高周期典型元素を含む新規結合様式の創出

概要

令和 4 年度

京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
高周期典型元素を含む新規結合様式の創出

Synthesis of Compounds Having Novel Bonds of Heavier Main Group Elements
京都大学化学研究所 物質創製化学研究系 有機元素化学研究領域 水畑 吉行
研究成果概要
本研究では、京都大学化学研究所スーパーコンピュータシステムの Gaussian 16 プログラム
を利用し、合成に成功した不飽和ケイ素クラスター群に関して、その構造・性質に関しての検
証を行った。
置換基を持たない裸のケイ素頂点を持つ不飽和ケイ素クラスターである「シリコノイ
ド」は、その特徴的な構造や電子状態のみならず、アモルファス・バルクシリコンの
CVD プロセスにおける潜在的な中間体として見なされるようになり、その重要性が増
している。しかし、その合成の困難さや化合物の不安定性から非常に報告例が少なく、
いまだ未解明な点が多い化合物群である。
当研究室では、かさ高い置換基である Tbb 基を有するペンタブロモジシラン前駆体の
還元的脱ハロゲン化反応によって、これまでにない種々のアニオン性ケイ素クラスター
が合成できることを見出している。今回新たに、生成物および中間体の結晶性の変化に
伴う新規クラスターの合成・単離を指向して、Tbb 基のパラ位置換基を排した Bbp 基を
用いた前駆体の還元反応を検討した。その結果、Tbb 基の系と同様、五角錐型構造を有
するアニオン性 Si6 クラスター1 に加え、新たにアニオン性 Si7 クラスター2 が生成して
いることを明らかにした。
化合物 1 および 2 の構造は最終的に X 線結晶構造解析により決定した。化合物 1 および 2
の対カチオンを除いたリアル分子による構造最適化を B3LYP-D3/6-31G(d,p)レベルにて行っ
たところ、その構造パラメーターは実測値を極めて良く再現していた。これまでに化合物 1
のもつ五角錐型クラスターの電子状態に関しては詳細な検討をしてきており、五角錐頂
点と底面の間に 6 電子が非局在化する 3 次元芳香族性が発現していることを明らかにし
ている。化合物 2 に関しても、B3LYP-D3/6-311G(2df,2p)レベルによる NBO 計算に加え、
同レベルでの GIAO 計算を基にした GIMIC (Gauge-Including Magnetically Induced Currents)
計算、外部プログラムによる IBO (Intrinsic Bond Orbital)分析等の結果から、骨格全体におい
て、σ結合の組み換えを伴う電子の非局在化が起こっていることを明らかにした。 ...