リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「農地および農作物における放射性物質の新規計測技術および吸収特性評価法の開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

農地および農作物における放射性物質の新規計測技術および吸収特性評価法の開発

古川, 真 東京大学 DOI:10.15083/0002002290

2021.10.13

概要

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う広範囲な放射性物質の降下は,農地および農作物へ深刻な影響を与えた。ウラン235から生じる代表的な核分裂生成物として放射性ストロンチウム90(90Sr)と放射性セシウム134(134Cs),セシウム137(137Cs)等がある。90Srは,半減期28.9年の放射性核種である。この放射性核種は純ベータ線放出核種であり,主にベータ線計測によって測定される。ベータ線計測によって得られるスペクトルプロファイルは,他のベータ線放出核種から得られるスペクトルと重なりが生じてしまうため,測定前に化学分離を行う必要がある。この化学分離操作は煩雑であるため,より簡単に測定できる手法の開発が望まれている。また,農業上問題とされている降下物である放射性セシウムは,これまでの研究報告より作物ごとに吸収量が異なることが知られており,133Csよりも137Csのほうがより多く吸収されることが多い。この作物毎の吸収量の違いと,133Csと137Csの移行挙動の違いは,作物が土壌のどの分画を吸収利用しているかと,土壌中にどのような形態で存在しているかに起因していると予想される。そこで137Csと133Csの土壌中の分画毎の吸収割合の違いを利用することで,作物毎の吸収能力の違いを見分けられるのではないかと考えられた。

 そこで本研究では放射性物質の新規計測技術と作物吸収特性の評価指標を創出し,農作物中の含有量や移行挙動について評価する手法の確立を目的とした。

 第一章においては,本論文における研究背景や課題について概説した。

 第二章においては放射性物質の新しい測定手法の確立として,既に開発し汚染水などの測定に用いられている90Srのオンライン固相抽出-ICP-MS法を測定技術基盤とし,農地および農作物,生鮮食品を対象に,実運用展開するための要素技術の開発と付与に取り組んだ。90Srの環境測定は,通常前処理から測定結果を得るまでに2週間から1ヶ月ほど要するが,原子力災害などの緊急時においてはデータの迅速な取得が求められる。そこで2014年に著者らが開発報告したオンライン固相抽出-ICP-MS法は15~30分ほどで結果を得ることができる。この分析技術は,Sr吸着樹脂を利用した固相抽出をフローインジェクション装置により自動化し,高効率導入法である超音波ネブライザーを介しICP-MSへと導入測定する手法であり,多段階の濃縮分離を自動で行うことができ高感度化を達成している。しかしオンライン固相抽出-ICP-MS法の農林水産物へ利用を考えた場合,共存元素濃度と安定同位体Sr濃度が高い場合があることと,測定感度,レジンによる回収率の変化等,いくつかの課題がある。これらを開発するために,4つの要素技術を新たに創出した。

 第一に,ICP-MSへの高効率導入法である超音波ネブライザーの利用に際し,アルゴン窒素混合キャリヤーを利用することで約3.2倍の増感効果を得られることを見出し,測定感度の向上を達成した。またこの混合ガスキャリヤーは測定安定性の向上にも役立つことが分かり,測定RSDは約半分まで低減させることが可能となった。第二に,オンライン固相抽出-ICP-MS法で得られる過渡信号に対する内標準補正法として,内標準補正シグナル積算法を確立した。この手法は,高濃度に濃縮された共存元素,特に安定同位体Sr濃度が高い場合に対し,ICP-MS検出時に発生する強度の減少を同時に検出する内標準元素インジウムの連続シグナルの減感挙動から多点逐次補正していく手法である。これにより安定同位体Sr濃度の影響で減感が発生してしまう濃度域でも測定可能レンジを拡張することができた。検量線の直線範囲は約10倍拡張された。これは作物分析をする際に対応できるサンプル種類が増やすことができると期待できる。第三に,固相抽出における回収率変化を,定量分析と同じ1回の測定内に測定できるスプリット法を開発した。この手法は,オンライン濃縮中にサンプルの一部を分割(スプリット)することで,直接原液測定も行う。このときサンプルに含まれる安定同位体Srを測定し,濃縮測定時にも90Srとともに測定を行う。濃縮測定前後中の安定同位体Sr濃度を把握することによってカラムにおける回収率を把握するものである。この方法により,サンプル由来の共存元素量によるカラムでの回収率低下や,偶発的なロスなどに対しても回収率補正を行うことができた。これまで確認は代表サンプルに対し無作為に添加回収率の測定を行うことが多かったが,本法はすべてのサンプルに対し回収率を付与しながら定量することができた。回収率が低下する共存元素を意図的に添加し測定した条件下において回収率95~4.5%まで変化しても補正対応が可能であることが確認された。第四に,さらなる迅速化法の提案としてカラムを並列に連結させたパラレルカラムによる連続測定法についても確立した。

