3. BmN 細胞への各種 gp64 遺伝子復帰バクミドのトランスフェクション

10
10
11

5. 膜融合試験プラスミドの作製と膜融合試験

11

a) Opie2 プロモーター制御下に緑色蛍光タンパク質 Gamillus を発現するプラスミ
ド(Opie2-NLS-gamillus)の作製
b) 膜融合試験プラスミドの作製
c) 各 GP64 の膜融合活性の比較

11
12
12

6. プラークアッセイとプラークサイズの定量

13

7. BmN 細胞およびカイコ個体におけるウイルス増殖の解析

13

a) 培養上清中のウイルス DNA 量の定量
b) カイコ体液中のウイルス DNA 量の定量
c) ルシフェラーゼアッセイ
d) カイコの生存時間解析
e) カイコの体重測定と病徴の撮影
Table 1

13
14
14
14
15
16

Ⅲ. 結果 ………………………………………………………………………...

19 ~ 67

1. BmNPV と代表的な GroupⅠアルファバキュロウイルスの GP64 のアミノ酸配列

19

のアライメント
2. BmNPV の近縁ウイルスの系統樹推定

20

3. GP64T3 の立体構造予測

20

4. GP64 変異組み合わせウイルスの作製理由

20

5. 膜融合活性試験

21

6.GP64 変異組み合わせウイルスのプラークサイズの比較

23

7. GP64 組み合わせウイルスの BmN 細胞での増殖と組換えタンパク質発現

24

a) 培養細胞での GP64 変異組み合わせウイルスの増殖の比較

24

b) 培養細胞での GP64 変異組み合わせウイルスのルシフェラーゼ発現量の比較

25
26

8. GP64 組み合わせウイルスのカイコでの増殖と組換えタンパク質発現
a) カイコでの GP64 変異組み合わせウイルスの増殖の比較

26

b) カイコでの GP64 変異組み合わせウイルスのルシフェラーゼ発現量の比較

27

9. 生存時間解析

28

10. 病徴解析

29

a) 体重測定

29

b) 形態的病徴の比較

30

Table 2 ~ 6

33, 35, 54, 61, 67

Fig. 1 ~ 10

31, 32, 34, 36 ~ 53, 55 ~ 60, 62 ~ 66

Ⅳ. 考察 ……………………………………………………………………….

68 ~ 79

Table 7

78

Fig. 11

79

Ⅴ. 要旨………………………………………………………………………..

80 ~ 82

Ⅵ. 参考文献………………………………………………………………….

83 ~ 93

Ⅶ. サプリメンタルデータ ………………………………………………….

94 ~ 114

Supplementary Table 1 ~ 5
Supplementary Fig.1 ~ 7

Ⅷ. 付録 ……………………………………………………………………..

94
101

115 ~ 126

遺伝子実験の基本操作

115

Appendix table 1 ~ 10, Script 1 ~ 2

117

略語一覧
GP64T3

T3 株の GP64

H4

H4 株の GP64

GP64

GP64Ac

AcMNPV の GP64

A30Δ

GP64T3 の A30 を欠失させた

L99M

GP64 T3 の L99 を H4 型のメチオニンに置換した

G158S

GP64 T3 の G158 を H4 型のセリンに置換した

Y172H

GP64 T3 の Y172 を H4 型のヒスチジンに置換した

V181I

GP64 T3 の V181 を H4 型のイソロイシンに置換した

R191K

GP64 T3 の R191 を H4 型のリシンに置換した

BT3 control virus

T3 株に相当するコントロールウイルス: T3Δgp64 バクミドのポリ
へドリンローカスに GP64T3 をレスキューしたウイルス
GP64H4 をもつ T3 株キメラウイルス: T3Δgp64 バクミドのポリへ

