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麻酔下用量のケタミンが有効な慢性痛患者の安静時脳機能的結合

Motoyama, Yasushi 神戸大学

2020.03.25

概要

近年、麻酔下用量のケタミンの急速で持続的な抗うつ効果はおおきな注目を集めている。また機能的MRI(fMRI)を使用して、人間や動物の中枢神経系活動に関連する血流の動的応答を評価する脳イメージング研究が注目されている。ケタミン投与後の中枢神経系活動の変化は、健康成人やうつ病患者で報告されている。しかし、慢性疼痛患者の脳活動と麻酔下用量ケタミンへの反応との関係を調べた研究はない。

ケタミンは N-メチル-d-アスパラギン酸受容体(NMDA)拮抗薬として使用される全身麻酔薬である。ケタミンは慢性疼痛治療にも用いられるが、がどのような種類の慢性疼痛に対して有効であるかはまだ分かっていない。

fMRI は、脳活動の非侵襲的検査法である。安静時 fMRI(rs-fMRI)は、安静時の脳活動を対象とする研究方法である。 rs-fMRI 信号は、神経活動の時間的パターンに関連する自発的な変動を示す。離れた脳領域間におけるこれらの自発的な変動の相関関係は、脳の機能的結合と呼ばれ、脳ネットワーク内のコミュニケーションの基礎と考えられている。疼痛研究の分野でも脳機能的結合を用いた研究が、慢性疼痛を有する被験者を対象に行われている。

本研究では、慢性疼痛患者に対する麻酔下用量のケタミン治療を受けた患者を対象に、治療に反応した患者と治療に反応しない患者との安静時脳機能的結合の違いについて fMRI を用いて後方視的に検討する。治療前の rs-fMRI 画像を評価することにより、慢性疼痛患者の麻酔下用量ケタミンに対する治療反応に重要な領域を特定することができると仮定する。

材料および方法
参加者
この研究に含める基準は次のとおり。(1)2015 年 1 月から 2017 年 12 月まで神戸大学病院で慢性疼痛を麻酔下用量のケタミンで治療。(2)痛みが少なくとも 3 か月間続く。(3)評価時に少なくとも 3/10 として口頭で評価された痛み(Numerical Rating Scale(NRS):0 =「痛みなし」および 10 =「想像できる最悪の痛み」)。 (4)ケタミン注入の前に fMRI を受けた。精神疾患既往や神経学的に異常なMRI をもつ患者を除外した。

ケタミン治療と実験計画
参加者は構造的 MRI および rs-fMRI を撮像しそれから 30 分以内に、ケタミン(0.3 mg / kg)がすべての患者に 30 分間静脈内投与されていた。その後、ケタミン投与前およびケタミン注入終了後 60 分に、NRS、Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS )、および Pain catastrophizing scale(PCS )を取得した。NRS で評価した痛みの治療反応に応じて、レスポンダー(グループ R; NRS スコアに従って 50%以上の減少として定義)とノンレスポンダー(グループ NR)の 2 つのグループに分けた。

rs-fMRI の取得、データ解析
ニューロイメージングは 3-Tesla Siemens Skyra スキャナーで実行された。rs-fMRI を実行する前に、患者には安静、閉眼の指示が与えられた。

解析は、CONN ツールボックス(ver.17.c; www.nitrc.org/projects/conn)および SPM12(www.fil.ion.ucl.ac.uk/spm/)を使用して実行された。Seed-to-voxel correlation analysis を実行して、グループ R とグループ NR の間の脳機能的結合の違いを調査した。分析に使用したシードは、慢性の痛みに関わる脳領域であるデフォルトモードネットワーク(DMN)および顕著性ネットワーク(SN)の領域としての内側前頭前野(mPFC)、後帯状皮質(PCC)、前帯状皮質(ACC)、および前島皮質(AIC)とした。またグルタミン酸作動ニューロンが多く存在する側坐核と扁桃体にもシードをおいた。クラスターレベルの閾値を p <0.05、ボクセルレベルの閾値をp <0.001 として解析を行った。

Seed-to-voxel correlation analysis の結果に基づいて、独立成分分析(ICA)も実行した。 ICAは、静止状態およびタスクベースの fMRI 研究で安静時ネットワークを識別するために広く用いられている解析法である。 グループICA を、CONN のデフォルト設定として 20 の独立成分を検出するように解析を行った。

