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大学・研究所にある論文を検索できる 「マウス肺上皮細胞–間葉系細胞間の分子相互作用についての研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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マウス肺上皮細胞–間葉系細胞間の分子相互作用についての研究

白石, 一茂 東京大学 DOI:10.15083/0002002371

2021.10.13

概要

特発性肺線維症や慢性閉塞性肺疾患などの慢性呼吸器疾患には根本的治療法が未だ存在しないものが多く、社会的な問題となっている。したがって、これら疾患に対する新規治療法の開発が期待されている。特発性肺線維症が発症する原因は不明とされているが、2型肺胞上皮細胞と肺線維芽細胞間の病的な相互作用が影響している可能性がある。慢性閉塞性肺疾患においても、肺線維芽細胞−上皮細胞間の相互作用のバランスが崩れた結果として肺気腫が起きている可能性が指摘されている。このように、特発性肺線維症や慢性閉塞性肺疾患などの慢性呼吸器疾患は肺胞領域を構成する細胞もしくは細胞同士の相互作用に異常を認める疾患であり、肺胞領域を構成する細胞あるいは細胞の制御因子に関する研究は、慢性呼吸器疾患に対する新規治療法を開発するために重要である。

 肺胞領域の上皮細胞は、肺胞壁を構成する1型肺胞上皮細胞と、肺サーファクタントを分泌する2型肺胞上皮細胞の2種類の上皮細胞から構成されている。2型肺胞上皮細胞は間葉系細胞と共培養することで肺胞球を形成し、自律的に増殖・1型肺胞上皮細胞へ分化することが証明されており、2型肺胞上皮細胞は肺胞領域の組織幹細胞と考えられている。また、2型肺胞上皮細胞はPdgfra陽性の線維芽細胞に近接して存在し、線維芽細胞と相互作用しながら肺胞幹細胞ニッチを形成しているとされている。しかし、線維芽細胞—2型肺胞上皮細胞間の相互作用および2型肺胞上皮細胞の制御因子を網羅的に解析した例は少なく、その全容は多くは分かっていない。また、マウスの成体のみならず、発生過程でどのような相互作用が起きているのかも未解明な点が多い。

 2型肺胞上皮細胞は組織幹細胞であり、慢性呼吸器疾患に対する再生医療的応用を念頭に、その研究は近年注目を増してきている。一般に、単層培養系で細胞の機能を調べる際には、細胞の機能が培養中にどの程度保持されているのかを検討する必要があると考えられる。しかし、2型肺胞上皮細胞を単層培養系において形態的・分子的特徴を保持したまま培養・継代した報告は今までにない。2型肺胞上皮細胞と線維芽細胞を用いた共培養を行うことで樹立可能な肺胞球は継代可能で安定した細胞培養が可能であるため、基礎研究・臨床への橋渡し研究で近年注目を浴びている。しかし、線維芽細胞と共培養せずに単一の2型肺胞上皮細胞から肺胞球を形成させたという報告はまだない。共培養系に対する研究およびその結果は、肺胞球に線維芽細胞が混在しているため2型肺胞上皮細胞の機能そのものに当てはめることはできないことから、2型肺胞上皮細胞単独での肺胞球培養の可能性が注目されている。

 以上の背景を基に、組織幹細胞である2型肺胞上皮細胞と肺線維芽細胞の相互作用をマウス肺胞期および成体において明らかにし、慢性呼吸器疾患の治療につながるような2型肺胞上皮細胞の制御因子を同定することが本研究の主な目的である。また、これらの制御因子を組み合わせることで、線維芽細胞非存在下において、2型肺胞上皮細胞の肺胞球形成を起こすことができるかどうか明らかにすることも目的とした。

