非平面環状π共役分子の理論的研究
概要
令和 4 年度
京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
非平面環状π共役分子の理論計算
Theoretical Study of Non-planar Cyclic -Conjugated Molecules
京都大学 化学研究所 材料機能化学研究系 高分子制御合成研究領域
茅原栄一
研究成果概要
直交するπ電子系を融合すると、π共役のねじれが生じる。そのようなπ共役分子のト
ポロジーの変化は、新たな物性発現の可能性から興味深い。実際、メビウスの輪構造を持つπ共
役分子の合成法として、直交する軌道を持つ二つのユニットを融合させることがすでに提案され
ているが、それを実現できたのはこれまで1例のみだけであった。一方で、我々は、環状構造を持
つ、シクロパラフェニレン(CPP, Figure 1)の合成研究を進めてきており、CPPは分子の面内から放
射状に広がった軌道を持つことから、この分子と通常の平面構造を持つ共役分子を融合するこ
とで、メビウスπ共役分子の一般性の高い合成法を開発できるのではと考えた。
実際には、CPPを合成する中間体を用
い、その分子にエチレンユニットやオルトフ
ェニレンユニットを挿入することで、「メビウ
スの輪」1および置換体2の合成に成功した。
さらに1, 2はいずれも結晶状態においてパ
ラフェニレンの回転が抑制されているため、
「メビウスの輪」構造を持つことが分かった。
なお、1を溶液に溶かすとパラフェニレンの
回転のために「メビウスの輪」構造が消失
するが、2では溶液状態でも低温で「メビウ
スの輪」構造を保っていることを明らかにし
Figure 1. Synthesis of alkene-inserted [N]CPPs.
ました。また、比較のために、二つのエチレ
ンユニットを導入した2も合成し、これが二重ねじれ構造を持つことも明らかにした。
DFT計算(B3LYP/6-31G*)により得られた1の最安定構造は、単結晶構造解析で得られた構
造と良い一致を示した。さらに、HOMO/LUMOエネルギーのサイズ依存性を見たところ、1
はCPPと同じく、環サイズが小さくなるとHOMOが上昇、LUMOが低下し、HOMO-LUMO
ギャップが狭くなる一方で、2ではその逆の傾向が見られた。これは、1はCPPと同様に十分
に環内で共役しているのに対し、2では十分に共役できていないためであると考えられる。
さらに、1がCPPと同様に環サイズが小さいほどHOMO-LUMOギャップが狭い興味深い分子
であることを理論、実験の両面から明らかにした。
発表論文(謝辞あり)
“Synthesis of Twisted [N]Cycloparaphenylenes by Alkene Insertion”
Terabayashi, T.; Kayahara, E.;* Mizuhata, Y.; Tokitoh, N.; Nishinaga, T.; Kato, T.; Yamago, S.*
Angew. Chem. Int. Ed. 2023, 62, e202214960. ...