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大学・研究所にある論文を検索できる 「網羅的mRNA/miRNA発現解析に基づく非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍発症機序の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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網羅的mRNA/miRNA発現解析に基づく非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍発症機序の解明

竹内, 千尋 東京大学 DOI:10.15083/0002001641

2021.09.08

概要

非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍の頻度は稀であるが、近年は増加傾向である。WHO の分類では小腸腫瘍に分類されているが、非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍固有の治療ガイドラインは確立されていない。その背景として十二指腸における腫瘍化のメカニズムについての報告が、大腸等と比較して少ないことが挙げられる。より正確な診断や予後予測といった臨床面からのニーズは大きく、そのためには非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍における更なる分子生物学的な病態の解明が不可欠と考えられた。当科ではこれまで、非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍に対する内視鏡的切除を多症例行ってきた。そこで高い内視鏡技術とハイボリュームセンターとしての強みを生かし、腫瘍から採取した生検検体を用いて非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍におけるマイクロアレイを用いた mRNA 及び miRNA 網羅的遺伝子解析を行った。その結果に対し妥当性の評価を行うと共に、基礎的・病理学的検討を加え非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍の発症機序の解明を目指すこととした。

マイクロアレイによる網羅的遺伝子解析に用いた検体は、当院の倫理委員会の承認を得て 2014 年から前向きに症例蓄積を行い収集した。検体はすでに非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍の診断がなされている症例において、内視鏡的切除を施行する直前に腫瘍の中央部と周囲粘膜から生検を行うことにより採取した。検体からRNA を抽出したところ、実際に採取できた RNA 量は 10μg 程度で、マイクロアレイに必要な量は 1μg 程度であることから、生検検体から十分な量のRNA が採取出来ることが分かった。そして実際にマイクロアレイに提出した症例は早期の十二指腸癌 1 例と、腺腫 3 例とした。

まず mRNA 及び miRNA における網羅的遺伝子発現解析の結果の妥当性について検討した。腫瘍部で有意に上昇・減少する遺伝子抽出し、マイクロアレイに提出しなかった検体から抽出した RNA においても同様の傾向を示すか、mRNA において 9 遺伝子、miRNA について 2 つの miRNA についてReal time RT-PCR を用いて検討した。結果は 9 遺伝子はすべて同様の傾向を示し、2 つの miRNA においても同様であった。以上から生検検体を用いた網羅的遺伝子解析の結果は十分に信頼できるデータであることが示唆された。

次にmRNA の網羅的遺伝子発現解析の結果から、Gene Set Enrichment Analysi(s 以下GSEA)を用いた検討を行った。腫瘍部と周囲正常部の遺伝子発現を比較した際に、明らかに変動している遺伝子 set と、GSEA に登録されている遺伝子 set との相関について検討した。結果は、明らかな有意差(p<0.00001)をもって相関が示唆される遺伝子 set のうち、大腸腺腫において変動する遺伝子 set と APC タンパクの target となる遺伝子 set との関連が強く示唆され、これは非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍と大腸腫瘍における遺伝子発現との類似性を示していると考えられた。

次に妥当性が担保された miRNA について基礎的・病理学的検討を行う方針とした。web上に公開されている複数のアルゴリズム(PicTar、miRDB、TargetScan、microRNA.org)を用い、腫瘍で有意に発現が上昇している miR-135b-5p について target 予測を行ったところ、大腸癌等の消化管腫瘍で関連が示唆される APC 遺伝子が Target として予測された。これは前述の GSEA を用いた検討結果からも、miR-135b-5p が APC 遺伝子を target とし発現抑制を行うことで、十二指腸腫瘍における腫瘍化を促進する可能性が示唆された。

APC 遺伝子は常染色体優性遺伝を示す家族性大腸腺腫症の原因遺伝子で、大腸においては過半数に遺伝子変異を認めるとされる。腫瘍化のメカニズムとして強く支持されている Wnt pathway において、APC タンパクは通常β-catenin タンパクと結合し分解を誘導するが、 Wnt シグナルが on になると分解が誘導されず、β-catenin タンパクが蓄積し核内に移行することで腫瘍化を引き起こすとされる。大腸癌等で認める APC 遺伝子変異により、β-cateninタンパクと結合が阻害され、分解が誘導されず β-catenin タンパク蓄積を引き起こすが、非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍においてはmiR-135b-5p がAPC 遺伝子の翻訳阻害を引き起こし、 β-catenin が蓄積することで腫瘍化を促進する機序が働く可能性が示唆された。

上記の仮説を検討するために、まず miR-135b-5p による APC タンパクの発現抑制を確認する方針とした。cell line において miR-135b-5p の発現が少ない HEK293T 細胞に lentivius vector を用いて発現上昇させたところ、Western Blotting において mock 細胞と比較し有意に APC タンパクの発現が減少している事を確認した。次に APC タンパクの減少により Wntシグナルが亢進しているか検討したところ、TOPFLASH を用いたレポーターアッセイでは最終的な Wnt シグナルの亢進を確認することができたが、AXIN2 の転写発現による評価では差を認めなかった。次にこの発現上昇させた細胞を mock 細胞と共に RNA を抽出し、マイクロアレイによる網羅的遺伝子解析行った。発現解析の結果から Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)による pathway 解析を行ったところ、Wnt pathway との強い相関関係(p<0.01)を示した。

次に非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍における β-catenin タンパク蓄積と miR-135b-5p 発現の関係を検討するために、当院で過去に内視鏡に切除されホルマリン固定されている非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍組織検体について、β-catenin の抗体を用いた免疫染色と LNA(Locked Nucleic Acid) probe を用いた in situ hybridization による miR-135b-5p の発現解析を用いて検討した。病理学的に検討した非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍の内訳は腺腫 11 症例、癌 27症例であり、β-catenin タンパクは 32/38 症例(84.2%)で細胞内及び核に異常蓄積を認め、 miR-135b-5p は 23/38 症例(60.5%)で腫瘍部に強い発現増加を認めた。以上から非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍においては β-catenin タンパクの異常蓄積と miR-135b-5p の強い発現傾向を確認した。

最後に非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍における APC 遺伝子変異の有無について検討した。今回病理学的検討に用いたホルマリン固定検体から DNA を抽出し、これを APC 遺伝子の変異が集積する Mutation cluster region(以下 MCR)について PCR 反応により増幅し、TA cloning 後にシークエンスを行い、MCR における変異の有無を確認した。結果は、今回検討した症例において全例で APC 遺伝子変異が認められなかった。

以上から miR-135b-5p が APC 遺伝子からの翻訳阻害を行い Wnt pathway を介して腫瘍化を促進させる機序は、十二指腸において大腸癌等に比較し APC 遺伝子変異が少ないことからも、miR-135b-5p の発現異常が腫瘍化に寄与する可能性が示唆された。

今回我々は非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍の生検検体を用いて、世界初の mRNA/miRNA における網羅的発現解析を行い、その結果の妥当性を示した。得られた解析結果から非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍と大腸腫瘍との類似性を示されたが、基礎・病理学的な検討からは非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍おいて大腸腫瘍と比較し APC 遺伝子変異によらない miR-135b-5p の発現異常による腫瘍化の機序が働いている可能性が示唆された。