リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「Increase in breath hydrogen concentration was correlated with the main pancreatic duct stenosis」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

Increase in breath hydrogen concentration was correlated with the main pancreatic duct stenosis

Sakai, Daisuke 酒井, 大輔 名古屋大学

2020.04.02

概要

【緒言】
大気中に含まれる水素(H2)の濃度は 1ppm 以下であり、密度が小さい気体であるために、他の気体に比して拡散速度が非常に速いという特徴がある。近年、水素のラジカルとの選択的反応、抗酸化物質としての特徴が注目されており、水素の酸化ストレスによる細胞死の抑制、虚血再灌流障害の抑制といった機構に着目した多くの動物実験研究結果が報告されている。水素は、ヒトの体内において未吸収の炭水化物が腸内細菌の持つヒドロゲナーゼにより分解、代謝を受けて腸管内で発生する。腸管内における水素産生菌には、嫌気性菌である Eubacterium、Clostridium、Bacteroides 及び Fusobacterium などがある。発生した水素の一部は血流に拡散し、呼気中に放出され検出される。

膵癌をはじめとする膵外分泌機能が低下した症例では膵液の産生が低下し、炭水化物をはじめとした栄養素の消化吸収が低下することが知られている。その結果腸管内の未消化の炭水化物が増加し、呼気水素濃度(Breath hydrogen concentration : BHC)が上昇する可能性が考えられる。しかしこれまで膵疾患患者の血液検査等の客観的データや画像所見と呼気水素濃度の関連についての報告は少なく、定説はない。

そこで、本研究では呼気水素濃度と膵疾患の関連について検討することとした。

【対象及び方法】
対象症例の選択基準は 20 歳以上の成人で、本研究について十分な説明をうけ書面による同意を得た症例とした。対象症例は膵疾患群と非膵疾患群に分類された。

膵疾患群は、膵癌、自己免疫性膵炎、嚢胞性膵腫瘍の症例とした。膵癌例(PC)は手術または EUS-FNA(EUS guided fine needle aspiration)により病理組織学的に膵管癌と診断した症例を対象とした。自己免疫性膵炎例(AIP)は ICDC2011 に基づく確診例を対象とした。膵嚢胞性腫瘍(CN)は MCN/IPMN 国際診療ガイドラインに基づき診断した症例を対象とした。非膵疾患群(Normal)は、腹部 CT 検査、超音波検査、血液検査で膵疾患が否定された症例とした。除外基準は、妊婦または妊娠している可能性のある婦人、絶食中の症例、胃・十二指腸・小腸・大腸の手術歴のある症例、重度の慢性心不全や慢性腎不全のある症例、文書による同意の得られない症例、その他検査担当医が不適切と判断した症例とした。

対象者は病院食のみを 3 日間摂取後に、測定前日夜 9 時から絶食とし、当日朝 8 時に呼気ガス採取を行った。呼気は 2 回の深呼吸後に 20 秒間の息止めの後、容量 1L の近江オドエアーサービス社製 PVDF バックに採取した。呼気水素分析には産業技術総合研究所が開発した水素ガス検知器を使用した。

呼気水素濃度に明確な基準値はなく、今回測定した症例の中央値を基準とした。中央値を超えた症例(BHC 高値群)と中央値以下の症例(BHC 低値群)に分類し、年齢、身長、体重、BMI、膵疾患(PC,AIP,CN)、糖尿病、血糖降下薬内服の有無、血液検査結果 (ヘモグロビン値、HbA1c、GOT、GPT、ALP、γGTP、LDH、総ビリルビン、AMY、リパーゼ、総蛋白、アルブミン、TG、グルコース)、膵疾患に特徴的な画像所見(膵腫大、石灰化、膵のう胞、主膵管狭窄、主膵管拡張)の有無につき、群間比較を行った。膵腫大の定義には「CT において膵頭部で 1 椎体以上、膵体尾部で 2/3 椎体以上」とした Haage らの基準を用いた。また主膵管径が 3 ㎜を超えたものを主膵管拡張とした。主膵管狭窄は ERCP、MRCP、EUS で、石灰化、膵のう胞は CT、EUS で診断した。

本研究は名古 屋大学医 学部附属 病院倫理 委員会の 承認を得 て実施し た (UMIN000020777)。
各種評価項目につき、正規分布に従わない 2 群間以上の比較を行う際にはノンパラメトリック検定(Mann-Whitney U 検定、Steel-Dwass 検定)を用い、2 群間で割合の差を検定する際には Fisher の直接確率検定を用いた。

