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大学・研究所にある論文を検索できる 「小児における穿孔性虫垂炎の予測因子に関する検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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小児における穿孔性虫垂炎の予測因子に関する検討

Miyauchi, Harunori 神戸大学

2021.03.25

概要

急性虫垂炎は小児の急性腹症の中で最も頻度の高い疾患だが,成人に比べて正確な身体所見を得ることが難しぐ臨床症状が乏しいことなどから正確な診断が難しい.これまで小児急性虫垂炎の予測因子や診断スコアリングシステムが数多く報告され,実臨床でも活用されているが、これらのスコアリングシステムには主観的な項目も含まれることと、虫垂炎の重症度を診断することが出来ないという問題点がある.特に、穿孔性虫垂炎は腹膜炎や敗血症、腸閉塞などの合併症の頻度が高いため、早期診断が重要である.成人領域では穿孔性虫垂炎の予測因子に関する研究が多数なされているが,小児穿孔性虫垂炎の予測因子についての研究は極めて少ないのが現状である.本研究では初期診療段階における臨床症状・血液検査データ・画像検査データのうち,客観性のある因子に注目し,小児における穿孔性虫垂炎と非穿孔性虫垂炎を鑑別しうる予測因子を特定することを目的とした.

方法
対象
 姫路赤十字病院において2 0 1 1 年1 月から2 0 1 6 年1 2 月の期間に急性虫垂炎と診断され,治療された症例について診療録をもとに後方視的に検討を行った.症例は手術時所見または画像検査所見から穿孔性虫垂炎(PA)群と非穿孔性虫垂炎(NPA)群に分類し,予測因子として年齢・性別・症状出現から受診までの期間・症状(嘔吐・下痢)の有無・体温・血液検査値(白血球数・好中球数・ CRP)-CT検査または超音波検査での画像的所見(虫垂最大径・腹水の有無・糞石の有無)について2群間比較した.

統計学的検討
 指標について連続変数はROC曲線から感度・特異度が最大となるカットオフ値を設定した.設定したカットオフ値を元に指標をカテゴリー変数とし,全ての項目に関して単変量解析を施行した.さらに,単変量解析で有意差(p値≦0.05)を持つ指標が多数に及ぶ場合はステップワイズ法で指標を限定(P値く0.20)した上で,多変量解析を施行した.

結果
 2011年1月から2016年12月の期間に急性虫垂炎と診断された319例のうち,241例について虫垂切除術を施行され,内47例が穿孔性虫垂炎症例であった.また,78例について保存的治療が選択されておリ,内25例が穿孔性虫垂炎であった.患者背景はTablelに示した.

穿孔性虫垂炎に関する単変量解析と多変量解析
 ROC曲線によるカットオフ値の設定と単変量解析の結果,「9歳未満」,「症状出現から受診までの期間が2 日以上」,「 38.0℃以上の発熱」,「嘔吐」,「下痢」,「白血球数が15000/μL以上」,「17190/μL以上の好中球数」,「CRP値が3.46 mg/ dL以上」,「虫垂最大径が9.7 mm以上」,「画像検査で糞石が描出」,「画像検査における腹水貯留」の10項目が穿孔性虫垂炎の危険因子であった.さらに,多変量解析の結果,「症状出現から受診までの期間が2日以上」,「38.0℃以上の発熱」,「CRP値が3.46 mg/ dL以上」,「画像検査で糞石が描出」,「画像検査における腹水貯留」の5項目が危険因子であった(Table2).

症例が有するリスク因子数と穿孔率の関係
 5つの危険因子をすべて有する症例では93.3%で穿孔が見られた一方で,リスクを全く有さない症例での穿孔例はなかった.ROCカーブによる検討では3つ以上のリスクを有する症例で有意に穿孔をきたしている傾向があった(Table3).

