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大学・研究所にある論文を検索できる 「次世代バイオプロセスに資する酵素の機能発現技術の開発およびその事業化」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

次世代バイオプロセスに資する酵素の機能発現技術の開発およびその事業化

湯川, 貴弘 神戸大学

2023.03.25

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

次世代バイオプロセスに資する酵素の機能発現技術
の開発およびその事業化

湯川, 貴弘
(Degree)
博士(科学技術イノベーション)

(Date of Degree)
2023-03-25

(Date of Publication)
2024-03-01

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
甲第8677号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100482425
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

)
(別紙様式 3

論文内容の要旨



名湯川貴弘



攻科学技術イノベーション

論文題目(外国語の場合は,その和訳を併記すること。)

次世代バイオプロセスに資する酵素 の機能発現技術の開
発およびその事業化

指導教員

蓮沼誠久

(氏名:湯川貴弘

NO. 1)

産業革命以後の経済発展に伴い、人々の生活はますます豊かになりつつある。その世界の
経済発展の裏では、異常気象など急激な気候変動や人口増加に伴う多くの社会課題が世界
中で報告されるようになった。特に、代表的な気候変動の 1つである地球温暖化を引き起
こす要因として、二酸化炭素 (CO
砂などの温室効果ガスの排出がその主たる要因として挙
げられ、 C伍排出量の削減が求められている。 CO
叫ま、人々の生活を支える産業に用いられ
る電力やモノの製造プロセス、もしくは製品の使用後の処分時など、生活のありとあらゆる
叶非出量を削減す
場面で放出されている。そのため、世界中の国や地域、民間企業では、 CO
る、あるいは C伍排出を伴わない社会の構築のための取り組みがますます加速している。
このような背景から、 C伍排出量を削減するため、化石資源の依存した炭素非循環型社会
から脱却することが求められている。例えば、我々がよく使用するペットボトルは、原油や
天然ガスに代表される化石資源を原料としたプロセスによって製造されている。石油や天
然ガスは、高温による接触分解法(クラッキング)によって、エチレン、プロピレン、ブタ
ジェン、芳香族炭化水素などの基礎化学品に変換されている。これらの基礎化学品は、フェ
ノールやスチレンなど、様々な化合物に変換される。このような化石資源に依存したプロセ
スでは、高温、高圧、毒劇物の使用などの環境負荷の高い反応条件を必要とする。また、化
石資源は、その可採年数や埋蔵量が限定的であり、将来的な枯渇が懸念されていることは周
知の通りだ。よって、近年では、この化石資源に依存した製造プロセスから脱却し、持続可
能な原料から環境負荷の低い製造プロセスの構築に向けた研究開発が求められている。
そこで、化石資源に代わる持続可能な原料として、植物などのバイオマス資源から得られ
る糖類を出発原料に、微生物の「代謝」により化学品を生産するバイオプロセスが注目を浴
びている。このバイオマス資源は、光合成により CO2を固定化して短期間のうちに生育可
能であるため、再生可能な原料である。加えて、微生物を用いたバイオプロセスでは、常温
常圧などの環境負荷の低い温和な反応条件で上述の化学品を生産できるポテンシャルを秘
めている。近年では、微生物の代謝を自在に操るための遺伝子組換え技術の発達により、バ
イオプロセスに用いられる酵母や枯草菌に所望の化合物を生産させることが可能になって

T技術の発展に伴い、その動きは加速している。
きた。加えて、自動化や I
特に、バイオプロセスの原料であるバイオマス資源として、草や木などの非可食で大量に
存在し、再生可能な草本系・木質系バイオマスを原料とした次世代のバイオプロセスが注目
を集めている。一般に、草本系・木質系バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、リグ
ニンと呼ばれる 3つの要素で構成されている。草本系・木質系バイオマスをバイオプロセス
に用いるためには、バイオマスの前処理、糖化の工程を経る必要がある。そうして得られた
前処理液には、発酵基質であるグルコースとキシロース、および微生物の発酵を阻害する酢
酸やギ酸などの発酵阻害物が含まれる。よって、次世代のバイオプロセスに用いる微生物宿

e
r
e
v
i
s
i
a
e、あるいはコリ
主として、発酵阻害物に耐性を有する出芽酵母 Saccharomycesc

(氏名:湯川貴弘

NO. 2)