BT3/GP64H4

ドリンローカスに T3gp64 のプロモーターと GP64H4 の orf をレス
キューしたウイルス

BT3/GP64T3/A30Δ

GP64T3/A30Δ をもつ T3 control virus

BT3/GP64T3/L99M

GP64T3/L99M をもつ T3 control virus

BT3/GP64T3/G158S

GP64T3/G158S をもつ T3 control virus

BT3/GP64T3/Y172H

GP64T3/Y172H をもつ T3 control virus

BT3/GP64T3/V181I

GP64T3/V181I をもつ T3 control virus

BT3/GP64T3/R191K

GP64T3/R191K をもつ T3 control virus

BT3/GP64T3/L99M,Y172H

GP64T3/L99M,Y172H の変異の組み合わせをもつ T3 control virus

BT3/GP64T3/Y172H,V181I

GP64T3/Y172H,V181I の変異の組み合わせをもつ T3 control virus

BT3/GP64T3/G158S,V181I,R191K

GP64T3/G158S,V181I,R191K の変異の組み合わせをもつ T3 control virus

BT3/GP64T3/A30Δ,G158S,V181I,R191K

GP64T3/A30Δ,G158S,V181I,R191K の変異の組み合わせをもつ T3 control virus

BT3/GP64T3/A30Δ,G158S,Y172H,V181I,R191K

GP64T3/A30Δ,G158S,Y172H,V181I,R191K の変異の組み合わせをもつ T3 control virus

BH4 control virus

H4 株に相当するコントロールウイルス: H4Δgp64 バクミドのポ
リへドリンローカスに GP64H4 をレスキューしたウイルス

BH4/GP64T3

GP64T3 をもつ H4 キメラウイルス: H4Δgp64 バクミドのポリへド
リンローカスに H4gp64 のプロモーターと GP64T3 の orf をレスキ
ューしたウイルス

BH4/GP64H4/M99L

GP64H4/M99L の変異をもつ H4 control virus

BH4/GP64H4/H172Y

GP64H4/H172Y の変異をもつ H4 control virus

Ⅰ.序論
ウイルスの適応進化とは変異獲得と自然選択を通じて生存環境に適応的となる進化を指す。
宿主の生態や生活環などの選択圧により、多様な変異をもつウイルス集団の中から、子
孫ウイルス生産に有利な形質をもったウイルスが集団中で優位になり、適応的な変異ウ
イルスが選抜される。一般的にウイルスの子孫ウイルス生産量(伝搬性)と病原性(宿
主の致死性)との間にはトレードオフの関係が存在し、伝搬性が小さくなると適応的で
なくなり、逆に伝搬性が増加し過ぎても宿主集団内の死亡率も増加するため適応的でな
くなる。このため、最大の適応度を得られるウイルスの伝搬性と病原性は中程度で最適
化される(Anderson and May, 1982 、Doumayrou et al., 2012、高倉、2009)。

バキュロウイルスは病原性が高く、他のウイルスとは違う適応進化戦略をとっている
可能性がある。バキュロウイルス科に属するウイルス(以後、バキュロウイルス)は病
原性が高く、感染宿主を殺して子孫ウイルスを放出させる。バキュロウイルスはウイル
スの感染サイクルにおいて、経口感染にかかわる包埋体由来ウイルス(occlusion-derived
virus: ODV)と細胞間感染にかかわる出芽ウイルス(Budded virus: BV)という 2 種類の
ウイルス粒子を作る。宿主に食下された包埋体は中腸内でアルカリ性の消化液によって
溶解し、消化管に放出された ODV が中腸細胞へと感染する(経口感染)。その後、中腸
細胞から出芽した BV は他の組織へ感染を広げる(細胞間感染)。感染後期になると、
ウイルスは包埋体の主成分である結晶構造タンパク質ポリヘドリンを生産し、子孫ウイ
ルスは核内でその結晶中に包埋される(Rohrmann, 2019)。感染末期に感染個体は行動が
異常に活発化する徘徊行動(Goulson, 1997、Katsuma et al., 2012)をとり、包埋体を含ん
だ体液を滲出しながら歩きまわり、さらに感染個体は死後すみやかにウイルスの持つ分
解酵素によって溶解されることで、包埋体は環境中に拡散される(Slack et al., 1995、
Hawtin et al., 1997)。放出された包埋体は新たな幼虫に食下され、感染が拡大する。