考察
 急性虫垂炎における穿孔の診断遅延や誤診は不要な合併症を招く可能性があり,治療期間の延長に強く関連している.PAに対する治療戦略で速やかに虫垂切除を施行するかどうかは未だ議論のあるところである.2010年のメタアナリシス研究では抗菌薬投与に引き続き待機的虫垂切除術を行うInterval appendectomy (IA)は全体的な合併症を有意に減少させ,その他の治療経過は変わらないと報告された一方で,その後に施行された前方視的無作為割付研究ではIAは合併症率上昇,入院期間延長,治療費上昇につながると報告されている.現状では虫垂切除の時期を含めて,どのような治療方針を選択するかはそれぞれの施設の状況によるが,治療方針の選択において穿孔の有無は非常に重要な要素であり,早期かつ正確に診断することが不可欠である.
 一般的に小児における虫垂炎は病歴に乏しいことや年齢からくるコミュニケーションの難しざまた非典型的臨床症状などから診断に苦慮することがある.急性虫垂炎の診断において画像検査は重要であり,中でも超音波検査は安価かつ鎮静剤や造影剤などを要さず,被爆もないことから小児領域では第一選択となっている.しかし,その診断精度は施行者の技量に依存しておリ,夜間や休日などには十分な検査が施行できない可能性がある.また,超音波検査に次ぐ選択肢となるCTは迅速簡便に撮影でき,急性虫垂炎の診断に優れた感度•特異度を有するものの,穿孔に関する診断能力は限定的であることがいくつかの研究で示されている.
 小児の急性虫垂炎を診断するための予測因子や診断手段に関する報告は多ぐスコアリングシステムが考案・提唱され,一定の診断能力を示している.しかし,これらの結果やアルゴリズムでは虫垂炎の重症度を明らかにすることはできなかった.そこで今回,我々は小児の穿孔性虫垂炎において初診時の単純かつ客観的な因子が予測因子として診断的価値を有するかを検討することとした.
 今回の研究における単変量解析ではPA群はNPA群に対して有意に9 歳未満,症状出現から受診までの期間が2日以上,38.0℃以上の発熱,嘔吐,下痢,15000/μL以上のWBC数上昇,17190/μL以上の好中球数上昇,3.46mg/dL以上のCRP値上昇,9.7mm以上の虫垂最大径の増大,画像検査での糞石,画像検査での腹水といった因子を有することが判明した.これを過去に小児におけるPAとNPAのもつ背景の違いについて検討した論文と比較すると,一部は同様の傾向を示している.Nanceらは年齢が低いほど,また,有症状期間が長くなるほどPAの頻度は増加することを報告している.また,Gofritらはより若年であること,症状の始まりから診断されるまで期間が長いこと,高体温であること,血小板数が増加してしいること,ヘモグロビン値が低下していることがPAの児の特徴であったと報告している.単変量解析の場合,研究デザインや検査精度の違い,また,特に交絡因子の存在から結果に差が生まれる傾向があるため,最近の研究では多変量解析が行われるようになってきているが,非常にその数は少ない.Williamsらは前方視的コホート研究の結果,全般的腹痛・48時間以上の有症状期間-19400以上の白血球増多_CTでの膿瘍の存在くTでの糞石の存在が独立したPAの予測因子であったと報告している.また,Obinwaらは37.5°C以上の術前体温が最も有用であり,その他に15100以上の白血球増多•術前の食思不振・腹部反跳痛が有意であったとしている.Boettcherらも20以上のCRP上昇・超音波検査での腹腔内液体貯留がPAをNPAから鑑別する最も重要な特徴だったと報告している.今回の研究での多変量解析に基づく予測因子は受診までの期間が2日以上,38.0°C以上の発熱,3.46 mg/dL以上のCRP値上昇,9.7mm 以上の虫垂最大径の増大,画像検査での糞石,画像検査での腹水の存在である.これらの予測因子は比較的客観的で容易に調べることができ,医療者が治療方針を決定する際に有用になりうると考えられる.
 我々は今回特定した5つの因子について患者が有する因子数を perforated appendicitis score (PAS)と定義し,穿孔の関係性について調べることで,PAを予測するスコアリングの構成要素となりうるかも検討した.その結果,5因子すべて有する症例では90%以上の症例で穿孔が見られた一方で,因子を全く有さない症例での穿孔例はなぐPASが上昇するほど穿孔率は高くなっていた.1因子以上を有する場合は穿孔の可能性があり,特に3因子以上の場合では穿孔を疑い,抗菌薬の選択や手術の必要性について慎重に検討すべきである.単施設での後方視的・非無作為割付検討ではなぐまた,PASでは因子の重み付けを行っていないが,医療者の身体診察に基づいた直感的な診断に補助的な指標として役立つ可能性がある.今後,これらの因子の有用性について前方視的多施設共同研究で評価していく。

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