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大学・研究所にある論文を検索できる 「創薬・医療支援のための細胞画像情報解析技術の開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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創薬・医療支援のための細胞画像情報解析技術の開発

今井, 祐太 名古屋大学

2022.05.26

概要

近年の細胞工学や遺伝子工学技術の発展により、ヒト細胞は創薬・医療を支える基盤材料として極めて重要な研究対象となっている。

創薬開発では、ヒト細胞は新規薬剤候補分子の探索のツールとして急速な広がりを生み出している。特に、人工多能性幹(induced pluripotent stem:iPS)細胞などの幹細胞研究の発展により、従来入手の難しかった心筋や神経の細胞を含めて、生体を構成するほぼ全ての種類の細胞を大量に取得し、様々なin vitroアッセイを実現することが可能な時代が到来した。この結果、がんなどの疾患モデルは、不死化株を用いた研究から臨床患者由来細胞を用いた細胞へ、二次元培養細胞での評価系はより複雑なスフェロイド・オルガノイドなどを使ったモデルへと発展の一途を追っている。また、多種多様なヒト細胞の応用が可能になったことによって、創薬開発のボトルネックの1つとされていた動物実験による有効性・安全性の検証スタイルも置き換えられつつある。さらには、再生医療・細胞治療・組織工学の発展から、ヒト細胞は従来の化成医薬品では治療不可能であった疾患を治療可能な、次世代の医療として広がっている。さらに臨床現場においては、迅速診断・細胞診など細胞評価を応用した高精度診断技術の発展が著しく、病気の早期発見や侵襲性の大きな治療を削減する方向へと進歩が進んでいる。すなわち、ヒト細胞を評価する技術が、創薬・医療の全分野において極めて重要な工学技術として求められる時代となった。

細胞科学の発展と共に、細胞の評価技術は極めて高度に発達してきた。中でもコンピュータの処理技術の加速と共に発展した画像解析技術は、人工知能(AI)と融合して発展し、時間・労力・コストを必要としていた細胞評価の効率を飛躍的に向上させる計測モダリティとして注目されている。

しかし、細胞評価技術の発展が著しい現代においても、細胞を非侵襲的に評価する技術の発展は大きく遅れている。結果として、現在も日々の細胞培養を世界中の研究室で支えているのは、顕微鏡観察による経験と勘に基づく非定量的な目利き技術である。この最大の原因は、経時的変化と多様性に富む細胞自身の多様性・複雑性と、Ground truthの無い非染色画像解析の技術的難しさである。しかし、近年の細胞評価技術へのニーズは、非侵襲・リアルタイム計測・長期観察へとシフトしつつある。これは染色画像を用いた評価では、ヘテロ性に富む複雑な生命体である細胞の生命応答現象を切り取ったエンドポイント評価でしか理解できず、より深い理解を得るために、時系列的な細胞応答を評価することが求められつつあるためである。

これまで我々の研究グループでは、経時的に取得した細胞位相差画像を処理・計測・数値化する技術と、これらの膨大なライブデータを処理する機械学習やモデリング技術の組み合わせによって、非破壊的かつ定量的に生きた細胞の状態や応答を評価する技術『細胞形態情報解析』を開発してきた。この開発研究は、Ground truthの無い非染色細胞画像から、ロバストな情報量をいかに取得するか(データ設計技術)、得られた情報から生命現象につながる情報をいかに抽出するか(データ処理技術)、抽出された情報をいかに組み合わせて実用的な機能へと昇華させるか(データ活用技術)を融合する工学技術開発研究であり、基礎科学から創薬・医療の現場までをつなぐ細胞情報の最大活用を目指した取り組みである。

筆者は、この細胞形態情報解析技術を基盤技術としながら、非染色細胞画像情報から抽出される新しいバイオデータである細胞形態情報を処理・モデル化する新しい細胞評価技術を開発することによって、創薬・医療の加速に貢献することを目指した。

この目標達成に向け、本研究では(I)創薬探索のための画像情報解析技術の開発、(II)再生医療等製品製造プロセス支援のための画像情報解析技術の開発、(III)難治性疾患の迅速診断のための画像情報解析技術の開発、という3つのベクトルでの研究開発を行った。