ネ菌 Corynebacteriumglutamicumが有望である。しかしながら、これらの微生物宿主は、
非可食性バイオマスに多く含まれるキシロースを代謝する能力を持たない。そのため、遺伝
子組換え技術を用いて、出芽酵母やコリネ菌にキシロース代謝能を付与する研究開発が望
まれている。
筆者らは、先端科学技術特定研究を通じて、次世代バイオプロセスの有望な宿主の 1つで
ある出芽酵母 S
.c
e
r
e
v
i
s
i
a
eを宿主に、キシロース代謝経路の 1つである酸化的キシロース
代謝経路の構築に取り組んだ。これまで、 S
.c
e
r
e
v
i
s
i
a
eを宿主に導入が試みられたキシロー
ス代謝経路として、キシロース異性化経路やキシロース酸化還元経路が知られている。しか
しながら、これらの従来型キシロース代謝経路では、酵素活性が低いこと、中間生成物が多
量に蓄積すること、エネルギー運搬物質である ATPを必要する。また、代謝されたキシロ
ースは、酵母の内在経路である解糖系やペントースリン酸経路を経て細胞増殖や物質生産
に用いられる。しかしながら、これらの内在経路では、反応数が多いこと、複雑な代謝調節
機構が存在すること、酵母のペントースリン酸経路による代謝が不十分であることなどか
ら、出芽酵母を宿主としたキシロース利用の大きな障壁となっていた。このように、従来型
キシロース代謝経路を介したキシロース利用には、長年研究されてきたのにも関わらず未
だ多くの課題が存在する。
一方、本研究で着目した新規の酸化的キシロース代謝経路では、解糖系やペントースリン
酸経路などの主要な内在経路から独立しており、その代謝に ATPを必要としないこと、反
応数が非常に少ないことが特徴として挙げられる。このように、酸化的キシロース代謝経路
は、次世代バイオプロセスの構築のための優れた特徴を有している。しかしながら、酵母 S
.

c
e
r
e
v
i
s
i
a
eを宿主とした場合には、バイオプロセスにおいて有望な特徴を有する酸化的キシ
ロース代謝経路の構築が困難であることが知られていた。その主要な原因の 1つとして、キ
シロネートから 2ーケト_ 3
-デオキシキシロネートヘの反応を触媒する酵素キシロネートデヒ
ドラターゼ X
ylDを活性な状態で発現することができないことが挙げられる。新規型キシロ
ース代謝経路上の律速段階の反応により、キシロースからの目的化合物の生産収率は約

10%程度と低い。加えて、出芽酵母を宿主にした場合には、キシロースを単一の炭素源に、
これら新規型経路を介した細胞増殖などができないことが知られていた。筆者らは、出芽酵
母を宿主に、酸化的経路を介したキシロースの利用を可能にするため、酵素 X
ylDのを活性
な状態で発現するための技術開発を行った。その結果、酵母 S
.c
e
r
e
v
i
s
i
a
eを宿主としたキ
シロース代謝経路の構築に成功し、キシロースからの目的化合物の生産収率が約 80%に到
達した。加えて、酸化的キシロース代謝経路を構成する酵素のうち、利用可能な酵素リソー
スの多様性に乏しいことに着目した。酵素のアミノ酸配列に基づいてクラスタリングを行
い、出芽酵母での酸化的キシロース代謝経路の構築に資する酵素を複数同定することに成
功し、これまで困難であったキシロースを単一の炭素源とした細胞増殖を達成した。今後は、
出芽酵母内に構築された酸化的キシロース代謝経路を介して、非可食バイオマスを原料と

(氏名:湯川貴弘

NO. 3)

した多様な化学品が生産可能になるだろう。
最後に、本書では、このょうな次世代バイオプロセスの事業化を目指し、事業化戦略、技
術戦略、財務戦略を含むイノベーションアイデアを立案した。近年では、遺伝子組換え技術
に基づくバイオプロセスの事 業化を目指し、様々なスター トアップ企業が立ち上げられ て
きた。その結果、バイオプロセスにより生産された化学品の上市例も増加傾向にある。例え

4ブタンジオール、および Amyris社の出芽酵母を
,
ば、 Genomatica社の大腸菌を用いた 1
用いたアルテミシニン酸は、その代表例である。将来的には、より多くの化学品がバイオプ
ロセスによって製造されることになるだろう。しかしながら、これらのバイオプロセス開発
に関わるスタートアップ企業の多くは、財務状況が悪く、事業の存続は予断を許さない状況
にある。筆者は、バイオプロセスによる化学品生産を社会実装するため、バイオプロセスの
開発に関わるスタートアッ•プ企業のビジネスモデルのうち、バイオプロセスによって生産