バキュロウイルスは主に昆虫を宿主とする環状二本鎖 DNA ウイルスであり、鱗翅目
に感染するアルファバキュロウイルスとベータバキュロウイルス、膜翅目に感染するガ
ンマバキュロウイルス、双翅目に感染するデルタバキュロウイルスの 4 属に分類され
る。このうちアルファ、ガンマ、デルタバキュロウイルスは多角体を産生するため核多
角体病ウイルス(Nucleopolyhedrovirus: NPV)、ベータバキュロウイルスは顆粒を産生する
ため顆粒病ウイルス(Granulovirus: GV)と命名されている(Herniou et al., 2003、Rohrmann,
1

2019)。アルファバキュロウイルスに属する NPV は更に GroupⅠと GroupⅡに分類され
る。GroupⅠは膜融合タンパク質 GP64 を介して宿主細胞に侵入するが、GroupⅡは GP64
を持たず、F タンパク質を介して宿主細胞に侵入すると考えられている(Zanotto et al.,
1993、Pearson and Rohrmann, 2002)
。既知の NPV のほとんどは宿主域が狭く,NPV が
分離された昆虫種とそのごく近縁種に感染性をもつのみであり,複数の科の昆虫を宿主
とする NPV はまれである。宿主が種分化していく過程で、ウイルスも宿主依存進化と
呼ばれる進化を遂げたと考えられている(Rohrmann et al., 1981)


バキュロウイルスの適応進化については、超並列シークエンスによるゲノム変異、変
異遺伝子の網羅的解析により報告があるが(Chateigner et al., 2015)
、適応進化のメカニ
ズムについての実験的検証はなされていない。ウイルスの宿主への適応進化のメカニズ
ムはインフルエンザウイルスでよく研究されており、特にウイルスの宿主への侵入に必
須な膜融合タンパク質であるヘマグルチニン(HA)タンパク質に注目して研究されて
いる。パンデミックの原因ウイルスが獲得した HA タンパク質のアミノ酸変異、または
自然宿主以外の宿主にウイルスを感染させた過程で獲得した変異を網羅的に探索し、同
定された変異を導入したウイルスの表現型を評価することで、ウイルスの宿主適応進化
機構の分子基盤が調査されてきた。インフルエンザウイルスの宿主適応進化のメカニズ
ムは、HA タンパク質内の変異が選抜・固定され、宿主細胞のレセプターとの結合特異
性や結合効率、膜融合活性、pH 安定性が変化した結果、ウイルスの増殖や伝搬性が変
化したことであった(Narasaraju et al., 2009、Mair et al., 2014、Cotter et al., 2014、Shao et
al., 2017、Watanabe et al., 2018、Dreier et al., 2019)


ウイルスの膜融合タンパク質は、ウイルスの宿主細胞への侵入に必須な役割を持ち、
膜融合タンパク質がウイルスのエンベロープと宿主細胞膜との膜融合を媒介すること
でウイルスの感染が成立する。膜融合タンパク質はその構造的特徴から ClassⅠ、Ⅱ、
Ⅲの 3 種類に分類される。インフルエンザウイルスの HA タンパク質やコロナウイル
スのスパイクタンパク質が属する ClassⅠの融合タンパク質は、αヘリックスを中心と
した coiled-coil 構造のホモ 3 量体を形成する。フラビウイルスの E タンパク質やアル
ファウイルスの E1 タンパク質が属する ClassⅡ融合タンパク質は、fusion loop を含むβ
シート構造を主としたホモまたはヘテロ 3 量体を形成する。ラブドウイルスの G タン
パク質やバキュロウイルスの GP64 を含む ClassⅢの膜融合タンパク質は、ClassⅠ、Ⅱ
2

