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Physiological role of mitochondrial tRNA f5C modification by Alkbh1

川原田, 礼以良 東京大学 DOI:10.15083/0002006717

2023.03.24

概要

論文審査の結果の要旨
氏名

川原田

礼以良

本論文はミトコンドリア tRNA f5C 修飾酵素 Alkbh1 の生理的機能について、ノックアウ
トマウスの作製とその表現型の組織学的・行動学的解析から明らかにしたものであり、主
に 4 つの章からなる。
序論では、ミトコンドリアの遺伝子発現についての概論と、本論文の研究対象であるミ
トコンドリア tRNAMet に存在する f5C 修飾に関する先行研究の要約を記述している。ミト
コンドリアは独立した遺伝子発現系をもち、ミトコンドリアゲノムにコードされる遺伝子
は独自の転写翻訳機構によりタンパク質へ翻訳され、呼吸鎖複合体を構成する。ミトコン
ドリア遺伝子発現系における遺伝暗号は普遍暗号とは異なる変則的なコドン対応をもち、
その一つとして AUA コドンの Ile から Met への暗号変化がある。この変則暗号によりミ
トコンドリア tRNAMet は普遍暗号の AUG コドンに加え AUA コドンの解読を要求される
が、ミトコンドリア tRNAMet の wobble 位に存在する f5C がこれを可能にすることが先行
研究により解明された。AUA コドンは Met を指定するコドンのうち約 80%を占め、開始
コドンとしても用いられることから、f5C はミトコンドリアタンパク質合成系に重要な役
割をもつことが示唆される。さらに論文提出者の本学工学系研究科修士課程での研究によ
り、2-OG/Fe2+依存的なジオキシゲナーゼ ALKBH1 を f5C 修飾酵素として同定し、RNA
メチル化酵素 NSUN3 による C のメチル化反応に引き続いて ALKBH1 によるヒドロキシ
ル化及び酸化反応がおこなわれることで f5C が生合成されることが明らかになった。また
NSUN3 または ALKBH1 遺伝子を欠損したヒト培養細胞の解析から、f5C がミトコンドリ
アタンパク質合成や呼吸活性に不可欠な因子であることが示された。一方で、これまでに
複数のグループにより、Alkbh1 の in vivo での生理的機能を解明するためのノックアウト
マウスを用いた表現型解析がおこなわれてきたが、統一的な見解を得られていなかった。
本論文提出者は、マウスの表現型の不均一性を生じさせる原因の一つがノックアウトマウ
スの遺伝的背景が雑種である可能性に言及し、これを解決するために CRISPR/Cas9 シス
テムを用いた近交系系統の Alkbh1 ノックアウトマウスの作製が有効であると述べてい
る。さらに中枢神経系疾患や筋疾患の患者で f5C 修飾形成を阻害する tRNA 遺伝子点変異
が報告されていることから、特に中枢神経系機能における Alkbh1 の生理的機能に着目
し、背側終脳特異的なコンディショナルノックアウトマウスの作製とその解析から明らか
にすることを目標に掲げている。
「実験材料及び方法」の章では、本研究に用いられた試薬や手法について詳細に述べら
れている。

「結果」の章では、まず CRISPR/Cas9 システムを用いた Alkbh1 全身ノックアウトマウ
スの作製と解析結果について述べられている。全身ノックアウトマウスは生存率と体重の
低下を示し、先行研究を一部支持した。次に、背側終脳特異的な Alkbh1 コンディショナ
ルノックアウトマウスの作製とその組織学的解析及び行動学解析の結果について記述され
ている。Alkbh1 コンディショナルノックアウトマウスは、胎生期の大脳皮質の発達遅延を
示した。また、海馬の面積は生後 0 日ではコントロールマウスと有意な差が見られなかっ
た一方で、12 週齢期では有意な減少が見られ、年齢依存的な海馬の萎縮が生じることが示
唆された。海馬の異常についてより詳細に解析するため、電子顕微鏡による海馬 CA1 領域
の錐体細胞の解析をおこなったところ、コントロールマウスには見られない黒変した錐体
細胞がコンディショナルノックアウトマウスでは観察され、細胞変性の初期にあるものと
推測された。これらの中枢神経系における組織学的異常が行動に与える影響を網羅的に解
析するため、一連の行動試験をおこなっている。その結果、海馬依存的な記憶学習を評価
する恐怖条件付け試験及びモリス水迷路試験において、コンディショナルノックアウトマ
ウスの成績の有意な低下を見出した。これらの結果から、Alkbh1 の生理的機能として海馬
依存的な記憶学習おける新たな役割を明らかにしている。
「考察」の章では、まずノックアウトマウスの表現型に研究グループ間で差異が生じた
原因について、マウスの遺伝的背景、欠損したエキソン部位及びオフターゲットの観点か
ら論じている。続いて、Alkbh1 コンディショナルノックアウトマウスで、海馬依存的な記
憶学習の障害が生じたメカニズムについて考察をおこなっている。Alkbh1 コンディショナ
ルノックアウトマウスの海馬において呼吸鎖複合体の活性低下が観察されたことを踏ま
え、Alkbh1 欠損による呼吸鎖複合体の合成障害が、シナプスへの ATP 供給量の低下を引
き起こし、海馬の神経回路の異常を誘引しているのではないかと結論づけている。最後に
疾患との関わりの観点から、本研究の意義や課題について考察し、総括している。
本論文で示された研究成果により、長らく議論が続いていた Alkbh1 の生理的機能につ
いて、信頼性の高い近交系系統のノックアウトマウスの解析から結論を与え、海馬依存的
な記憶学習に関する新しい役割を見出した。f5C 修飾形成の障害は疾患との関連も示唆さ
れることから、ミトコンドリア機能の関連する疾患を理解するうえで重要な知見である。
以上の研究成果は、論文提出者が主体となっておこなったもので、論文提出者の寄与が
十分であると判断する。よって、本審査会は博士(理学)の学位を授与できると認める。

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