偏微分方程式を用いたSchramm-Loewner発展の解析
概要
複素上半平面をH={z∈C:Imz>0}と書く.ただし,Cは複素平面を表す.曲線γを原点を出発点として時間t∈[0,∞)と共に単調に伸びていく単純曲線γ=γ[0,t],t∈[0,∞)とする.ただし,γ(0,∞)∈Hである.ここで,gtをH\γ(0,t]→Hの共形変換とすると,gt(z)は次のLoewner微分方程式に従う.
∂∂tgt(z)=2gt(z)−Ut,g0(z)=z.(1.1)
ただし,UtはLoewner微分方程式の駆動関数であり,Ut=gt(γ(t))である.Schrammは[1]で,Loewner微分方程式(1.1)の駆動関数をUt=√κBt,κ>0とした.ただし,Btは1次元標準ブラウン運動である.つまり,
∂∂tgt(z)=2gt(z)−√κBt,g0(z)=z,z∈H.(1.2)
この初期値問題の解として得られる共形変換の族{gt}t≥0をchordal Schramm-Loewner発展(Schramm-Loewner evolution)と呼び,パラメータκを付してSLEκと略記する.また,(1.2)を複素上半平面HでのchordalSLEκに対する前進微分方程式とする.この時,γ(0)=0とし,t>0に対してγ(t)を√κBt=gt(γ(t))によって定義する.すると,γ[0,t]は一般には単純曲線ではないが,tに関して連続曲線を与えることが証明されており,γ[0,t]をSLEκ曲線と呼ぶ.また,SLEκ曲線の振る舞いは0<κ≤4,4<κ<8,κ≥8の3相で異なる特徴を持つ.まず,0<κ≤4の時,SLEκ曲線は単純曲線となる.次に,4<κ<8の時,SLEκ曲線は自分自身や実軸と接することはあるが交わることのない曲線となる.ただし,曲線が伸びていくにつれ,曲線で囲まれた領域は複素上半平面Hを覆いつくしていくが,曲線自身でHが埋めつくされることはない.そして,κ≥8の時,複素上半平面Hを埋めつくしていく曲線となる.
また,SLEκは幾つかの2次元格子上の統計物理モデルの連続極限と対応していることが知られている[6,7].例として,κ=2,3,4,6,8において,SLEκはそれぞれloop-erased random walk,臨界Ising界面曲線,臨界4状態Potts模型,臨界浸透探索過程およびuniform spanning treeに対応する.