の両方の特徴をもち、3 量体形成の要であるαヘリックスからなる coiled-coil 構造と、
fusion loop を含むβシート構造をもつ。異なる Class に分類された膜融合タンパク質は
構造的特徴が異なるが、これらの膜融合を媒介するメカニズムは共通しており、宿主レ
セプターとの結合や、低 pH 条件などでウイルスの膜融合タンパク質の構造変化が起こ
る。膜融合タンパク質が pre-fusion 構造から post-fusion 構造へと構造変化する過程では、
まず、宿主膜と相互作用する fusion loop や fusion peptide がタンパク質の表面に露出し、
宿主細胞膜へと挿入される。その後、融合タンパク質がリフォールディングし、postfusion 構造へと構造変化する過程で、宿主細胞膜がウイルスのエンベロープに近づき、
宿主細胞膜とウイルスのエンベロープの脂質二重膜の外側の膜同士が融合したへミフ
ュージョン状態になる。さらに膜融合タンパク質の構造変化が進み、構造的に安定した
post-fusion 構造になると、ウイルスのエンベロープと宿主細胞膜の脂質二重膜の内側の
膜同士が融合することで fusion pore が形成され、細胞膜同士が融合する(Backovic and
Jardetzky, 2009、Kim et al., 2017)


ClassⅢ膜融合タンパク質に属し、GroupⅠアルファバキュロウイルスの膜融合タンパ
ク質である GP64 は、宿主細胞への侵入に必須なタンパク質である。GP64 は BV の主
要な膜タンパク質であり、宿主細胞レセプターとの結合(Hefferon et al., 1999)や膜融
合(Blissard and Wenz, 1992)に必須であり、子孫ウイルスの出芽(Oomens and Blissard,
1998)にも関与している。GP64 は膜上ではジスルフィド結合を介したホモ三量体を形
成しており(Kadlec et al., 2008)
、宿主細胞膜と相互作用する領域である GP64 のドメイ
ンⅠは 3 つの fusion loop を含み、そのうち fusion loop1 と fusion loop2 が膜融合に関与
している(Dong and Blissard, 2012)
。宿主細胞への侵入の際、BV は細胞膜上のリン脂質
やタンパク質のレセプターと結合し、GroupⅠアルファバキュロウイルスで最もよく研
究されている Autographa californica multiple nucleopolyhedrovirus (AcMNPV)はクラス
リンを介したエンドサイトーシス(Volkman and Goldsmith, 1985、Hefferon et al., 1999、
Long et al., 2006 )、 カ イ コ に 感 染 す る カ イ コ 核 多 角 体 病 ウ イ ル ス ( Bombyx mori
nucleopolyhedrovirus: BmNPV)ではエンドサイトーシスの 1 種であるコレステロール依
存性のマクロピノサイトーシスによって宿主細胞内に取り込まれる(Huang et al., 2014)

エンドサイトーシスまたはマクロピノサイトーシスによって宿主細胞内に取り込まれ
た BV は、後期エンドソーム内の酸性条件下で BV 膜の GP64 のヒスチジン残基がプロ
トン化されることで GP64 の構造変化が引き起こされ、GP64 の構造変化により BV の
3

エンベロープとエンドソーム膜が膜融合を起こし、ウイルスのヌクレオカプシドが細胞
質中に放出される(Blissard and Wenz, 1992、Zhou and Blissard , 2008、Li and Blissard, 2011、
Dong and Blizzard, 2012)
。細胞質中に放出されたヌクレオカプシドは、アクチン重合に
より核まで輸送され、その後核膜孔複合体を介して核内に輸送される(Granados and
Lawler, 1981、Roncarati and Knebel-Moersdorf, 1997)。その後、産生されたヌクレオカプ
シドは核膜をエンベロープとして出芽し、その後細胞質中で膜を失い、ヌクレオカプシ
ドはアクチン重合を介して細胞膜まで輸送され、細胞膜をエンベロープとして出芽する
(Oomens and Blissard, 1998、Blissard and Theilmann, 2018)


以上のような GP64 の分子生物学的な解析は AcMNPV の GP64 を対象に研究が進ん
でいるが、AcMNPV はゲノム配列が同定されている既知系統が C6 系統、E2 系統に限
られており、遺伝的多様性の研究には適していない。一方で AcMNPV に近縁の BmNPV
はこれまでに 15 系統について分離、ゲノム配列同定や性状解析がなされている。
BmNPV は GroupⅠアルファバキュロウイルスのなかで最もよく研究されているウイル
スの 1 つである。BmNPV はカイコに感染し、その病原性の高さから養蚕業で問題とな
るウイルスとして同定された。また、BmNPV は他のバキュロウイルスと異なり、人類
によって家畜化されたカイコを宿主としている。 ...

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