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大学・研究所にある論文を検索できる 「RNautophagyの細胞内基質の同定およびその生理的意義の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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RNautophagyの細胞内基質の同定およびその生理的意義の解明

株田, 千華 東京大学 DOI:10.15083/0002002306

2021.10.13

概要

生命恒常性の維持にとって細胞内成分の合成と分解の適切な調節は不可欠であるが、RNA分解調節についてまだ解明すべき課題が多い。リソソーム内の主要RNA分解酵素RNaseT2の機能欠損は白質脳症を引き起こすことが報告され、リソソーム分解の異常が疾病を引き起こすことは明白であるが、リソソームにおけるRNA分解機構については大部分が不明である。最近になり、リソソームによるRNA分解にマクロオートファジーが関与していることが明らかとなりつつある。我々の研究グループでは、この経路と独立して、ATP依存的にリソソームにRNAを直接取り込み分解するRNautophagyという経路の存在を発見した。この経路では、リソソーム膜に局在する線虫のRNAチャネルSID-1のオルソログSIDT2が、RNAのリソソームへの取り込みを仲介している。培養細胞において、SIDT2をノックダウン(KD)するとRNA分解が顕著に抑制されるという結果から、RNautophagyが細胞内RNA分解に重要な役割を担っていることが強く示唆されている。しかし、これまで細胞内でRNautophagyの基質となるRNAは同定されておらず、RNautophagy活性の低下や欠損が動物個体にどのような影響を及ぼすか不明である。そこで本研究では、RNautophagyの細胞内基質RNAを同定し、これらの動態を解析することにより、細胞および個体におけるRNautophagyの生理的意義を解明することを目的に研究を行った。

RNautophagyによるrRNA分解とその生理的意義
 我々の研究グループでは、単離リソソームを用いたin vitro実験で、rRNAがRNautophagyの基質となることを既に示している。そこで、rRNAがRNautophagyの細胞内基質と予想し、RNAがRNautophagyで分解されるか検討することにした。
 まず、Actinomycin D(ActD)チェイス・アッセイを確立した。SIDT2をKDしたwild-type(WT)MEFおよび対照細胞に、RNA転写阻害剤ActD(100ng/mL)を添加し、経時的に回収した細胞からtotal RNAを抽出し解析したところ、SIDT2KDにより細胞内RNA分解が抑制された。このアッセイ系において、マクロオートファジーの必須因子Atg5KOMEFでもSIDT2KDにより細胞内RNA分解が抑制され、リソソーム阻害剤クロロキン添加により対照細胞のRNA分解抑制が観察されたことから、この系を用いてRNautophagyによる個々のRNA分解が追跡できると結論した。
 確立したActDチェイス・アッセイを用いてrRNA量をqPCRにより定量した結果、WTおよびAtg5KOMEFにおいてrRNA分解がSIDT2KDにより抑制されることが明らかとなった。マウス神経芽細胞腫Neuro2a細胞にTet-offシステム制御下で5.8SrRNAを発現させた後、ドキシサイクリン添加によりその転写を停止し、SIDT2過剰発現によるrRNA分解の影響を解析した(Tet-offアッセイ)。その結果、SIDT2過剰発現により5.8SrRNAの分解が有意に亢進したことから、rRNAはRNautophagyの基質となって分解されると結論した。
 更に動物個体におけるRNautophagyの生理的意義を解明するために、SIDT2KOマウスの表現型を調べた。その結果、WTマウスと比較して、SIDT2KOマウスでは体重減少と骨格筋の異常が観察された。免疫染色の結果、老齢SIDT2KOマウスの骨格筋においてrRNAがfoci状に蓄積しており、細胞質でRNA代謝の場となっているP-bodyのマーカーと一部共局在した。RNAの蓄積・凝集が原因に関与する筋疾患が存在することも併せ、SIDT2KOマウスの骨格筋では、rRNA蓄積が筋変性の一因となっている可能性が考えられた。一連の結果は、RNautophagyによるrRNAの適切な分解が正常な骨格筋の維持に必要であることを示唆している。