結果
被験者
24 人の患者が対象となった(年齢;27〜81 歳、平均= 56±3.5 歳、男性/女性:19/5)。12 人がグループ R に、残りの 12 人はグループ NR に分類された。年齢、ケタミンの投与量、治療前の NRS、HADS、および PCS に関して、2 群間に有意差は無かった。またfMRI 中の 2 群間の頭部の動きの差についても検討し、有意な差が無い事を確認した。

グループ R とグループNR 間の脳機能的結合分析(Seed-to-voxel correlation analysis)
グループ R の mPFC と楔前部(PCu)の機能的結合は、グループ NR に比して有意に低かった(voxel level p < 0.001, uncorrected; cluster level p < 0.05, FWE corrected)。 MPFC は加齢による影響を受けやすい領域であり、被験者に高齢者が含まれているため、加齢の影響を年齢の共変量で調整する解析を追加で行い、ほぼ同じ結果が得られた(voxel level p < 0.002, uncorrected; cluster level p < 0.05, FWE corrected)。顕著性ネットワーク、側坐核、扁桃体のをシードとした解析では、グループ R とグループNR の間に有意な差は無かった。

mPFC–PCu 間の機能的結合とケタミンによる痛みの改善率の相関
各患者の fMRI データから mPFC と PCu 間の機能的結合強度の値として Z 値(平均)を抽出した。 Z 値と NRS の治療前後での減少率(痛みの改善率)との相関分析により、mPFCと PCu 間の機能的結合とケタミンによる NRS の減少率との間に有意な負の相関関係を認めた(r = −0.76、p <0.001)。

独立成分分析
Seed-to-voxel correlation analysis により、mPFC-PCu 間の機能的結合が麻酔下用量ケタミンの治療効果と関連していることが示された。 mPFC と precuneus はどちらも DMN の中核となる脳領域である。 結果 DMN の変化に関連している可能性を考慮するために、グループ ICAを実行した。グループ ICA により fMRI データ内の 20 の独立したコンポーネント(独立成分;IC)を抽出した。抽出された IC から、CONN に実装されている安静時ネットワークのテンプレートマッチングに従って、DMN に対応する 2 つの IC を選択した。 ただし、これらのIC には Seed-to-voxel correlation analysis で使用された mPFC がほとんど含まれていなかったため、mPFC を含む別の IC を選択した。これらの IC を用いて 2 標本 t 検定を実行したが、グループ R とグループNR の間に有意差は無かった。

討論
本研究で、mPFC と PCu 間の脳機能的結合が、麻酔下用量のケタミンに反応した慢性疼痛の患者で有意に低いことを明らかになった。またケタミンによる痛みの改善率と mPFC-PCu間の機能的結合強度との間に有意な負の相関関係があることも明らかになった。

近年、ケタミンは注目すべき研究対象として、また複数の精神障害の有望な薬として使用されている。局所および全脳レベルでのケタミンの効果を検討する研究において、fMRI は放射線被曝のリスクを伴わず高い空間的時間的解像度を持ち、有用であると考えられている。脳イメージング研究で、ケタミンは健康成人における影響を観察した報告はあるが、慢性疼痛患者に対する麻酔下用量のケタミンの投与の効果を調べた脳イメージングの研究は無い。

mPFC は人間の意思決定プロセスと下行性疼痛抑制経路に関連する脳領域であると考えられている。PCu の完全な機能はまだ不明である。 mPFC-PCC/PCu の結合が痛みに関連するという報告はいくつかある。mPFC と PCu は物理的な痛み刺激だけではなく、感情的な痛みにも反応する脳領域である。本研究では、HADS-D スコアがグループ R において有意ではないが高い傾向があり、感情的な痛みにケタミンがより効果的である可能性がある。

mPFC と PCu はいずれも DMN の中核領域である。多くの研究で DMN が慢性疼痛患者で変化することが報告されている。今回の結果が DMN の変化に関連する可能性を考慮するために、グループ ICA を実行したが群間差は認めなかった。今回の結果は特定のネットワークの差ではなく、あくまで 2 領域間の結合の差によると考えるべきである。

この研究では、mPFC-PCu 間の脳機能的結合が麻酔下用量のケタミンに反応した慢性疼痛の患者で有意に低いことを明らかにした。さらにケタミン投与による痛みの改善率と mPFCと PCu 間の機能的結合強度との間に有意な負の相関関係があることを明らかにした。ケタミンは、mPFC と PCu 間の脳機能的結合が低い慢性疼痛の患者の治療に効果的な可能性がある。本研究は、脳機能的結合と慢性疼痛に対する麻酔下用量ケタミンの効果との相関関係を検討した初めての研究であり、慢性疼痛の薬理学的治療における脳画像的なバイオマーカーの可能性を示した。

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