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書き出し

細胞製造の発展に向けた細胞形態情報解析の深化

竹本, 悠人 名古屋大学

2023.05.22

概要

報告番号



















論文題目

細胞製造の発展に向けた細胞形態情報解析の深化



竹本



悠人

論 文 内 容 の 要 旨
近年の幹細胞研究・遺伝子工学技術の発展により、新たな医薬品モダリティとして
再生医療等製品の開発・発展が進んでいる。再生医療等製品には従来の低分子医薬品
やバイオ医薬品では治療が困難であった疾患や損傷の治療を可能にする成果が多数報
告されており、アンメットメディカルニーズに向かう新たな創薬開発の重要開発品と
位置付けられてきている。再生医療等製品の中でも、再生医療・細胞治療を支える細
胞 源 の 一 つ に 間 葉 系 幹 細 胞 (Mesenchymal stem cell, MSC)が あ る 。MSC は 、脂 肪 組
織 や 骨 髄 な ど 多 様 な 組 織 か ら 採 取 が 可 能 で あ り 、 in vitro で の 培 養 が 比 較 的 容 易 で あ
る。さらに、培養制御技術を駆使することで骨・軟骨・脂肪組織などへの分化、免疫
細胞の箇条応答の抑制、治療部位での再生促進などの機能が報告されると共に、がん
化しにくい細胞であることが知られており、再生医療・細胞治療分野において最も多
くの研究事例と臨床実績に裏付けられた治療用細胞であるとも言える。近年は自家に
留 ま ら ず 、他 家 由 来 細 胞 を 用 い た 再 生 医 療 等 製 品 と し て 承 認・上 市 さ れ て お り 、MSC
の工業規模での細胞製造は、複数の製薬企業および細胞製造受託機関にとって重要な
事業となりつつある。
治療用細胞の商 用生 産までには、段階的な 開発ステージが存 在す る。第 1 のステー
ジは、アカデミアや研究機関で実施される基礎研究のための細胞製造であり、ラボス
ケールの細胞培養 実験 と言える。第 2 のステージは、一部の臨床研 究や治験を目指す
ア カ デ ミ ア や ス タ ー ト ア ッ プ が 取 り 組 む 、 GMP (Good Manufacturing Practice)準 拠
を視野に入れているが完全対応までは至らずに遷移期のラボスケールの細胞製造であ
る 。第 3 の ス テ ー ジ は ラ ボ ス ケ ー ル の 細 胞 製 造 か ら 本 格 商 用 生 産 を 見 据 え て 技 術 移 転
を進め、恒常的な商用生産に至るステージであり、本格的な大量製造や一部自動化な
どを視野に入れた 製造 プロセスの開発と 確立 が実施される。第 4 のステージは、商用
生産を実現した施設が、さらなる恒常的生産体制への改善や、スケールアップ・スケ

