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大学・研究所にある論文を検索できる 「炭水化物摂取による高中性脂肪血症の分子機構の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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炭水化物摂取による高中性脂肪血症の分子機構の解明

木村, 武史 東京大学 DOI:10.15083/0002002397

2021.10.13

概要

高中性脂肪血症(HTG)は循環血液中の中性脂肪(TG)に富むリポ蛋白質(TRL)の蓄積から生じる。外因性起源のTGは小腸からカイロミクロン(CM)の形態で分泌され、内因性起源のTGは肝臓からvery low density lipoprotein(VLDL)の形態で分泌される。これらのリポ蛋白質やTGは、循環血液中のリポ蛋白リパーゼ(LPL)によって加水分解され、末梢組織のエネルギー源として遊離脂肪酸(FFA)を遊離する。しかし血漿TGが過剰になると、中等度HTGは心血管疾患リスクを増加させ、重度HTGは急性膵炎の原因となる。ゲノムワイド関連研究によって、HTG関連遺伝子と心血管疾患リスクとの間の関連性も明らかになってきている。しかしHTGの治療方法は限られており、分子機構のさらなる解明が必要である。

 重度HTGは1,000mg/dLを超えるHTGとして定義され、CMのみが増加するI型と、CMとVLDLの両方が増加するV型に分類される(Fredericksonの分類)。I型の高リポ蛋白血症(HLP)は、典型的には幼児期や小児期早期に発症する珍しい(約50万~100万人に1人)単因子遺伝性疾患である。I型HLPは典型的にはLPLやAPOC2などのLPL経路遺伝子の異常・欠損によって引き起こされる。V型HLPは、より頻度が高い(約600人中1人)。V型HLPは、LPL経路の遺伝子異常・欠損(APOA5など)と環境要因(高炭水化物食、高脂肪食、加齢、肥満、糖尿病など)の組み合わせによって後天的に増悪する。環境要因によるVLDLの蓄積は、V型HLPの増悪因子として示唆されている。しかし、環境要因がVLDLを蓄積させる分子機構は完全には分かっていない。

 アポリポ蛋白A-V(ApoA-V)は主に肝臓から分泌され、血漿中のCMやVLDL、high-density lipoprotein(HDL)に乗って循環するアポリポ蛋白質である。APOA5遺伝子の変異は冠動脈疾患や早発性心筋梗塞のリスクとなることが報告されている。さらに、APOA5遺伝子の欠損や機能が喪失する変異は重度HTGをもたらす。APOA5欠損症は多くの場合、食事要因(高炭水化物食や高脂肪食など)などが加わることによってV型HLPをきたし、後天的に増悪する。しかし、APOA5欠損症でHTGが環境要因によってどのように増悪するのかは明らかではない。APOA5欠損症に伴うHTGの治療方法は限られており、新たな治療開発のために分子機構の解明が必要である。今回は食事要因に着目しHTG増悪の分子機構を解明することを目的とした。

 ApoA-Vが血漿TGを制御する機序として、これまでにいくつかの作用様式が考えられてきた。①apoA-VはLPLによる血漿TGクリアランスを促進する。ApoA-VはVLDLやCMなどのTRLに結合する一方で、glycosylphosphatidylinositol-anchored high-density lipoprotein-binding protein 1(GPIHBP1)に結合する。GPIHBP1は内皮細胞表面でLPLを繋留する蛋白質である。これによりTRLとGPIHBP1-LPL複合体の間で架橋を形成し、LPLによるTRLの加水分解を促進する。内皮細胞表面上のheparan sulfate proteoglycans(HSPG)もまたGPIHBP1と同様にapoA-VとLPLの両方に結合することにより、LPLによるTRLの加水分解を促進する可能性があるが、特にGPIHBP1がapoA-Vの作用において重要な役割を果たすことが分かっている。②ApoA-VはHSPGやlow-density lipoprotein receptor(LDLR)ファミリー(LDLRやlow-density lipoprotein receptor-related protein 1(LRP1))のリガンドとなる。これにより、これらのレセプターによる肝臓と末梢組織におけるエンドサイトーシスを促進し、細胞のTRLレムナント取り込みを促進する。③ApoA-Vは細胞内で作用し、肝細胞中の脂肪滴の形成を促進することによってVLDL合成を抑制する。