本論文は5章で構成される。

第1章では、創薬・医療における細胞評価技術としての画像解析技術の現状、細胞画像解析技術における技術的課題を整理し、本研究の技術的概要と世界的位置づけ、その可能性と求められる開発の方向性を論じた。

第2章では、(I)創薬探索のための画像情報解析技術の開発として、神経疾患モデル細胞を対象として、希少細胞集団の薬剤応答を高感度に評価する細胞形態情報解析技術の開発についてまとめた。
神経疾患モデル細胞を用いた医薬品候補分子探索の難しさは、細胞集団の不均質性とヘテロな細胞応答にあり、従来の分子生物学的なバルク評価では高感度かつ安定な細胞評価が極めて難しい。本章では、非染色細胞画像から得られるシングルセルのデータの中から、薬剤などへの応答を示した細胞集団を形態情報のみを用いて濃縮する“in silico FOCUS (in silico analysis of featured-objects concentrated by anomaly discrimination from unit space)”という細胞形態情報を用いた新しいイメージデータサイトメトリー技術を開発した。具体的には、球脊髄性筋委縮症(Spinnal and Bulbar Muscular At rophy: SBMA)モデル細胞NSC-34を用いて、既知のSBMA関連分子dihydrotestosterone(DHT)および治療薬候補分子pioglitazone(PG)に対する細胞機能回復応答を細胞形態情報のみから高感度かつロバストに評価できることと、新しいPhenotypic Screening法として人工知能(AI)と組み合わせたスクリーニング自動化の可能性を示した研究事例について記した。

第3章では、(II)再生医療等製品製造プロセス支援のための画像情報解析技術の開発として、間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)の免疫抑制機能および増殖能の予測技術の開発を行った。
MSCは世界において最も臨床実績の多い細胞源であり、その免疫原性の低さから他家細胞治療薬としての可能性を切り開きつつある。MSCには複数の治療有効性が報告されているが、近年特にその免疫応答調節機能の有効性に注目が集まっており、国内においてもGVHD(graft-versus-hostdisease:移植片対宿主病)の治療薬として国内初となる他家再生医療当製品としての承認が得られている。ところがMSCの細胞製造における細胞品質管理は極めて難しく、現在日常的な細胞品質モニタリングは顕微鏡観察しか有効な手法が無い。さらに、他家細胞製品としてのドナーセレクションはマスターセルバンク構築のコストと安定性を左右する最も重要なプロセスであるが、これを定量的かつ安定に行える技術は未だ開発されていなかった。本章では、MSCの経時的細胞培養画像中の細胞集団のヘテロ性情報を計測・モデル化することによって、画像情報のみからMSCの免疫抑制機能およびその増殖能を同時に定量事前予測可能な解析技術を構築した事例について記した。

第4章では、(III)難治性疾患の迅速診断のための画像情報解析技術の開発として、神経節病理画像診断技術の開発を行った。
ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)は腸の動きを制御する神経節細胞が生まれつき無いために腸の動きが悪く腸閉塞や重い便秘症をおこす指定難病であり、小児外科領域の重要な治療対象である。この治療法は、神経細胞が無い腸を切除し、神経細胞が存在する腸を残して肛門につなぐ侵襲的な手術であるため、病理診断による正確な異常腸領域の診断が手術計画を大きく左右する。しかし現状、この診断は医師の目視による病理切片中の神経節の得点化と計測に依存している。希少疾患であるこの病理診断は経験を積むことが難しく、バイオマーカーが無いため現在も診断基準を標準化することは難しい。本章では、医師がスコアリングした神経節画像に対して、形態特徴量化技術とAIによる自動判定技術を組み合わせた解析を行うことで、高精度の神経節の迅速診断技術を開発し、神経節判定の教育を支援することが可能な核形態特徴量のルール化を実現した事例について記した。

第5章では、本研究を通じて開発された画像解析技術の有効性と課題についてまとめ、本研究の今後の展開の可能性について記述した。

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