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大学・研究所にある論文を検索できる 「Newly established patient-derived organoid model of intracranial meningioma」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Newly established patient-derived organoid model of intracranial meningioma

山﨑, 慎太郎 名古屋大学

2022.07.01

概要

【緒言】
髄膜腫は最も頻度の高い中枢神経原発腫瘍である。The World Health Organization(WHO)の基準では、腫瘍の組織学的特徴によりグレードI、II、IIIに分類される。およそ80%が良性(グレードI)に分類され、外科的腫瘍摘出が標準治療とされている。腫瘍の発生部位・摘出度によっては、術後に放射線照射を追加しても再発率が高くなることが知られている。近年、髄膜腫の大規模分子解析研究により、重要な分子異常(NF2、POLR2A、TRAF7、KLF4、AKT1、SMARCB1、SMARCE1、SMO)が同定されている。しかし、髄膜腫では細胞株や動物モデル等の研究モデルの樹立が困難であることから、未だその病態の核心を突ききれておらず、治療薬剤の機能的解析も不十分であるために難治性髄膜腫に対する分子標的治療は確立されていない。近年様々ながん腫において、高い樹立効率を示す三次元培養法によるオルガノイドモデルが有望な研究モデルとして注目されている。患者腫瘍から樹立されたオルガノイドモデルは、従来の細胞株や異種移植マウスモデル等と比べて、元となる腫瘍の性質をより忠実に再現するモデルと考えられている。本研究では、患者腫瘍の特徴を反映した新たな実験プラットフォームとして髄膜腫オルガノイドモデルを樹立し、分子解析・機能解析研究を進めることを目的とした。

【対象および方法】
細胞培養の足場となる細胞外マトリックスとしてMatrigelを使用し、悪性髄膜腫細胞株(HKBMM、IOMM-Lee)、手術摘出した髄膜腫14症例(グレードI:10症例、グレードII:3症例、グレードIII:1症例)及び孤立性線維性腫瘍(Solitary fibrous tumor: SFT)2症例の腫瘍組織サンプル(Table1)を用いてオルガノイド培養を行った。樹立したオルガノイド組織と患者腫瘍組織のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色及び免疫組織染化学色(IHC)を行い組織学的特徴を比較した。更に、上記組織からそれぞれ抽出したDNA及びRNAを用いて全エクソン解析、コピー数解析、遺伝子発現解析、DNAメチル化解析を行い、分子プロファイルについて比較・検討を行った。公開されている髄膜腫の遺伝子発現データを解析し、異常増殖能と関連する分子異常を探索した。樹立した髄膜腫オルガノイド(グレードIまたはII)を用いて同定した分子の遺伝子強制発現実験、si-RNAを用いたRNA干渉実験を行うことにより、増殖能に与える影響を検証した。また、同定した分子に対する阻害剤が高悪性度髄膜腫オルガノイドの増殖に与える効果を検証した。

【結果】
オルガノイド培養法を用いて悪性髄膜腫細胞株を三次元培養すると悪性髄膜腫様の組織学的所見を示すことを確認した(Figure1A)。同培養条件にて髄膜腫、SFTの腫瘍検体を用いて、摘出直後の組織を培養したところ、全症例で長期間培養可能なオルガノイドモデルを樹立できた。樹立したオルガノイドモデルは各々の患者腫瘍と類似した組織学的特徴を示した。IHCでは、髄膜腫に特徴的なSSTR2AとSFTに特徴的なSTAT6はいずれもそれぞれの腫瘍種のオルガノイドモデル、患者腫瘍検体で同様に高発現を示した。また、オルガノイドモデルと患者腫瘍検体の腫瘍増殖能を示すKi-67indexは同程度であり、オルガノイドモデルの長期培養後もこの結果は維持された(Figure1B)。更に、オルガノイドモデル及びその患者腫瘍に対して行った遺伝子解析でも、遺伝子変異、コピー数異常については互いに類似したプロファイルを示した(Figure2)。公開されているRNA-seqデータを解析し、グレードII及びIII髄膜腫はグレードI髄膜腫に比較しFOXM1を有意に高発現しており、FOXM1の遺伝子発現量はKi-67indexの相関係数は最も高いことを明らかにした(Figure3)。FOXM1に着目し、グレードI髄膜腫オルガノイドモデルにFOXM1強制発現ベクターを導入すると増殖が促進された。また、グレードIII髄膜腫オルガノイドモデル及び細胞株オルガノイドモデルでsi-RNAを用いてFOXM1のノックダウンを行うと増殖が抑制された(Figure4)。更に、FOXM1阻害剤であるthiostreptonと悪性髄膜腫の標準治療である放射線照射を組み合わせると、高悪性度髄膜腫オルガノイドの増殖が有意に抑制された(Figure5)。

【考察】
これまでの髄膜腫研究では、従来の二次元培養による腫瘍細胞株あるいは異種移植動物モデルが実験に用いられてきた。そのほとんどは悪性髄膜腫由来、あるいは遺伝子操作にて不死化した良性髄膜腫由来の細胞株であり、大部分が良性腫瘍である髄膜腫の病態理解には障壁があった。また、髄膜腫では異種移植マウスモデルの樹立率も極めて低いことが知られている。細胞株や異種移植マウスモデルの樹立には多くの時間と資源を必要とする一方で、今回我々が報告した髄膜腫オルガノイドモデルは、わずかな腫瘍検体を元に、2週間以内で全例の樹立に成功しており、樹立効率の高い有望な実験モデルと考えられる。近年、様々ながん腫で報告されるオルガノイドモデルは、腫瘍組織の主要な特徴を再現できるモデルと考えられており、治療薬剤の効果解析に優れ、RNA干渉実験やCRISPR-Cas9による遺伝子編集実験にも利用されている。髄膜腫オルガノイドモデルの報告は本研究が初めてであり、RNA干渉実験及び薬剤に対する機能的解析にも有用であることが示された。

現在、一部の髄膜腫を対象にAKT1、SMOを標的とした臨床試験(ClinicalTrials.gov:NCT02523014)が進行中であるが、特定の分子変異を標的とした治療法確立には未だ至っていない。本研究により髄膜腫の増殖に寄与するFOXM1が治療標的となり得る可能性を示した。FOXM1は細胞周期制御に関わる転写因子であり、膠芽腫、肝癌、乳がん等では高発現したFOXM1がβ-catenin、cyclinD1、p21、interleukin8(IL-8)、vascular endothelial growth factor A(VEGF-A)等の発現を増加させ、腫瘍進展を促しているとの報告がある。FOXM1に対する阻害剤としてはsionomycinA、thiostrepton等が知られているものの、現在臨床のがん治療に対して認可されたFOXM1阻害剤は存在しない。今後、髄膜腫オルガノイドモデルを用いてより詳細な増殖メカニズムを解明することで、FOXM1を含む異常分子パスウェイの一部を標的とした治療法の開発につながることが期待される。

【結語】
患者腫瘍の組織学的・分子的特徴を模倣した髄膜腫オルガノイドモデルを高率に樹立した。本モデルを利用して遺伝子強制発現実験、RNA干渉実験、治療実験を行うことで、高発現したFOXM1が髄膜腫の腫瘍増殖に関与しており、新規治療標的となりうることを示した。髄膜腫オルガノイドモデルは、髄膜腫の病態解明と新たな治療戦略の確立に大きく寄与することが期待される。