 このように、apoA-Vの作用機序が明らかになってきているが、それではなぜAPOA5欠損症では重度HTGの発症に環境要因の負荷が必要なのであろうか。この未解決課題を解明するために、本研究ではApoa5-/-マウスを用いた実験を行った。Chow dietにより飼育されたApoa5-/-マウスの血漿TGは400mg/dL程度に留まることが知られている。そのため、このマウスモデルを用いれば、①どのような環境要因で重度HTGが誘発されるか、②その根底にあるHTGの分子機構は何か、を明らかにできると考えた。

 V型HLPにおける血漿TG上昇の分子機構として、我々は以前に転写因子であるsterol regulatory element-binding protein-1c(SREBP-1c)が重要な役割を果たすことを見出した。核内受容体Liver X receptor(LXR)はSREBP-1cの転写を促進する転写因子で、LXRアゴニストを野生型マウスに与えると軽度な血漿TG上昇が生じ、Ldlr-/-マウスに与えると、重度HTGをきたす。そして、この現象はSREBP-1c依存的である。このメカニズムを①~③として以下に示す。①LXRはSREBP-1cの転写を促進する。②SREBP-1cは標的遺伝子である脂肪酸・TG合成系遺伝子や肝臓のリン脂質転送蛋白(PLTP)を介してVLDLをCMサイズ(>80nm)に大型化する。③血漿中の大型VLDLは主にLDLRによって肝臓に取り込まれるため、Ldlr-/-マウスでは血漿中に蓄積する。しかし、これらの知見はLdlr-/-マウスにLXRアゴニストを投与するという人工的な系によって得られたものであり、その生理的意義は明らかでなかった。

 そこで、この知見に基づいて「apoA-V欠損の場合にも、LXRアゴニストでSREBP-1cの転写を促進させればV型HLPが生じる」という仮説を立てた。この仮説に基づいて、我々の研究室では以下の(A)~(C)を明らかにしてきた。(A)LXRはSREBP-1cの転写を促進して大型VLDLを産生させ、Apoa5-/-マウスでもV型HLPを発症させる。(B)大型VLDLの効率的なクリアランスにはapoA-Vが必要である。(C)Apoa5-/-マウスにおけるLXRアゴニストによるV型HLPはSREBP-1c依存的である。

 それでは、このようなSREBP-1c依存的なHTGの発現・制御は生理的にも重要な役割を果たすのだろうか。これを明らかにするために、今回は特に炭水化物に着目し、野生型マウス、Apoa5-/-マウス、Apoa5-/-;Srebp-1c-/-マウスを用いて①どのような食事要因(炭水化物の種類など)がApoa5-/-マウスでHTGを誘発させるのか、②Apoa5-/-マウスにおける炭水化物によるV型HLPの分子機構は何か、SREBP-1cはどの程度重要な役割を果たすのか、を明らかにすることを目的に研究を行った。

 本研究ではまず炭水化物の種類の違いによって、apoA-V欠損におけるHTGに与える影響が異なるか検討した。その結果、apoA-V欠損でのHTGはフルクトース依存的で、グルコースではHTGとならないことが分かった。従来は「高炭水化物食は肝臓での脂肪合成を促進し脂肪肝をきたすとともに、VLDL合成を促進し、VLDLが血中に蓄積する」と考えられていた。しかし、高グルコース食も高フルクトース食と同じように脂肪肝をきたすものの、HTGをきたすのは高フルクトース食のみであった。このことはフルクトース依存的なVLDLの調節機構が存在することを示唆している。本研究では、この高フルクトース食による大型VLDL産生にはSREBP-1cが必須であることを明らかにした。すなわち、フルクトースはSREBP-1cの遺伝子発現を亢進させ、SREBP-1cは大型VLDLの産生を介してApoa5-/-マウスにVLDLを蓄積させることが、今回の結果から示唆された。

