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大学・研究所にある論文を検索できる 「H.pylori感染及び慢性胃炎と脂質データとの関連性についての検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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H.pylori感染及び慢性胃炎と脂質データとの関連性についての検討

権頭, 健太 東京大学 DOI:10.15083/0002002400

2021.10.13

概要

Helicobacter pylori(HP)感染者は世界中に分布していることが知られている。中でも東アジアにおいて罹患者数が多いとされており、本邦においては将来的に全人口における感染率の低下が進むと考えられているが、2018年現在でも、国内の感染者は3000万人以上と予想されている。HP感染により、慢性胃炎、胃癌、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、鉄欠乏性貧血等、胃内外の疾患を引き起こすことが知られている。

 近年、本邦においてHPと同様、罹患数が多く、併発疾患の多い疾患として脂質異常症が挙げられる。脂質異常症は動脈硬化のリスク因子であり、脳梗塞、冠動脈疾患等の動脈硬化性疾患を引き起こすことが知られている。本邦における死因統計において動脈硬化性疾患は癌についで26%と大きな割合を占めており、予防や治療を行う上で、脂質異常症に関する検討は臨床上重要であると考えた。

 HP感染と脂質異常症は世界的にも頻度が極めて高く、近年両者の関連についての報告も増えているが、HP感染により脂質データ(LP)が悪化するとするものや、有意な関連を認めないとするものもあり、実際の関連性についてコンセンサスが得られていないのが現状である。本研究においてHP感染とLPの詳細な解析を行い、実際の関連性を明らかにすることは有用であると考えた。さらに、血清ペプシノゲン(PG)判定を基準とした胃粘膜萎縮、内視鏡画像的胃粘膜萎縮所見とLPの関連を解析することにより、HP感染によって引き起こされる胃粘膜の萎縮がLPの変化に関与しているかを解析することとした。また、HP関連性疾患のリスクを考える際、HPが既感染であるか現感染であるかは臨床上重要であることが多い。現感染群も既感染群も未感染群と比較して胃癌発生リスクが高いことが知られており、胃MALTリンパ腫に関してはリスクは概ね現感染のみに限られることが知られている。同様に、脂質異常症に関しても感染状態によるリスクの変化は検討に値すると考え、除菌治療による状態変化を考慮して解析を行うこととした。

 システマティックレビューとして1995年から2017年の間にPubMed、医中誌、CiNii上に発表された論文においてpylori、lipidの2単語でand検索を行い、論文抽出を行った。論文組み入れ条件を「英文のabstractとfull textが存在する」・「HP感染群と非感染群におけるLPの平均±標準偏差(mean±SD)を比較したデータが存在する」とし、最後に自験データ1本を組み入れ、最終的に42本の論文が抽出された。主要評価項目は、HP感染診断別のLPの標準化平均差とした。各論文のバイアスリスクについてはNewcastle-Ottawa Scaleを用いて評価した。固定効果モデルを用いて各研究のHP感染群と非感染群各群の各Total Cholesterol(TC)、High Density Lipoprotein(HDL-C)、Low Density Lipoprotein(LDL-C)、Triglyceride(TG)について統合を行った。

 TCのデータ(47本)においてHP非感染群に対する感染群の効果量はSMD=0.08(95%CI:0.07-0.10)、HDL-Cのデータ(46本)においてSMD=-0.12(95%CI:-0.14--0.11)、LDL-Cのデータ(37本)においてSMD=0.10(95%CI:0.09-0.12)、TGのデータ(38本)においてSMD=0.06(95%CI:0.05-0.07)であった。各項目においてfunnel plotを描出したところ、いずれも対称的であり、出版バイアスはないと考えた。GRADEシステムを用いた最終的なエビデンス評価は「非常に低い~低い」という結果であった。

 次に、自験データにおける大規模健常者データの解析を行った。

 2010年1月から12月までに単一施設において人間ドックを受けた20773人から下記を除外基準とした16071人を対象者とした。除外基準は、(1)年齢・性別・BMI・血清抗HP抗体・PG・LPのデータがない者、(2)PPI内服中の者、(3)スタチン内服中の者、(4)胃切除歴を有する者、(5)除菌歴を有する者とした。上記対象に対し血清抗HP抗体によるHP感染診断、PG法による血清萎縮診断を行った。また、2010年内に上部消化管内視鏡を行った13138人の内視鏡画像について主任研究者を中心に読影を行い、画像的萎縮診断を行った。木村竹本分類におけるC-1群は読影者により判定のばらつきが大きいため除外し、9702人を内視鏡画像的萎縮診断の対象とし、C-0を萎縮陰性、C-2、C-3、O-1、O-2、O-3を萎縮陽性とした。

