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自殺完遂者の死後脳におけるケモカインの変化

Shinko, Yutaka 神戸大学

2021.03.25

概要

[概要]
 自殺は現代世界における主要な健康問題の一つであり、毎年80万人近くが自殺で死亡している。自殺は生物学的、心理学的、社会的など様々な要因による複雑な現象と考えられている。病理学的な側面からの自殺研究が行われてきたが、自殺の生理学的メカニズムを明らかにするには至っていない。その原因の一つは、自殺完遂者を対象にした研究の数が限られていることにあるのかもしれない。
 統合失調症、うつ病、双極性障害と言った精神障害において、免疫系の異常が報告されている。自殺においても幾つかの研究で、自殺症例での炎症性サイトカインの異常、自殺完遂者死後脳でのミクログリアの活性化やマクロファージの動員、インターフェロン治療における自殺率の増加など、免疫システムの異常と炎症が関与していることが示されている。
 ケモカインはサイトカインの一種であり、8-10kDaのポリペプチドで、古典的には白血球の血管から組織への遊走を促進し、炎症過程において重要な役割を果たす。ケモカインのレセプターはミクログリア、アストロサイト、ニューロンと言った中枢神経の細胞においても発現しており、ケモカインは神経炎症だけでなく、神経内分泌的機能や神経新生の調節など多様な機能を持つことが知られている。
 幾つかの研究では統合失調症、うつ病、双極性障害などの疾患においてケモカインの変化が示されている。しかし自殺とケモカインの相関について検討した研究は少なく、特に自殺者の死後脳を用いた研究はほとんどない。
我々は本研究において、自殺完遂者の死後脳におけるケモカインと関連した物質の濃度を測定して健常対照群と比較し、ケモカインと自殺の相関について検討した。

[対象および方法]
(対象)
 自殺症例の剖検は神戸大学大学院医学研究科地域社会医学・健康科学講座法医学教室において行われた。自殺完遂者症例16件(47.7±12.2歳、うち女性6例)と健常対照群23例(58.2(±17.1)、うち女性7例)を用いた。脳組織は、死後脳のdorsolateral prefrontal cortex(DLPFC)から採取した
(物質の測定)
 市販のキットであるBio-Plex Pro™ Human Chemokine Panel 40-Plex(Bio-Rad Laboratories, Inc., CA, United States)を用いて濃度測定を行った。得られたデータはBioplex 3D systemおよびBioplex Manager softwareを用いて測定、解析された。すべてのサンプルは2回測定され、その平均値を解析した。濃度がキット製造元の規定する信頼できる測定値の範囲外であった場合は、この結果をその後の解析から除外した。また死後経過時間、サンプルのpHが不明であるサンプルも除外した。以上の基準に従って除外した結果、利用可能なデータが80%以下になった物質についてはその後の研究から除外した。最終的に、われわらは15の物質についてその後の統計学的解析を行った。
(統計)
 一般化線形モデルを用いた多変量解析モデルによって症例群と対照群間における物質の濃度の差を検討し、性、年齢、死後経過時間、サンプルのpHによって補正した。繰り返しの比較を行ったため、type I errorをコントロールするためにBenjamini-Hochberg法による補正を行った。Q-valueは<0.05(two-tailed)で有意差ありとした。

[結果]
 CCL1(Estimate=-0.386, Q-value<0.001)、CCL8(Estimate=-0.621, Q-value<0.001)、CCL13(Estimate=-0.797, Q-value=0.001)、CCL15(Estimate=-0.618, Q-value=0.002)、CCL17(Estimate=-10.515, Q-value=0.003)、CCL19(Estimate=-0.414, Q-value=0.002)、CCL20(Estimate=-0.853, Q-value<0.001)、CXCL11(Estimate=-1.089, Q-value=0.006)、IL・10(Estimate=-0.447, Q-value=0.006)がBenjamini-Hochbergによる補正後も自殺群において有意に低下していた。一方でIL-16(Estimate=0.707, Q・value=0.029)はBenjamini-Hochbergによる補正後も自殺群において有意に上昇していた。CCL22、CCL25、CXCL16、CX3CL1、MIFについては群間で有意差を認めなかった。

[考察]
 CCL13、CCL17、IL-10の濃度が自殺症例において滅少していたことは先行研究と一致している。CCL13はmonocyte chemotaxis protein familyに属し、中枢神経系において炎症促進的作用を持つことが知られている。CCL17はケモカイン受容体のCCR4を介してTh2系に促進的に作用する。この2つのケモカインは自殺企図者の脳脊髄液において低下していることが報告されている。IL-10は炎症抑制にかかわるTh2細胞によって分泌され、制御性T細胞の機能にかかわるが、うつ病に関連した自殺既遂者の死後脳において、有意に減少しているとの研究がある。
 幾つかのケモカイン、サイトカインについては、我々の研究で初めて自殺との関連が示された。CCL1、CCL12は制御性T細胞の脳内浸潤を促進し、ミクログリアによる炎症性反応の抑制にかかわると考えられている。CCL8、CCL15、CCL19、CXCL11は炎症促進性の作用が知られている。IL-16は炎症促進性のサイトカインとして知られている。
 神経炎症が自殺に寄与しているとする仮説が提唱されている。我々の研究では、炎症促進にかかわるとするケモカインの低下を認めており、神経炎症仮説とは矛盾しているように見える。一方で炎症抑制にかかわるケモカインも低下しており、この両者のバランスにより炎症促進的に働いているのかもしれない。
 統合失調症、双極性障害、大うつ病などそのほかの精神疾患では、本研究で認めたようなケモカインの低下は報告されていない。これは自殺独自の生理学的プロセスの存在を示唆しているのかもしれない。自殺者におけるケモカインのさらなる研究が、自殺のバイオマーカーや予防的、治療的手段の開発につながるかもしれない。
 本研究ではDLPFCからサンプルを採取した。先行研究では自殺者におけるDLPFCの萎縮や、炎症性の変化など、自殺におけるDLPFCの関与が示唆されていたためである。
 本研究には限界がいくつか存在する。まず。向精神薬がケモカインの濃度に影響を与えるとの報告があるが、本研究では向精神薬の影響が除外できていないことが挙げられる。また精神科的既往歴についても調査を行ったが、気分障害と記載された例が双極性障害か大うつ病かについて判断できず、精神科的既往歴の影響を評価できなかった。また30種類のケモカインを含む40種類の物質について調査を行ったが、データの信頼性の問題から25の物質についてその後の統計学的検討を行うことができなかった。これはサンプルの質の問題か、そもそもこれらの物質が前頭葉において低発現であることが原因として考えられる。結論として、我々は自殺完遂者死後脳のDLPFCにおいて、健常対照群と比較して、CCL1、CCL8、CCL13、CCL15、CCL17、CCL19、CCL20、CXCL11、IL-10の低下とIL-16の上昇を認めた。この結果は、自殺における何らかの免疫学的メカニズムの関与を示唆している。

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