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大学・研究所にある論文を検索できる 「免疫関連有害事象に対するバイオマーカーとしての可溶性インターロイキン2受容体」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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免疫関連有害事象に対するバイオマーカーとしての可溶性インターロイキン2受容体

高井, 亮 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景・目的】
がん免疫療法薬として、免疫応答を抑制する免疫チェックポイント分子(PD-1 [programmed cell death-1]、CTLA-4 [cytotoxic T-lymphocyte antigen 4]など)を標的とする免疫チェックポイント阻害剤(ICI:immune checkpoint inhibitor)が開発された。ICI は患者の免疫を賦活しがん細胞を排除するため、様々ながん種の治療に有効であり、がん治療の重要な薬剤となっている。しかし、免疫系を賦活することで、免疫関連有害事象(irAE: immune-related adverse events)と呼ばれる自己免疫疾患様症状を引き起こすことがある。

すべての ICI は irAE を引き起こす可能性がある。下垂体炎、肝炎、糖尿病、大腸炎、間質性肺炎、心筋障害など発症臓器は多岐にわたり、その発症時期も様々である。重篤な irAE(grade≧3)は、抗 CTLA-4 抗体を投与した患者の 28~56%、抗 PD-1 抗体を投与した患者の 21~32%に発症すると報告されている。重度の irAE が持続する患者では ICI 投与中止を余儀なくされ、irAE を軽減するためにステロイドや免疫抑制剤の長期投与が必要となる場合があり、ICI によるがん免疫療法に大きな弊害をもたらす。重篤な irAE の対策は、早期診断と迅速な介入であるが、irAE のバイオマーカーについてはほとんど知られておらず、その発症様式は依然として予測不可能である。以上より、早期診断や疾患活動性評価のためのバイオマーカーが必要とされているが、現在、日常診療で利用可能な irAE のバイオマーカーは存在していない。

血清可溶性インターロイキン 2 受容体(sIL-2R: Serum soluble interleukin-2 receptor)は、リンパ球(T 細胞および B 細胞)の免疫活性化のマーカーと考えられており、非ホジキンリンパ腫や成人 T 細胞白血病/リンパ腫などのバイオマーカーとして認識され、日常診療において悪性リンパ腫患者の病態や治療効果の評価、再発の検出のために測定されている。今回我々は、悪性黒色腫と濾胞性リンパ腫の重複癌患者に ICI 治療を行った際に発症した皮膚 irAE の病勢が、血清 sIL-2R の変化と平行して変動している症例に遭遇した。この経験から、血清 sIL-2R は irAE のバイオマーカーになるという仮説を立てた。本論文では、まず、仮設立案のきっかけになった症例を報告する。次いで前向きな検証として、ICI 投与患者に対して、ICI 投与前および投与中に血清 sIL-2R を測定し、irAE 発生と血清 sIL-2R の関係を評価したのでこれを報告する。

【症例報告】
症例は濾胞性リンパ腫にて 9 年前に化学療法を受けた 67 歳男性。再発のフォローアップとして 6 カ月ごとに CT 検査と血清 sIL-2R の測定を行っていた。フォローアップ中に重複癌として肝転移を伴う悪性黒色腫と診断された。悪性リンパ腫は無治療にて長期に安定していたため、転移性の悪性黒色腫の治療に専念することとし、ICI 治療(ニボルマブおよびイピリムマブ)を実施した。2 サイクル後、皮疹が認められ、生検により grade 3 の皮膚 irAE と診断された。興味深いことに、リンパ腫フォローアップ目的に測定していた血清 sIL-2R 値が、リンパ腫の増悪なしに上昇しており、上昇の時期は皮膚 irAE の発症時期と一致 していた。irAE 皮膚炎に対し副腎皮質ホルモンの全身投与が行われたが、皮膚 irAE は改善に並行して血清 sIL-2R も低下した。本症例より、我々は sIL-2R が irAE のバイオマーカーとなる可能性があると考え、以下の研究を行った。