ールアウトなどの事業拡大へと進むステージであり、細胞製造はより多施設や国際的
な 連 携 を 必 要 と す る ス テ ー ジ と な る 。細 胞 製 造 は 、ICH-Q10 な ど に も 記 述 さ れ る こ れ
らの医薬品開発・製造ステージの変遷にそって実製造が進むが、現状は各ステージ間
に大きな技術的ギャップが存在し、各ステージ遷移の過程で必要以上の経費と時間が
浪費されている現状がある。これは、製造スケールが本格化する度に、製造プロトコ
ルの再現性が得られず、工程開発を研究レベルまで出戻りしてしまうという現実であ
り、製薬企業および細胞製造受託機関はこのギャップを埋めるための技術開発および
標準化に大きな期待を寄せている。
このような細胞製造の産業化を阻む大きな要因に、細胞培養という製造基本技術が
そ の 有 史 以 来 、熟 練 者 の 感 覚 や 経 験 に 高 度 に 依 存 し て 発 展 し て き た こ と が 挙 げ ら れ る 。
特に細胞品質をモニタリングし、日々の品質判定を行う技術は、現在もなお、顕微鏡
観察による「細胞の形」の評価と判定に依存しているという現実がある。製造対象と
なる細胞は、生き物であるがゆえに不安定かつ常に変化する存在であり、今も研究途
上の対象であるため明確な品質規定方法が確立されていない。このような状況でも細
胞培養が世界中で実現している現状は、「細胞の形」という見た目の情報に細胞培養
の品質管理に関わる情報が含まれていることは間違いがない。しかし、現状ではまだ
この「細胞の形」を客観的に定量評価し、先端工学技術と融合してその操作を自動化
する試みは発展途上にあり、あまり多くの研究事例が無い。
我々の研究グループでは、経時的に取得した細胞位相差画像を基に、生きた細胞の
定量的な状態や応答を評価できる「細胞形態情報解析技術」を開発し、細胞品質の異
常を定量的かつ自動的に判別・予測する技術の細胞製造における品質管理方法として
の有効性を示してきた。近年では、細胞製造産業の発展のスピードが非常に速く、多
くの企業や研究施設から、細胞製造プロセスの様々なステージを一気通貫的に品質管
理するための課題が持ち込まれるようになっていた。これらの課題からは、細胞形態
情報解析技術において検証しきれていなかった「より大きなスケールを視野に入れた
細胞製造工程の管理」や「スケールアウトを視野にいれた細胞品質管理のデジタルト
ランスフォーメーション」を実現するための技術開発が必要だと考えられた。
そこで筆者は、上述した様々な細胞製造ステージへと発展を続ける細胞製造現場を
支 え る 品 質 管 理 技 術 と し て の 細 胞 形 態 情 報 解 析 を 深 化 さ せ る た め 、「 細 胞 製 造 の 発 展 」
を視野にいれた実用生産や生産規模拡大における重要な課題として以下の 2 点に注目
し、細胞形態情報解析としての新技術開発と解析技術として根幹的原理の見直しを行
った。
本 研 究 で 注 目 し た 1 つ 目 の 課 題 は 、品 質 劣 化 に よ る ロ ッ ト の 製 造 ラ イ ン 脱 落 で あ る 。
MSC は 過 継 代 に よ り 、細 胞 老 化 を 引 き 起 こ す 。こ れ に よ り 、増 殖 が 停 止 し 製 造 ラ イ ン
から脱落せざる得ない状態になる。2 つ目の課題は、膨大かつ複数バッチデータ解析
のロバスト性向上である。細胞製造の黎明期が故に、これまでに細胞画像のデータ統
合に言及した文献は少なく、多施設間で得られるようなバッチエフェクトを含む大規
模細胞画像データのロバストな解析手法は未だ確立されていない。以上のことから、