 上記の基盤技術を確立したのち,農林水産物として果実(梨,りんご,ぶどう,もも),穀物類(玄米,ソバ,ダイズ),ほうれん草,牧草,魚介類(ひらめ,ほや)の12品目について,90Srの添加測定実験を行い,本技術が適切に適用できることを示した。なお,この手法は標準液には安定同位体88Srを利用し検量線を作成し,サンプル中の90Srを定量できることを示した。検出下限値は,農林水産物10gの処理で3Bq/kgを達成した。

 また,放射性セシウムと安定同位体セシウムの同時測定法への応用展開を行い,この実現のために問題となりえる測定感度の検証と,同重体干渉となりうるバリウムの効果的な除去法に関する検討を行った。その結果,137Csの検出下限値は2.3Bq/L,135Csは0.03Bq/Lになると見込まれた。

 第三章においては,農作物が原発事故由来の放射性セシウムを吸収する際,作物間で異なる挙動を示すことが報告されている。この原因として予想されるのは,作物ごとに吸収利用している土壌の分画に違いがあることと,放射性セシウムが安定同位体セシウムのように強く吸着固定化されていないためではないかと推測した。その現象解明や把握のために土壌に含まれる137Csと133Csの吸着部位を調査するとともに,作物中への吸収比率に着目し検討を行った。試験に用いた土壌は,福島県飯舘村比曽地区で2012年に自主的に表土剥ぎをした水田の表層土壌で,ビニール袋の口を閉じハウス内で保管しておいたものである。土壌に含まれる133Csと137Csの吸着状況を知るためには,逐次抽出法が用いられる。本研究においては,逐次抽出により4つの分画に分け評価することとした。1M酢酸アンモニウムによる1:5振とう抽出抽出によりイオン交換態量を,過酸化水素加熱分解により有機物態を,硝酸強熱処理により硝酸抽出態,フッ化水素酸分解により全分解を実施し,各抽出法において抽出される133Csと137Csの抽出量およびその比率を調査した。その結果,同じセシウムであっても133Csと137Csとでは各分画での存在割合に違いが認められた。土壌への弱い吸着状態にあるとされているイオン交換態では133Csは4.8%であったのに対し,137Csは9.1%存在していた。133Csは天然に存在している安定同位体で土壌への固定状況は平衡状態にあり,一方で137Csは原発事故による降下物であるためまだ固定状況は平衡状態に至っていないことに由来すると考えられた。この状況を作物が反映し吸収するとすれば,133Csと137Csの土壌中セシウムの分画ごとの割合の違いにより,作物毎に吸収しているセシウムの土壌分画に違いはあるかを見極めることができると予想され,作物別の放射性セシウムの吸収特性を判断する指標となると考えられた。その判断指標として,土壌から作物への移行係数や共存元素との挙動相関性とともに,137Cs/133Cs比率に着目し検討を行った。なお,調査に利用した作物は,ダイズ,ラッカセイ,イネ,コムギ,トウモロコシ,ソバの6品目とし,共存元素(K,Ca等)との挙動や,カリウムの施肥の有無によっての吸収能応答についても調査した。育苗ポットで栽培した結果,作物間で137Cs/133Cs比率は異なることが明らかとなり,土壌分画毎のセシウム吸収は作物間で異なることが判断できた。137Cs/133Cs比率は,どの分画からセシウムを吸収しているかを見ることができる指標であると考えられ,この比率が小さい作物は固定化されている割合の多い133Csを積極的に吸う能力があると推定される。また,栽植密度や栽培日数による影響,圃場での試験についても行い,分画毎のCs吸収能の指標評価に利用できることを示した。なお,この分画毎のCs吸収能の違いについては,カリウム施肥によるセシウム吸収抑制応答と合わせて総合的に評価を行うことで考察した。結果として,137Cs/133Cs比率が小さい作物にはダイズ,コムギ,トウモロコシとなった。コムギ,トウモロコシについては,133Cs,137Csともに同程度の吸収抑制割合であったため,主に弱い固定化状況のセシウムを利用しているものと推測された。また,ダイズはカリウム施肥によって133Csを吸収抑制する傾向が強く現れることから,カリウム施肥を実施しない状況下では固定化されているセシウムを利用する能力が強い傾向が示された。

 以上のように土壌の分画毎の吸収能を反映している137Cs/133Cs比率を使うと,作物中の137Cs/133Cs比率を測定するだけで,どのような吸収能力を持つ作物かを推定することができる。また,カリウム施肥による応答についても考察することが可能であった。

 第四章においては,確立した新規計測法および作物の吸収特性能力の評価指標について総括するとともに,得られた知見からその利用性について総合考察を行った。放射能による環境汚染の問題や,収穫した作物における放射性物質吸収濃度に関する問題は,地域住民にとって深刻な問題であり,目に見えない汚染状況が抽象的な不安材料となっている。今後の営農再開や廃炉事業においても,適切な分析評価技術を確立し調査を行い,現状をデータで可視化を行うことが,地域内外の不安を取り除く有効な手段である。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る