 HP感染診断、血清萎縮診断、内視鏡画像的萎縮診断におけるLPをマッチング前後で比較した。

 HP感染診断のマッチングはPropensity score matchingを用いて、調整因子を年齢・性別・BMI・飲酒歴・喫煙歴・運動習慣とした。血清萎縮診断・内視鏡画像的萎縮診断においてはHP感染診断を調整因子に追加した。全ての検定において、両側検定でp≦0.05を統計学的に有意とした。単位はLPは全てmg/dL、増加率は%とする。

 HP感染診断別のLPの比較において、マッチング前は陽性群(4693人)がTC:205.7±32.7、HDL-C:63.3±16.2、LDL-C:128.8±30.4、TG:108.0±78.4、陰性群(11378人)がTC:200.1±32.4、HDL-C:65.9±17.1、LDL-C:121.2±31.0、TG:102.8±73.5であり、陽性群でTC、LDL-C、TG、陰性群でHDL-Cが有意に高値であった。マッチング後は各群4653人であり、陽性群がTC:205.7±32.7、HDL-C:63.3±16.2、LDL-C:128.8±30.4、TG:108.1±78.7、陰性群がTC:204.7±31.8、HDL-C:65.3±17.0、LDL-C:125.7±30.2、TG:109.8±81.2であり陽性群でLDL-C、陰性群でHDL-Cが有意に高値であった。血清萎縮診断別の比較において、マッチング前は陽性群(1862人)がTC:205.9±32.3、HDL-C:63.7±16.0、LDL-C:129.0±30.1、TG:103.3±67.3、陰性群(14209人)がTC:201.1±32.6、HDL-C:65.3±17.0、LDL-C:122.7±31.0、TG:104.4±76.0であり陽性群でTC、LDL-C、陰性群でHDL-Cが有意に高値であった。マッチング後は各群1824人であり、陽性群がTC:206.0±32.3、HDL-C:63.7±16.1、LDL-C:129.1±30.1、TG:103.8±67.8、陰性群がTC:208.7±32.2、HDL-C:63.8±16.7、LDL-C:131.3±30.2、TG:109.0±71.3であり、陰性群でTC、LDL-C、TGが有意に高値であった。

 内視鏡画像的萎縮診断別の比較において、マッチング前は陽性群(3320人)がTC:205.4±32.6、HDL-C:63.1±16.3、LDL-C:128.5±30.5、TG:109.1±78.0、陰性群(6382人)がTC:201.1±32.0、HDL-C:66.2±17.2、LDL-C:121.8±30.4、TG:102.3±73.1であり、陽性群でTC、LDL-C、TG、陰性群でHDL-Cが有意に高値であった。マッチング後は各群1179人であり、陽性群がTC:202.5±32.0、HDL-C:63.7±16.3、LDL-C:125.5±30.6、TG:105.2±73.4、陰性群がTC:203.9±32.0、HDL-C:65.1±16.3、LDL-C:125.0±30.1、TG:105.3±78.1であり、陰性群でHDL-Cが有意に高値であった。C-2・C-3を弱萎縮群、O-1・O-2・O-3を強萎縮群としたサブグループ解析において、マッチング前は弱萎縮群(1617人)が強萎縮群(1703人)に対し有意にHDL-Cが高値であった。マッチング後は各群1322人であり、LPはいずれも有意差を認めなかった。

 全体の対象者のうち、2010年から2015年までフォローを行った7725人において、2010年のLPに対する2015年の数値差、増加率をマッチング後に比較した。

 HP感染診断は陽性・陰性各群2059人であり、数値差において陽性群はTC:7.98±28.5、HDL-C:2.91±9.49、LDL-C:2.71±26.7、TG:4.66±58.9、陰性群はTC:8.74±28.6、HDL-C:2.81±9.29、LDL-C:3.87±27.1、TG:1.97±59.8、増加率において陽性群はTC:4.91±13.8、HDL-C:5.40±15.4、LDL-C:4.50±21.0、TG:14.2±47.6、陰性群はTC:5.33±13.9、HDL-C:5.33±15.7、LDL-C:5.89±25.6、TG:12.2±47.5であり、いずれも有意差を認めなかった。