 肺胞が形成・成熟する過程と成体における線維芽細胞−上皮細胞間の相互作用を明らかにするために、私はまず上皮細胞と線維芽細胞の発生時系列に沿ったSAGE-seq(トランスクリプトーム解析)を行なった。次に、線維芽細胞で発現が見られ細胞外因子のアノテーションが付与されている遺伝子と、上皮細胞で発現が見られ細胞表面受容体のアノテーションが付与されている遺伝子を抽出した。また、KEGGデータベースからリガンド−受容体関係に関連するデータを抽出し、上記のデータを全て照合することで、線維芽細胞のリガンド−上皮細胞の受容体関係を発生時系列に沿って網羅的に同定した。この線維芽細胞−上皮細胞の相互作用に含まれる線維芽細胞のリガンドは、2型肺胞上皮細胞を支持すると報告があるPdgfra陽性またはAxin2陽性Pdgfra陽性線維芽細胞で高発現であったため、線維芽細胞−上皮細胞の相互作用は線維芽細胞−2型肺胞上皮細胞間の相互作用に外挿可能と考えられた。

 同定した線維芽細胞−2型肺胞上皮細胞間の相互作用をinvitroで解析するために、私は線維芽細胞−上皮細胞の共培養による肺胞球形成アッセイを行った。相互作用解析で同定したFgf7、Wnt、Bmp4、Tgf-βなどの線維芽細胞リガンドは共培養系の線維芽細胞でも発現が見られ、これらのシグナルリガンドまたは阻害剤を共培養に加えると肺胞球径の増大が見られた。以上より、生体の細胞から取得したトランスクリプトームを用いて同定した線維芽細胞−2型肺胞上皮細胞の相互作用はinvitroにおいても実際に作用している可能性があると考えられた。最後に、私は線維芽細胞由来のシグナルやシグナル阻害剤を組み合わせることで、線維芽細胞非存在下で肺胞球を形成することが可能なのではないかと考え、分子や阻害剤を組み合わせて実験を行なった。結果、mFgf7、mNoggin、SB431542、CHIR99021、Jagged-1の5種類の試薬を使用することにより線維芽細胞非存在下で肺胞球を形成できることが明らかになった。mFgf7、mNoggin、SB431542またはCHIR99021単剤では肺胞球は形成されず、いずれかを5試薬から抜いて培養しても、頑強な肺胞球形成は認めなかった。また、これら線維芽細胞非存在下の肺胞球は単細胞に懸濁してから、少なくとも3回継代可能であったことから、本研究で同定した培養系を用いれば2型肺胞上皮細胞のclonalな分裂を見ることができると考えられた。

 本研究において私は、線維芽細胞と上皮細胞に関して時系列に沿ってSAGE-seqを行うことで、マウス肺胞期・成体におけるリガンド−受容体関係を網羅的に明らかにした。線維芽細胞と上皮細胞の共培養実験を使用してリガンド−受容体関係について、in silicoで同定したシグナルに関してさらなる解析を行った。最後に、同定した肺胞幹細胞ニッチシグナルを使用して、2型肺胞上皮細胞から線維芽細胞非存在下における肺胞球培養に成功した。以上の結果より、2型肺胞上皮細胞に重要な制御因子が複数同定されたと考える。また、新たに確立された線維芽細胞非存在下の2型肺胞上皮細胞のスフェロイド培養系は、呼吸器分野で新たな研究ツールとして貢献できると考える。

 今後の研究の方向性としては、今回明らかになった各々のシグナルをin vivoで検証すること、ヒト細胞を使用した実験を行うこと、2型肺胞上皮細胞の制御因子を治療に応用していくことを検討することではないかと考えられる。例えばBmp4、Tgfbr1などの2型肺胞上皮細胞・線維芽細胞におけるコンディショナルノックアウトを用いた研究は詳細には行われておらず、Bmp/Tgf-βシグナルの重要性を検証するために必要だと思われる。ヒト細胞を使用した肺胞球形成実験の報告はあるものの、肺胞球を形成するためにやはり線維芽細胞などの支持細胞を必要とする。マウスの細胞で検証した内容がヒト細胞にも外挿可能であるかどうかは今後の検討事項と言える。治療への応用という面では、本研究成果を基盤に、肺再生能が低下していると考えられる慢性閉塞性肺疾患の治療に対して、肺胞上皮の分裂に寄与するニッチシグナルを応用する新規治療法の開発につながることを期待している。

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