【対象と方法】
2019 年 5 月から 2020 年 6 月にかけて、神戸大学医学部附属病院において ICI による治療をうける15 名の患者を対象とし、治療開始前、1 サイクル目の 1 週間後、2 サイクル目投与時の 3 回血清サンプルを採取し血清 sIL-2R を測定した。
上記の症例以外に、過去に grade3 の irAE を発症した患者(n = 5)の発症時の凍結保存血清サンプルにおいても血清 sIL-2R を測定した。

【結果】
15 名中 3 名の患者で、2 サイクル目投与時に grade≧2 の irAE を発生した。irAE を発症した 3 名の患者(grade2 の甲状腺機能障害 2 名、grade3 の肝炎 1 名)では、同ポイントで血清 sIL2R 値の著明な上昇が認められた。irAE を生じなかった 12 名の患者では血清 sIL-2R に有意な変化を示さなかった。次に、治療前の血清 sIL-2R 値を基準に Fold-change を算出した。irAE を発症した 3 名は 2 サイクル目投与時(irAE 発症時)に 3.52 倍、4.50 倍、5.82 倍に上昇していた。発症しなかった 12 名では 0.99 から 1.71 倍(中央値=1.20)と著名な変化は認められていない。興味深いことに、発症した 3 名の患者では、irAE 発症前である「1 サイクル目の 1 週間後」から Fold-change の増大を認めていた。

さらに、過去に grade3 の irAE を発症した 5 名の患者(肝炎 2 名、ぶどう膜炎 1 名、皮膚炎 1 名、間質性肺炎 1 名)の発症時の凍結保存血清サンプルにおいても全員に血清 sIL-2R の上昇(1665, 2138,950, 1241, and 2033 U/mL [基準値:121-613 U/mL]) を認めた。

【考察】
本研究では、irAE の発症時に発症臓器に関係なく血清 sIL-2R の上昇を認めた。この結果は、sIL- 2R が irAE の発症と関係していることを示唆している。また、症例では irAE 皮膚炎の軽快とともに血清 sIL-2R も低下している。sIL-2R は免疫活性の指標の一つであり、irAE の活動性と関連することが考えられる。さらに血清 sIL-2R の Fold-change に注目すると、irAE 発症よりも早期に増加が始まっており、血清 sIL-2R はirAE 発生を予測するバイオマーカーとなる可能性が示唆された。

これまで、irAE のバイオマーカー候補を探索し、報告した研究は少ない。田中らは、ニボルマブを投与された悪性黒色腫患者における複数のサイトカインの変動を評価し、投与後の血清 IL-6 の上昇が irAE の発症に関連することを示した。Tarhini らは、ベースラインの血清 IL-17 が、イピリムマブ治療中の irAE、特に irAE 大腸炎の発生と関係することを明らかにした。IL-17 値は炎症性腸疾患患者で上昇するため、この知見は合理的である。さらに、Khan らは最近、irAE を発症した患者は、発症していない患者と比較して血清ケモカイン CXCL9 および CXCL10 のレベルが大きく上昇することを報告した。これらのサイトカイン・ケモカインは、免疫細胞の動員や炎症の促進など、免疫活動の重要な調節因子であることから、irAE のバイオマーカーとして期待されている。しかし、これらのサイトカイン・ケモカインは研究において測定さるものであり、実臨床では測定されていない。一方、血清 sIL-2R は、悪性リンパ腫患者において日常的に広く測定されており、簡便に測定することができる。また、血清 sIL-2R は、感染症、悪性腫瘍(肺がん、腎臓がん)、自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、血管炎症候群)など様々な炎症性疾患と相関があることも報告されており、irAE のバイオマーカーとして理にかなっている。現在までに血清 sIL-2R と irAE の関係について報告されたのは、血清 sIL-2R と irAE 肺炎の活動性の相関を報告した 1 例の症例報告があるのみであり、本研究は irAE バイオマーカー研究にとって有意義なものと考える。

【結論】
本研究では、血清 sIL-2R と irAE との関係を明らかにした。本研究はサンプルサイズが小さくさらなる研究が必要であるが、血清 sIL-2R の測定は、irAE の診断、発症予測や疾患活動性の評価に役立つ可能性が示唆される。血清 sIL-2R 値が irAE のバイオマーカーとなりうることを示唆している。

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