Minkowski Flux Vacua on CM-type K3 × K3 Orbifolds and their Particle Physics Implications
概要
論文審査の結果の要旨
氏名 菅野恵太
本論文は超弦理論のコンパクト化による素粒子の模型に関するものである。いくつかの
現象論的要請に従う模型を具体的に構成するのは困難と思われていたが,本論文では内部
多様体がある数論的性質を満たすときそれが可能であることを示した。
超弦理論のコンパクト化の中でも F 理論のフラックス・コンパクト化は素粒子の標準模
型に近い模型を構成するための有力な方法であるが,課題もある。特にビッグバン元素合
成がうまくゆくためには内部多様体の変形に対応するモデュライ粒子が重くなければなら
ず,低エネルギー超対称性を実現するにはスーパーポテンシャル W の値が小さくなくて
はならない。特に,W とその一回微分 DW が同時に 0 となる真空を見つけることが出発
点となる。これは条件の個数が変数の個数より大となる問題であり,具体的な解を構成す
るのは困難であった。そこで論文提出者は内部多様体が特殊な数論的性質を満たすときに
は W と DW の間に数論的関係が成り立ち,W = DW = 0 なる真空を構成できるかもし
れないという先行提案に着目し,特定の類の内部多様体について,実際にそのような真空
が存在するための数論的性質を書き下した。さらにそのような真空では大概の場合モデュ
ライ粒子が重くなることを確認した。
本論文は合計九つの章からなっている。第1章と9章は導入とまとめ、第一部 (第25章) は基礎事項や先行研究のレヴュー,第二部 (第6,7,8章) が独自の研究につい
ての本論である。第一部では超弦理論のコンパクト化による素粒子の模型の構成,そこ
に現れる上記の困難,数論的性質による困難の解消についてのアイデア,数論的性質に
ついての数学的事実,が述べられている。本論第6章と7章では内部多様体がそれぞれ
(K3 × K3)/Z2 と (K3 × K3)/Zm の場合に,W = DW = 0 なる真空が存在するための内
部多様体の満たすべき数論的性質を書き下し,そのような真空でのモデュライ粒子の質量
を計算した。第8章ではそのようなコンパクト化からどのような素粒子の模型が出てくる
のかを議論した。
本研究は,超弦理論によって素粒子の模型を構成する際の物理的困難を数論的手法によ
り解決するという,独特かつ興味深いものであり,また,超弦理論のコンパクト化につい
ての新たな知見をもたらすものである。本論文の主要部分は渡利泰山との共同研究に基づ
いているが,論文提出者が主体となって計算及び解析を行ったもので,論文提出者の寄与
が十分であると判断する。
以上のような理由により,博士 (理学) の学位を授与できると認める。
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