Development of Novel meso-Heteroatom Substituted Corroles
概要
申請者はポルフィリン類縁体コロールの化学について、その電子物性・光学特性の調整に興味を持ち、メゾ位がヘテロ原子で置換されたコロールについてその修飾反応と共役系の変化を伴う物性変化についての研究を行った。
第1章ではコロールの構造、物性、合成法、修飾法に着目し、コロールへのメゾ位修飾反応によりコロールの電子物性へ大きな摂動を与えられること、そのようなコロールで外部刺激に応答した、構造変化を伴う物性変化を示すことについて述べた。また、そのような研究を行う上でメゾ無置換コロールが前駆体として優れており、これを出発物として、メゾ位にヘテロ置換基をもつコロールの基礎物性の解明に取り組むことを述べた。
第2章ではメゾニトロコロールの合成とその物性について述べた。メゾ無置換コロールに対して亜硝酸銀と亜硝酸ナトリウムを作用させることで、求核的ニトロ化反応によりメゾニトロコロールの合成に成功した。これらメゾニトロコロールはメゾ無置換コロールと比べて長波長シフトした吸収スペクトルを示すとともに、正電位側へシフトした酸化還元電位を示した。また導入したニトロ基の効果により、環内部のプロトンの酸性度の向上や蛍光消光が起こることを明らかにした。
第3章では芳香族求核置換反応を用いたメゾジアリールアミノコロールの合成について述べた。塩基存在下、メゾクロロコロール銀錯体とジフェニルアミンまたはカルバゾールとの芳香族求核置換反応により、メゾジアリールアミノコロールを合成した。メゾジフェニルアミノコロールの吸収スペクトルや電気化学的性質に大きな変化が見られた。これは柔軟に回転可能なアリール基をもつメゾジフェニルアミノコロールの電子状態が、効果的な共役のためより大きい摂動を受けていることを示唆している。また、ジフェニルアミノコロールに対して酸化反応を行うと、ジアリールアミノ基の脱離を伴ってイソコロールが生成することを見出した。
第4章ではメゾ酸素化イソコロールの反芳香族性が、金属錯化、ルイス酸により変化すること、励起状態において芳香族性を示すことを明らかにした。申請者は二酸化マンガンを用いたメゾ無置換コロールの酸化によりメゾ酸素化イソコロールを合成し、その反芳香族性の発現を実験的に明らかにした。その金属錯体はより強い反芳香族性を示すことが分かった。また、ルイス酸存在下ではニッケル錯体の分極型構造の寄与が増すことで、C=O結合が伸長するとともにその16π反芳香族性が著しく増大することを明らかにした。このようなルイス酸の添加による反芳香族性の調整を定量的に評価した例は極めて珍しく、反芳香族化合物の基礎物性について重要な知見を与える結果である。また、最低励起三重項状態において励起状態芳香族性が発現することを実験的に見出した。
このように申請者はメゾ位にヘテロ置換基を有するコロールの電子物性・光学特性が大きな電子的摂動を受けることを見出した。また、メゾ酸素化イソコロールの研究を通じ、カルボニル基の分極による16π共役系において、反芳香族性の発現とその構造との相関を明らかにした。これらの知見はコロールへの新規な官能基化や、その構造と物性とが密接に関与する新規な機能性分子の構築に有用であると考えられる。