また、ある事象の発現に関与する因子につき統計学的に解析する際には単変量解析で P 値が 0.2 以下の因子を抽出し、多変量解析を用いた。P 値 0.05 未満を統計学的に有意と判定した。統計解析には SPSS(Version 20,IBM.)を使用した。

【結果】
2016 年 10 月から 2017 年 8 月までにエントリーされた 68 例(膵疾患群 45 例、非膵疾患群 23 例)につき検討を行った。膵疾患群の内訳は膵癌 20 例、自己免疫性膵炎 13例、嚢胞性膵腫瘍 12 例であった(表 1)。68 例の呼気水素濃度の中央値は 9ppm(4- 60ppm)であり、測定値が 9ppm を超えた症例(BHC 高値群:32 例)、9ppm 以下の症例 (BHC 低値群:36 例)に分けて群間比較を行った。BHC 高値群では年齢が有意に高く (P=0.010)、PC 症例、AIP 症例の割合が有意に高かった(それぞれ P=0.018、P=0.004)。糖尿病症例、また血糖降下薬内服者の割合は、いずれも有意差を認めなかった(それぞれ P=0.618、P=0.302)(表 2)。また血液検査項目では Alb 値が高値群で有意に低かった (P=0.005)がその他の項目では有意差を認めなかった(表 3)。膵疾患に特徴的な画像所見については膵腫大、主膵管狭窄、主膵管拡張の割合が高値群で有意に高い結果であった(それぞれ P=0.0219、P<0.001、P=0.0021)(表 4)。単変量解析で P 値が 0.2 以下の因子(年齢、PC 症例の割合、AIP 症例の割合、HbA1c、Alb、グルコース、膵腫大の有無、主膵管狭窄の有無、主膵管拡張の有無)を抽出し、多変量解析を行ったところ、主膵管狭窄のみが独立した因子として抽出された(P=0.014)(表 5)。

【考察】
我々は、呼気水素が未吸収炭水化物の腸内細菌による分解、代謝を受けて腸管内で発生するもののみに由来することに着目して、呼気水素濃度が膵癌を初めとした外分泌能の低下した膵疾患の予測に有用であると考え今回の検討を行った。従来、呼気水素試験は主に小腸細菌異常増殖(SIBO)の診断に使用されているが、ラクトースやグルコースを負荷し、空腹の状態で 2 時間から 4 時間程度連続して呼気を測定する必要がある。そのため耐糖能異常をきたしている患者が多い膵疾患症例では負担が大きくなることを危惧し、早朝空腹時の測定のみを検討した。空腹時呼気水素濃度は、年齢、体重、BMI、糖尿病、血糖降下薬内服の有無などの様々な因子に影響されると報告されているが、本検討では年齢のみが BHC 高値群で高い結果となった。BHC 高値群では PC,AIP などの主膵管に所見を有する疾患の割合が高く、また画像所見でも主膵管狭窄、拡張を来す症例の割合が高かった。主膵管狭窄例では膵液の分泌が減少していると考えられ、それによって腸管内の未消化の炭水化物が増加し、嫌気性菌により産生される水素が増加するとこが推測される。また膵癌を初めとする膵疾患の外分泌能低下の原因は膵液の減少にあり、今回の検討で多変量解析にて高値群に寄与する唯一の独立した因子として抽出された主膵管狭窄との関連は少なくないと考える。膵疾患においては呼気水素濃度に関連すると思われる腸内細菌叢あるいはその代謝産物の報告は少なく、今検討でも腸内細菌叢との関連は検討していないが腸内細菌叢の群間比較や呼気水素濃度と腸内細菌叢の関連などその興味は尽きず、今後の検討課題と考えている。

本研究の limitation は、呼気水素濃度を測定したほとんどの症例で膵外分泌機能の指標となる PFD 試験を行っておらず、呼気水素濃度と実際の膵外分泌機能との比較が行えなかったことである。また本研究の対象者は基本的に入院中の患者であり、健常者がほとんど含まれていないことがあげられる。

膵疾患の簡易スクリーニング検査は未だ十分であるとは言えず、低侵襲かつ簡便な検査である空腹時呼気水素試験がその糸口となることが期待される。

【結語】
本研究において、空腹時呼気水素濃度は膵癌をはじめとする主膵管狭窄を呈する膵疾患の予測に有用である可能性が示唆された。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る