Existence problems of fibered links
概要
3次元多様体は、ファイバー絡み目を持つときそのモノドロミーによってその多様体の構造を曲面の写像類の性質へと帰着させることができる。また逆に、2次元多様体の写像類が与えられたときその写像類をモノドロミーとするようなある次元多様体とそのファイバー絡み目を構成することができる。このようにファイバー絡み目、特にファイバー結び目の研究は2次元、3次元の両面から見て重要である。1923年にAlexander[1]は任意の連結有向閉3次元多様体がファイバー絡み目を持つことを示し、その後González-Acuña[5]、Myers[7]が更にファイバー結び目を持つことを示した。しかし、「与えられた3次元多様体内に与えられた位相形のファイバー曲面を持つファイバー絡み目を持つかどうか、またそれらがどのように多様体内に入るか」という問題は一般には難しい。この問題へのアプローチの一つとして、Heegaard分解を使う方法がある。ファイバー曲面に厚みを付けることによって多様体のHeegaard分解が得られ、ファイバー絡み目は分解曲面上に各ハンドル体を曲面と単位区間の積のbindingであるように置かれるが、その多様体の(適切な)Heegaard曲面上にそのような絡み目を配置できるかを調べるのである。森元[6]はこのアプローチによって種数1ファイバー結び目の研究を始め、後にBaker[2]の別のアプローチによって可約な種数2Heegaard分解を持つ多様体の種数1ファイバー結び目の個数が完全に決定された。種数1ファイバー結び目はその低種数性から手計算で扱うことができるが、より高種数の場合には上記の手法はそのままには適用することができない。しかし、全てのファイバー絡み目のファイバー曲面はplumbingとtwistingによって得られるため、種数1ファイバー結び目(やファイバーアニュラス)を一般の種数のファイバー絡み目の構成成分として扱うことができる。よって種数1ファイバー結び目の研究は重要であり、本論文のPartⅠ(Section1~6)では主にこの種数1ファイバー結び目を扱う。
Section1において、種数2gハンドル体の境界上の単純閉曲線がbindingであるかをcutsystemを用いて判定する方法を与え、それによって種数2gHeegaard曲面上の単純閉曲線が種数2gファイバー結び目であるかをHeegaard図式を用いて判定する方法を与える。これはg=1の場合に既に得られている結果[9]の一般化である。
Section2において、ある特別なSeifert多様体について種数1ファイバー結び目が存在しないことを示し、Section3において、別の特別なSeifert多様体についてそのopenbook種数(許容するファイバー結び目の種数の最小値)を決定した。種数1ファイバー結び目の非存在について、Section1の判定を活用した。
レンズ空間は、そのパラメータの連分数展開表示の長さに応じた個数の境界成分を持つ平面曲面をファイバーとする標準的なファイバー絡み目を持ち、それにHopfアニュラスをplumbingすることによってファイバー結び目を得ることができる。Section4では、Baker[2]によって得られたレンズ空間内の種数1ファイバー結び目を構成成分として、標準的なものの種数以下の種数を持つファイバー結び目を構成した。
3次元多様体のHeegaard分解の高次元化の一つとして、可微分4次元多様体のtrisection, relative trisection[4]がある。Relative trisectionに対して、境界にある3次元多様体のファイバー絡み目が割り当てられている。3次元多様体を調べる際、それが囲う4次元多様体がしばしば使われるため、relative trisectionはファイバー絡み目の研究に有用であることが期待される。実際Kirby図式上のファイバー曲面からrelative trisectionを作る方法も知られている。Section5において、レンズ空間の標準的な平面曲面をファイバーとするファイバー絡み目から標準的に得られる4次元多様体の最小種数のrelative trisectionを構成する。
ファイバー絡み目は、そのファイバー曲面の補空間が曲面と単位区間の積であることを要請するが、一つの一般化として、ファイバー曲面の補空間が「ホモロジー的に曲面と単位区間の積」であることを要請する「ホモロジーファイバー絡み目」というものがある。定義より、ホモロジーファイバー絡み目の存在はファイバー絡み目の存在のための必要条件になる。PartⅡではそのホモロジーファイバー絡み目について述べる。Section6において、レンズ空間たちの連結和が平面曲面をファイバーとするホモロジーファイバー絡み目/ホモロジーファイバー結び目を持つための必要十分条件を方程式の形で求め、野崎[8]の手法に従ってこの式を解くことにより、任意のレンズ空間が境界成分3つの平面曲面をファイバーとするホモロジーファイバー結び目を持つことを示す。