Studies on β-Bromo-substituted meso-Free Expanded Porphyrins and Their Conformational Transformations
概要
学位論文の要約
題目
Studies on β-Bromo-substituted meso-Free Expanded Porphyrins and Their
Conformational Transformations
(β-ブロモ置換型メゾフリー環拡張ポルフィリンとその構造変換に関する研究)
氏名
中井 彬人
1. 序論
5 つ以上のピロール環を有する環拡張ポルフィリンは巨大で柔軟な π 共役系を有し、近赤
外領域に及ぶ光吸収特性や、金属複核錯体の形成、芳香族性–反芳香族性スイッチング、メ
ビウス芳香族性の発現といった通常の π 共役系分子には見られない興味深い特性を示す。
環拡張ポルフィリンの構造は主に 1) 分子内での水素結合ネットワーク、2) 置換基の嵩高さ、
3) 芳香族安定化エネルギー、に依存する。申請者は骨格変換可能な置換基としてβ位にブ
ロモ基を導入したメゾ無置換型の環拡張ポルフィリンを合成し、そのメゾ位の高い反応性
を活かすことや、ブロモ基を変換することで環拡張ポルフィリンの構造変化を引き起こし
その物性を変化させることを目的として本研究に着手した。
2. テトラブロモ[36]オクタフィリンの金属錯化に伴う渡環反応を利用した新規縮環ポルフ
ィリノイドの合成
申請者は初のメゾ無置換型オクタフィリンとしてテトラブロモ[36]オクタフィリンを合
成した。そして Zn(II)錯化を行うと 5 位と 25 位が分子内で架橋された縮環体を与える一方
で、Ni(II)錯化を行うと渡環反応により N-混乱ポルフィリンテープへと変化することを明ら
かにした。Zn(II)錯体は 36π メビウス芳香族性を示す一方で Ni(II)錯体は 36π 反芳香族性を
示した。さらに、Ni(II)錯体を酸化することで 34π 芳香族性を示し、安定な二つの酸化状態
をスイッチングできた。
3. ポルフィリン–オクタフィリンハイブリッドテープの合成
中央部のユニットに巨大で柔軟な構造を有するオクタフィリンを導入したポルフィリン
–オクタフィリンハイブリッド三量体とその Zn(II)錯体を合成した。さらに Zn(II)錯体に対す
る酸化的縮環反応を行うことで、ポルフィリン–オクタフィリンハイブリッドテープを合成
することを達成した。これはメビウス芳香族性を示す初のポルフィリンテープ類縁体であ
り、吸収帯の長波長シフトや HOMO–LUMO ギャップの低下といった物性が確認できた。
4. 還元的脱ブロモ水素化反応による meso-free デカフィリン(1.1.1.1.1.1.1.1.1.1)の合成
テトラブロモ[46]デカフィリンを合成した後に、還元的脱ブロモ水素化を行うことでメゾ
無置換[46]デカフィリンの合成を達成した。メゾ無置換[46]デカフィリンは直接的な環化反
応では得られない分子であり、テトラブロモデカフィリンが重要な前駆体となっているこ
とを示している。テトラブロモ[46]デカフィリンは三日月型の構造をしており非芳香族性で
ある一方で、メゾ無置換[46]デカフィリンはダンベル型構造をとり、明確な 46π 芳香族性を
示した。さらに、メゾ無置換[46]デカフィリンは溶媒に応じてその構造が大きく変わり、吸
収スペクトルが変化した。その構造を理論計算を用いて解析した。
5. メゾ無置換 N 縮環[22]ペンタフィリンの合成と物性
申請者はメゾ無置換ジブロモ N-縮環[22]ペンタフィリンの還元的脱ブロモ水素化を行う
ことで、メゾ無置換 N-縮環[22]ペンタフィリンを合成した。この化合物は直接的な環化反
応では得ることが出来ない分子である。さらに、クロロ化を施しメゾ位がクロロで修飾さ
れたメゾ-クロロ N 縮環[22]ペンタフィリンの合成を達成した。
6. 12π 反芳香族性の寄与を有する N-混乱ポルフィリンテープ銀(III)錯体の合成
N-混乱ポルフィリンテープのフリーベース体の合成に成功し、さらに銀錯化を行うこと
で、N-混乱ポルフィリンテープ Ag(III)錯体を得た。各種測定の結果から、この化合物は N混乱ポルフィリンの 18π 系に由来する芳香族性と、ピロロ[2,3-f]インドールに由来する 12π
反芳香族性を併せもつ化合物であると帰属した。
7. 渡環–転位シーケンスによるメゾ位無置換型オクタフィリンからポルフィリン二量体へ
の構造変換
テトラブロモ[36]オクタフィリンのパラジウム触媒を用いた脱ブロモ水素化反応により
ブロモ基のないメゾ位無置換型オクタフィリンを合成し、それに対して、Zn(II)錯化を行う
と連続的渡環−転位反応によってメゾ–メゾ直結ポルフィリン二量体が生成することを発見
した。新規転位反応の機構を考察するために、内部架橋型オクタフィリンを合成した。こ
れに対して Zn(II)錯化を行った場合も同様のポルフィリン二量体が得られることから、内部
架橋型オクタフィリンからポルフィリン二量体への構造変化であることが確認された。さ
らにテトラブロモ内部架橋型オクタフィリンがパラジウム触媒脱ブロモ水素化反応条件下
で三重縮環ポルフィリン二量体を与えることも見出した。 ...