 さらに、SREBP-1cがどのような標的遺伝子を介して大型VLDLの産生を促進するのか明らかにするため遺伝子発現解析を行った。SREBP-1cは、第一に脂肪酸・TG合成系遺伝子を活性化させることによりVLDL内部のTGを増加させ、第二にVLDL表面にリン脂質を供給するPLTPを活性化させることによりVLDLサイズを増大させると考えられている。しかし、本研究のtime courseとdose responseの結果からは、これらの遺伝子群の発現変化だけではSREBP-1cによるVLDL大型化が説明できない可能性が示唆された。この両方の実験においてSREBP-1c依存的にフルクトースにより発現増加した遺伝子はSCD-1、FAS、Elovl6のみであった。しかし、これらの遺伝子はSREBP-1c欠損下でも高フルクトース食により発現が増加しており、SREBP-1c欠損下でのHTGの完全なレスキューを部分的には説明できても、完全に説明することは困難であると考えられた。これらの他に大型VLDL産生を制御するSREBP-1cの下流遺伝子が存在する可能性が考えられるため、今後はDNAマイクロアレイ解析などを行うことにより、SREBP-1cによるVLDL大型化の責任分子機構を明らかにしたい。

 ApoA-V欠損では脂肪負荷でもHTGが増悪することがAPOA5欠損症の症例報告から示唆されている。今回はオリーブオイルの単回投与モデルを用いることにより、CM産生亢進がApoa5-/-マウスに与える影響を評価した。その結果、オリーブオイルによるCM産生増加も著しい血漿TG増加をきたすことが明らかとなった。このことはapoA-VがCMクリアランスに必要であることを示唆している。また、Apoa5-/-マウスとApoa5-/-;Srebp-1c-/-マウスにオリーブオイルを与えると両遺伝子型とも同様の血漿TG増加が見られたことから、SREBP-1cは、CM代謝には影響を与えないことが示唆された。

 ApoA-VはLPLとTRLとの間の相互作用を促進することによりTRLのLPLによるクリアランスを促進していると考えられている。LPLは血管内皮細胞の血管内腔側の表面に繋留されており、apoA-VがなければTRLはLPLにアクセスできない。一方、ヘパリンはこの血管内皮細胞表面のLPLを血中に遊離させることが知られている。もしヘパリンによってapoA-V欠損の高TRL血症が改善するならば、apoA-Vは遊離したLPLの作用には必要ではなく、血管内皮細胞表面のLPLにのみ必要であることがわかる。Apoa5-/-マウスに蓄積したCMはヘパリンの静脈注射により除去された。このことから、apoA-VはTRLと血管内皮細胞表面のLPLとの間の相互作用を担っていること、この働きがapoA-V欠損によって失われることが示唆された。高フルクトース食を与えたApoa5-/-マウスでは大型VLDLが蓄積する一方、Chow dietや高グルコース食の投与ではVLDLは大型化しなかったことから、apoA-Vは大型VLDLのクリアランスには必須だが、小型VLDLのクリアランスには必須でないことが考えられる。この仮説の直接的な証明も今後の重要な検討課題と考えている。

 本研究はapoA-VとSREBP-1cの相互作用を明らかにし、APOA5欠損症で炭水化物の摂取によりHTGが生じる分子機構を明らかにした。APOA5は心血管疾患の早期発症のリスク遺伝子としてゲノムワイドスキャンでLDLRの次にランク付けされている。炭水化物摂取とSREBP-1cに関する研究は、HTGの分子機構の解明に役立ち、SREBP-1cはHTGやHTG関連合併症(膵炎、アテローム性動脈硬化症など)の良い治療標的となり得ると考えられる。

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