マイクロアレイを用いたRNautophagyの細胞内基質候補の網羅的探索
 rRNA以外のRNautophagyの細胞内基質を検討する目的で、マイクロアレイを用いて基質候補となるRNAのスクリーニングを行った。mRNAなどを中心に解析するために、SIDT2をKDしたAtg5KOMEFおよび対照細胞について、RNA polymerase IIを阻害できる高濃度ActD(5µg/mL)チェイスを1.5時間行い、マイクロアレイ解析を行なった。アレイ上のそれぞれの遺伝子について、SIDT2KDによる分解抑制度(対照細胞における分解率/SIDT2KD細胞における分解率)を算出した。その結果、SIDT2KDにより1.5倍以上分解抑制されたmRNAは約3割存在した。マイクロアレイの検出シグナル強度(およその発現量)が高い遺伝子の多くは分解抑制度が低かったが、その中で1.5倍以上分解抑制された遺伝子に機能的な特徴や配列的な特徴を見出した。さらに、2倍以上抑制された遺伝子を対象にしたGOエンリッチメント解析において、複数のカテゴリーが濃縮された。マイクロアレイ解析により、RNautophagyの新たな細胞内基質候補の選別に成功し、RNautophagyの細胞内における機能的役割を推測するために有用な情報を得ることができた。

RNautophagyの基質候補α-Synuclein mRNA分解の解析
 マイクロアレイ解析により新たにRNautophagyの基質候補となったRNAのうち、パーキンソン病原因遺伝子であるα-Synuclein mRNAに着目して解析を進めた。まず、内在性α-Synuclein mRNAがRNautophagyによって分解されるかどうかを、SIDT2をKDしたMEFを用いqPCRにより検証した。その結果、WT、Atg5KO MEFともにSIDT2KDによりα-Synuclein mRNAの分解抑制が確認された。そこで、SIDT2の過剰発現によるα-Synuclein mRNAの分解について検討した。Neuro2a細胞にTet-offシステム制御下でhumanα-Synuclein mRNAを発現させ、Tet-offアッセイによりSIDT2過剰発現によるα-Synuclein mRNA分解の影響を解析した。その結果、SIDT2の過剰発現によりα-Synuclein mRNAの有意な分解亢進を確認できた。さらにRNAトランスポート活性を有しないSIDT2S564A変異体の過剰発現では、α-Synuclein mRNA分解の亢進は認められなかった。以上の結果から、α-Synuclein mRNAはRNautophagyの基質となると結論した。
 次に、α-Synuclein mRNAのどの領域がRNautophagyによる分解に必要かを調べるために、α-Synucleinの種々の領域を欠失した変異体を発現させたTet-offアッセイにより、それぞれのmRNA分解を追跡した。3’-UTRを欠失させたα-Synuclein mRNAについては、SIDT2の過剰発現により全長mRNAと同程度に分解が亢進した。一方、Kozak配列を付加したコーディング領域のconstructでは、SIDT2過剰発現による有意な分解亢進は認められなかった。α-Synuclein mRNAの5’-UTR内にRNautophagyに必要な領域があると考え、5’-UTR内の特徴的なG-richregionを欠失させた変異体を発現させたところ、SIDT2過剰発現による分解促進は認められなかった。SIDT2が核酸中のGの連続配列と結合するという先行研究の結果も併せると、RNautophagyによるα-Synuclein mRNA分解には5’-UTRのG-rich regionとSIDT2の結合が重要であることが示唆された。

本研究の意義
 本研究では、細胞内でRNautophagyの基質となるRNAとして、rRNAおよびα-Synuclein mRNAの同定に初めて成功し、更に基質となり得る候補RNAを複数選別することができた。また、動物個体を用いた研究からは、RNautophagyによるRNA分解が正常な骨格筋の維持に必要である可能性を示すことができた。このように、本研究成果は、細胞内RNA分解の新しい概念を提唱するものであり、将来的には、新しい観点から筋疾患やパーキンソン病の治療法開発が進むものと期待している。

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