する化合物、および事業範囲を分析した。また、バイオプロセスの開発や商業培養を展開す
るこれらのスタートアップ 企業のサプライチ ェーンは、半導体集積回路の製造事業におけ
るサプライチェーンと類似点が多い。実際、バイオプロセスに関わるスタートアップ企業は
バイオファウンドリと呼称されることが多い。そこで、バイオプロセスの実用化を可能にす
る戦略を立案するため、半導体集積回路のサプライチェーンを分析してその知見を得た。こ
れらの分析結果と知見を集約し、半導体製造の水平分業型ヒ‘‘ジネスモデルに着想を得て、
「バイオファブレ・ス X培養ファウンドリ型モデル」により、微生物の育種開発による有用化
合物の製造プロセスを受託開発するバイオファブレス事業を展開する。特に筆者は、独自の
事業戦略として、バイオプロセス開発のみに特化した「バイオファプレス事業」の創業を目
指す。バイオファブレス事業において、創業期、中期、長期的に開発すべきバイオプロセス
をそれぞれ決定した。特に、既存の化石資源に依存した化学品生産プロセスのサプライチェ
ーンの崩壊に伴い、将来的 な枯渇が懸念されている芳 香族炭化水素を原料に生産 されてい
る化合物の生産を可能にすることを目指す。

(別紙 1
)

論文審査の結果の要旨

氏名

湯川貴弘

論文
題目

次世代バイオプロセスに資する酵素の機能発現技術の開発およびその事業化
区分

職名

主査

教授

蓮沼誠久

言I

副査

教授

吉田健一




副査

特命教授

田口精一

副査

教授

山本一彦





要 旨
本研究は先端科学技術特定研究を通じて、酵母 Saccharomycesc
e
r
e
v
i
s
i
a
eにキシロース代謝経路の 1
つである酸化的キシロース代謝経路の構築に取り組んだ。酸化的キシロース代謝経路は、次世代のバイオ
プロセスの構築のための優れた特徴を有している。しかしながら、 S c
e
r
e
v
i
s
i
a
eを宿主とした場合には、
酸化的キシロース代謝経路の構築が困難であった。その原因の 1つとして、キシロネートから 2ケ ド3
デオキシキシロネートヘの反応を触媒する酵素キシロネートデヒドラターゼ XylDの活性が非常に低いこ
とが挙げられる。そのため、キシロースからの物質生産の生産量や収率は約 1
0 %程度と低く、キシロー
スを単一の炭素源とした細胞増殖などができない。筆者らは、酸化的経路を介したキシロースの代謝を可
能にするため、酵素 XylDの活性の向上に取り組んだ。開発した酵素 XylDの発現技術に基づき、研究開
発を進めた。その結果、 S c
e
r
e
v
i
s
i
a
eを宿主としたキシロース代謝経路の構築に成功し、キシロースから
の物質生産の収率が約 80 %に到達し、またこれまで困難であったキシロースからの細胞増殖も達成され
た。今後は、酸化的キシロース代謝経路を介して、多様な化学品が生産可能になることが期待される。
イノベーションストラテジーとしては次世代バイオプロセスの事業化を目指し、事業化戦略、技術戦略、
財務戦略などを立案した。バイオプロセスの開発に関わるスタートアップ企業の事業戦略のうち、開発対
象となる化合物、および事業範囲に着目して分析した。特に、事業範囲に関して、バイオプロセス開発の
ビジネスモデルは、半溝体の製造工程におけるビジネスモデルと類似点が多い。そこで、半導体の製造事
業に関するサプライチェーンを分析した。その結果から、筆者独自の事業範囲と創業期、中期、長期的に
開発すべきバイオプロセスを提案した。開発対象となるバイオプロセスに関して、既存の化石資源を原料
とした化学品生産のサプライチェーンに着目し、将来的な枯渇が懸念されている芳香族炭化水素から派生
する化合物の生産プロセスの開発に取り組むとともに、半導体水平分業型のビジネスモデルに着想を得

、 「バイオファブレス X培養ファウンドリ型モデル」により、微生物の育種開発による有用化合物の製
造プロセスを受託開発するバイオファブレス事業を展開するという内容である。
先端研究成果は優れた学術的意義を有しており、イノベーションストラテジーの内容も充実している。
本論文から湯川氏は先端科学技術の研究開発能力とともに、知的財産化、生産技術開発、市場開拓までの
学術的研究成果の事業化移行プロセスをデザインする能力を有しており、本研究化が翡出する博士人材の
素養を有していると判断できる。
提出された論文は科学技術イノベーション研究科学位論文評価基準を満たしており、学位申請者の湯川
貴弘は、博士(科学技術イノベーション)の学位を得る資格があると認める。

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