 血清萎縮診断は陽性・陰性各群788人であり、数値差において陽性群はTC:8.86±28.5、HDL-C:3.36±9.63、LDL-C:3.32±26.2、TG:4.96±55.4、陰性群はTC:6.55±28.6、HDL-C:2.85±9.19、LDL-C:1.28±27.0、TG:3.42±64.5、増加率において陽性群はTC:5.34±14.0、HDL-C:6.18±15.5、LDL-C:4.81±20.2、TG:14.1±50.8、陰性群はTC:4.16±13.7、HDL-C:5.36±15.4、LDL-C:3.47±21.9、TG:13.3±46.3であり、いずれも有意差を認めなかった。

 内視鏡画像的萎縮診断は陽性・陰性各群616人であり、数値差において陽性群はTC:8.37±29.0、HDL-C:3.40±9.11、LDL-C:2.82±27.6、TG:4.36±60.3、陰性群はTC:9.06±28.6、HDL-C:3.14±9.90、LDL-C:3.75±27.5、TG:3.94±72.2、増加率において陽性群はTC:5.20±13.9、HDL-C:6.22±15.0、LDL-C:4.61±20.7、TG:13.8±55.3、陰性群TC:5.57±13.8、HDL-C:6.04±17.7、LDL-C:6.62±33.9、TG:13.8±48.0であり、いずれも有意差を認めなかった。また、弱萎縮・強萎縮各群652人であり、数値差・増加率においてLPはいずれも有意差を認めなかった。

 2010年の時点で、除菌歴がありHP陰性である除菌群と、除菌歴がなく、HP陽性である非除菌群のLPをマッチング前後で比較した。

 マッチング前において除菌群(1108人)がTC:203.7±30.0、HDL-C:63.7±16.6、LDL-C:125.6±29.5、TG:113.6±78.1、非除菌群(4984人)がTC:205.7±32.7、HDL-C:63.3±16.2、LDL-C:128.8±30.3、TG:108.1±77.6であり、非除菌群でLDL-C、除菌群でTGが有意に高値であった。マッチング後は各群1017人であり、除菌群がTC:203.6±29.9、HDL-C:63.7±16.7、LDL-C:125.5±29.5、TG:113.6±78.1、非除菌群がTC:204.9±32.0、HDL-C:61.3±16.2、LDL-C:129.0±30.5、TG:114.8±79.7であり、除菌群でHDL-C、非除菌群でLDL-Cが有意に高値であった。

 2010年の時点でHP陽性であった群において、2015年までのフォロー中に除菌を行った除菌群と除菌を行わなかった非除菌群の、2010年のLPに対する2015年の数値差、増加率をマッチング後に比較した。

 除菌・非除菌各群833人であり、数値差において除菌群がTC:6.77±29.0、HDL-C:4.08±9.83、LDL-C:0.73±26.2、TG:4.56±59.0、非除菌群がTC:7.78±26.8、HDL-C:1.80±9.22、LDL-C:3.42±25.9、TG:4.19±52.7であり、除菌群でHDL-C、非除菌群でLDL-Cが有意に高値であった。また、増加率において除菌群がTC:4.41±14.2、HDL-C:7.12±16.0、LDL-C:2.85±20.6、TG:13.5±48.4、非除菌群がTC:4.56±12.8、HDL-C:3.69±14.7、LDL-C:4.87±20.8、TG:13.5±42.7であり、除菌群でHDL-C、非除菌群でLDL-Cが有意に高値であった。

 HP感染診断、血清萎縮診断、内視鏡画像的萎縮診断とLPについて、横断解析においては両者の関連を認めたが、縦断的解析においては関連を認めなかった。HP感染によるLPに対する効果量は小さく、臨床的な意義は少ないと考えたが、除菌治療によりLPの悪化が抑制されており、さらなる長期フォローを行う意義はあると考えた。

 HP感染とLPの関連の機序に関し、既報より除菌治療により内分泌ホルモンの変化、炎症性サイトカインの修正が起き、インスリン感受性が上昇することによりLP悪化が抑制されるという仮説も立てられるが、体重やBMIが増加し、影響が認められないという報告もある。長期フォローを行うと共に、上記ホルモンやインスリン抵抗性についても考慮した解析を行うことにより、HP感染とLPの関連性についてのさらなる解明を今後の研究課題としたい。

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