細胞製造の実応用の為の細胞形態情報解析研究として、基礎的な知見・手法の検証を
行う必要性があると考え、本研究を実施した。
本論文は 4 章で構成される。
第 1 章では、細胞性 医薬品 製造の現状 と求 められる技術、従来の 細胞画像解析技術
における技術的課題を整理し、本研究の技術的概要と位置づけ、その可能性と求めら
れる開発の方向性を論じた。
第 2 章では、長期培 養の為の細胞形態 情報 解析の開発 として、① 過継代培養データ
を用いた品質劣化検出モデルの開発、②限界継代数予測モデルの開発を行い、これら
2 つのアプローチについてまとめた。
MSC を 用 い た 治 療 で は 1 回 あ た り 10 億 細 胞 以 上 必 要 と な り 、自 家 ・ 他 家 治 療 に 関
わ ら ず 、複 数 回 の 継 代 に よ る 細 胞 の 増 幅 が 必 須 で あ る 。し か し な が ら 、MSC は 過 継 代
を行うと、テロメアの短縮、酸化ストレスにより細胞老化を引き起こし、形態の肥大
化、増殖能・分化能・免疫抑制能が低下することが知られている。よって、細胞老化
による品質劣化は、細胞性医薬品の品質不安定性の原因の一つとして課題となってお
り 、製 造 の 効 率・コ ス ト の 観 点 か ら も 培 養 初 期 で の 品 質 劣 化 の 予 測 が 求 め ら れ て い る 。
さらに、これまでに機械学習を用いた品質評価手法を提唱してきたが、高精度なモデ
ルを構築する為のデータ量に関しての検証は行われておらず、実製造現場での応用実
現性については議論されていなかった。本章では、アプローチ①:過継代培養データ
を用いた品質劣化検出モデルの開発として、形態情報を基に異常度スコアを測定し、
細胞老化によって引き起こされる品質劣化を定量的に検出可能なモデルを構築し、そ
の 有 効 性 を 示 し た 。 具 体 的 に は 、 Mahalanobis-Taguchi (MT)法 を 用 い て 、 標 準 サ ン
プ ル と 定 め た 高 品 質 サ ン プ ル ( 継 代 数 3) を 基 に 標 準 デ ー タ 空 間 を 構 築 す る こ と で 、
測 定 対 象 デ ー タ( 継 代 数 3~ 9)の 異 常 度 ス コ ア を 算 出 で き る 手 法 を 開 発 し た 。具 体 的
には、培養開始 6 時間後での形態情報か ら算 出された異常度ス コア と増殖・分化能の
劣化傾向が一致し、長期培養での品質劣化サンプルを早期に検出できるモデルとして
実用的な評価手法となる可能性を示した研究事例を記した。また、アプローチ②:限
界 継 代 数 予 測 モ デ ル の 開 発 と し て 、 高 純 度 MSC ク ロ ー ン を 用 い て 、 継 代 数 1 の 形 態
情報を基に機械学習モデルを構築し、拡大培養過程で生じる限界継代数の違いを高精
度に予測可能であることを示した。さらに、機械学習モデルの精度と学習に用いるデ
ータ数の検証を行うことで、具体的な撮影条件を明確化し、実製造への応用実現性を
示した。
第 3 章では、実応用 の為のロバスト細 胞形 態情報解析 手法の 開発 として、培養容器
内 で 生 じ る 局 所 的 な 細 胞 密 度 を 定 量 評 価 す る Neighbor Score を 開 発 し 、 細 胞 形 態 情
報と増殖能への影響評価を行い、大規模データセット解析に含まれる細胞形態情報に
おけるバイアス・ノイズの分析と、そのリスクを回避するための新たな解析技術を開
発した。
細胞培養実験において、播種工程の制御は難しく、人による操作では培養基材に細
胞が不均一な位置に接着することで播種ムラが生じることがある。細胞培養の標準的

なプロトコルでは播種ムラを避ける為の操作が推奨されているが、細胞形態・細胞品
質への影響は経験的な知見しかなく、定量的な違いは明らかになっていない。本章で
は、第一に「細胞間距離情報と細胞形態情報の関係」について定量的な比較を行い、
細 胞 形 態 情 報 と い う 計 測 デ ー タ を 、自 発 的 形 態( Spontaneous cell morphology)と 強
制 的 形 態 ( Forced cell morphology) の 2 つ の 生 物 現 象 と し て 捉 え る こ と で 、 細 胞 形
態 情 報 が ど ん な 現 象 を 表 現 し て い る か を デ ー タ と し て 整 理 し 、細 胞 の Potency の 表 現
か ら 細 胞 培 養 環 境 の 表 現 へ と 意 味 が 転 換 し て い る こ と を 見 出 し た 。こ の 概 念 に 基 づ き 、
細胞形態情報が自発的か強制的かを画像解析から詳細に定量評価するための新規指標
Neighbor Score を 開 発 し 、大 規 模 デ ー タ セ ッ ト 解 析 の 機 械 学 習 に お け る デ ー タ ク レ ン
ジング・データ統合の有効性について詳細に解析し、よりロバストな細胞収率予測モ
デルを構築する情報学的コンセプトを構築した。
第 4 章では本論文を通じて開発された細胞製造の為の細胞形態情報解析の有効性と
課題について考察し、今後の実応用に向けた本手法の可能性について総括した。

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