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大学・研究所にある論文を検索できる 「非晶質珪酸カルシウムを利用したリン回収技術の開発、及び生物生産への応用」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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非晶質珪酸カルシウムを利用したリン回収技術の開発、及び生物生産への応用

明戸, 剛 アケト, ツヨシ 東京農工大学

2020.07.31

概要

リンは食料を生産する上で欠かすことのできない重要な元素である。しかし、リン鉱石の枯渇問題が表面化しており、その産出国も一部の地域に偏在していることから、リン資源の安定確保に対する懸念とリン資源のリサイクルに対する関心が高まっている。日本においては年間約520ktのリンが国内に輸入されているが、利用されたリン資源の大半は下水などの排水として処理された後、水域への流出や埋め立て処分されており、リン資源のリサイクル率は低いのが現状である。そこで本研究では、リン資源のリサイクル率の向上を目指し、非晶質の珪酸カルシウム水和物(A-CSH)を用いて、下水排水から既存のリサイクル技術より簡便、且つ効率的にリンを回収し、再資源化する技術を開発することを目的とした。

 第1章では、日本におけるリン資源のマテリアルフローを総括し、リン回収源として下水排水を対象とすることの妥当性を示した。下水排水中にはリン鉱石として輸入されているリン量を上回るリンが流入しているにもかかわらず、現状のリンのリサイクル率は5%程度と極めて低い。下水排水処理場の活性汚泥脱水工程で発生する汚泥脱水ろ液(返流水)からのリンの回収率が可能となれば、リンのリサイクル率を27%まで高めることできると見積もられた。次いで、従来用いられてきたリン回収方法の特性や課題を比較し、A-CSHを用いたリン回収技術の有用性を示すことで、本研究の目的と意義を明らかとした。また、リン回収物の有効利用方法として、従来からの堆肥利用の他に、有用物質を生産する微細藻類の培養に利用する方法について議論した。

 第2章では、日本国内に豊富に埋蔵し、安価である珪質頁岩および消石灰を原料として、A-CSHを水熱合成する方法を確立した。磁気共鳴分光解析(29Si MAS NMR)の結果、合成したA-CSHは平均鎖長3.5の直鎖状珪酸ポリマーがカルシウムイオンとのイオン結合により架橋された構造体をとり、分子式としては(Ca3.5(SiO3.3)3.5H2)nになると推定された(nは重合度)。下水処理工程排水である消化汚泥脱水分離液およびこれを模擬した人工消化汚泥脱水分離液からA-CSHを用いてリンを回収する試験を実施したところ、A-CSHは同じカルシウム系のリン回収資材である、塩化カルシウムと水酸化カルシウムよりリン回収性能に優れ、さらに排水中の炭酸イオンの影響も受けにくく、沈降性にも優れていた。A-CSHのリン回収メカニズムとして、A-CSHから溶出したカルシウムイオンが直接、排水中のリン酸イオンと反応・析出するのではなく、カルシウムイオン、リン酸、珪酸のイオン結合による凝集体の生成反応によりリンが回収されていると考えられ、この性質が高い沈降性に寄与していると考えられた。さらに、従来用いられてきた結晶質珪酸カルシウム水和物との比較においても、リン回収率およびリン回収速度の点で優れていた。これは排水中のリン酸イオンと反応するカルシウムイオンの溶出量および速度が、A-CSHの方が大きいためであると考察された。

 第3章では、A-CSHを用いて、実際の下水排水からリンを回収する実証試験を行った。ラボスケールにおけるリン回収試験では、下水排水では98%のリン回収率を達成した。さらに、下水処理場への実装を念頭に、実際の処理場に小規模なベンチスケールのリン回収設備を設置し、連続処理による対象排水からのリン回収試験を行った。その結果、A-CSHを用いた下水排水からのリン回収における最適な運転条件を決定し、年間を通じて良好なリン回収率(80%以上)を達成した。

 第4章では、排水中のリンを回収したA-CSH(A-CSH-P)の有効利用方法の検討として、肥料としての特性評価と、微細藻類培養におけるリン供給源としての特性評価を実施した。A-CSH-Pは、肥料取締法の肥料区分において副産りん酸肥料に該当する。成分分析の結果、下水排水からリンを回収したA-CSH-Pは副産りん酸肥料の規格に適合することを確認した。次いで、A-CSH-Pを用いて小松菜を栽培する植害試験を実施したところ、市販の肥料と遜色ない生育を示した。このことから、A-CSH-Pは植物の生育を阻害せず、肥料として有効であることが示された。また、A-CSH-Pの更なる有効利用を目指し、有用物質を生産する微細藻類の培養に利用可能か検証した。既存のカルチャーコレクション中の微細藻類、および固有種の存在数が高い屋久島から独自に単離した微細藻類の中からスクリーニングを行い、バイオ燃料やファインケミカルの原料となる糖を高蓄積するPseudoneochloris属NKY372003株を、A-CSH-Pを用いた培養試験に供することとした。リン源としてA-CSH-Pを添加したところ、Pseudoneochloris属NKY372003株は良好に生育し、既存の微細藻類用培地を用いた際と同等のバイオマス生産を示した。また、その際の糖蓄積量も既存の培地で培養した場合と同等であった。このことから、A-CSH-Pが有用微細藻類を培養するためのリン源として利用可能であることが示された。

 第5章では、本研究で得られた成果をまとめると共に、A-CSHを用いたリン回収技術の社会実証における展望と今後の課題について考察した。

 本研究により、A-CSHを用いてリンを高効率に回収する技術を確立することができた。本手法は既存のリン回収方法と比較して、効率、反応速度、反応液からの固液分離のいずれにおいても優れた特性を示した。本研究で解明したA-CSHによるリンの回収メカニズムや、排水からのリン回収の実証試験の結果は、社会実装に向けた実規模でのリン回収設備の設計に資する化学工学的な検証において、重要な基礎的知見となる。

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