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大学・研究所にある論文を検索できる 「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病態進展における脂質生合成経路の役割」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病態進展における脂質生合成経路の役割

川村, 聡 東京大学 DOI:10.15083/0002006978

2023.03.24

概要

[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名川村



本研究は NASH において脂質合成が果たす役割を明らかにするために、肝特異的
PTEN/SCAP

Double Knockout (DKO)マウスの詳細な解析を行ったものであり、以下の結

果を得ている。
1. 本研究では肝特異的 PTEN/SCAP DKO マウス(PTEN/SCAPΔL)を用いた。NASH のモデル
マウスとして用いられる肝特異的 PTEN KO (PTENΔL)マウスでは Sterol regulatory
element-binding proteins (SREBPs)が常に活性化されており脂肪肝から 12 か月以上の経
過で肝癌を発症する事が知られているが、この PTENΔL マウスで SREBP の活性化に必
須の分子である SCAP を KO し脂質生合成を低下させる事で NASH と NASH 関連肝癌
の進展における脂質合成経路の役割を解析した。5 ヵ月齢の PTEN/SCAPΔL マウスでは
肝細胞の脂肪沈着は PTENΔL マウスに比べて改善していたものの、門脈域に沿った炎症
細胞浸潤を認め、肝硬変と言っていいような激しい線維化を認めた。7 か月齢では、
PTENΔL マウスでは殆ど肝癌形成は認めなかったが、PTEN/SCAPΔL マウスでは驚くべき
事に多発肝癌を認めた。よって、PTENΔL マウスで脂質合成を阻害すると肝硬変から肝
癌を発症するという全く予想外の結果が得られた。そして SCAP による活性化を機能
発現に必要としない活性型 SREBP1a のトランスジェニックマウスを PTEN/SCAPΔL マ
ウスに掛け合わせ(PTEN/SCAPΔL ; S1aTg マウス)SREBP 機能を回復させたところ、5
週齢での PTEN/SCAPΔL マウスの激しい肝障害は著明に改善し単純性脂肪肝となり、ま
た長期の観察においても PTEN/SCAPΔL マウスにおける 5 ヵ月齢の線維化と 7 か月齢の
発癌は著明に改善した。つまり、PTEN/SCAPΔL マウスで観察したフェノタイプは
SREBP 機能不全による脂質合成異常が原因である事がわかった。また、この
PTEN/SCAPΔL マウスの組織像は、NASH の線維化が進行し脂肪沈着がむしろ減少した
Burned-out NASH の組織像に酷似していた。そして重要な事にヒトの Burned-out NASH
においても SREBP 経路が低下している事が報告されており、我々の実験結果と合わせ
て Burned-out NASH で生じている脂質合成低下はそれ自体が NASH から肝硬変・肝癌
へと病態進展を加速させる因子なのではないかという仮説を立て、検討を進めた。
2. 各ジェノタイプの肝検体を用いて RNA-seq によるトランスクリプトーム解析を行った
ところ、PTEN/SCAPΔL マウスでは ER stress が活性化していた。実際 PTEN/SCAPΔL マウ
スの肝臓では CHOP 等の ER stress マーカーのタンパク発現が亢進していた。そして ER
stress を 軽 減 す る 作 用 を 持 つ シ ャ ペ ロ ン タ ン パ ク で あ る GRP78 の 強 制 発 現 が
PTEN/SCAPΔL マウスの肝障害を著明に改善させた事から PTEN/SCAPΔL マウスの肝障害

は、ER stress が大きく関与している事がわかった。次に、生体のマウス肝での外部環境
による二次的な影響を除外する為に、cre 陰性 PTENf/f/SCAPf/f マウスから初代肝細胞を
培養し、cre 発現アデノウイルスを用いて in vitro で遺伝子改変を誘導したところ、この
実験でも ER stress マーカーの上昇がみられ、DKO 肝細胞は培養液中の脂質濃度が低下
するに従って ER stress マーカー発現の増加を伴い細胞死していく事がわかった。すな
わち PTEN/SCAPΔL マウスにおける ER stress は、肝細胞において起こるこれらの遺伝子
改変が原因である事がわかり、また肝細胞はその生存を外因性脂質に依存している事が
明らかとなった。
3. PTEN/SCAPΔL マウスにおける ER stress の原因となっている脂質を同定する為に各ジェ
ノタイプの肝検体を用いた LC-MS による網羅的脂質分析をおこなったところ、多価不
飽和脂肪酸を構成として持つ Phosphatidylcholine (PC)が PTEN/SCAPΔL マウスで低下し
ている事がわかった。多価不飽和脂肪酸を含む PC の肝臓における低下は膜の流動性低
下を伴い ER stress を惹起する事が報告されており、実際 PC カクテルを PTEN/SCAPΔL
マウスに投与すると ER stress の改善をともなって肝障害が改善した事から
PTEN/SCAPΔL マウスでも同様の現象が起こっている事が考えられた。又多価不飽和酸
を PC に取り込む酵素である Lpcat3 の発現が PTEN/SCAPΔL マウスで低下しており、
DKO 初代肝細胞で Lpcat3 を強制発現したところ、ER stress の改善を認めた。よって
PTEN/SCAPΔL マウスでは Lpcat3 の低下による不飽和脂肪酸の PC 取り込み阻害とそれ
による PC プロファイルの異常が ER stress の原因である事が示唆された。
4. SCAP KO に PTEN KO を追加するとどうして激しい肝障害生じるのかという事に関し
ては、PTEN/SCAPΔL でオートファジーの基質である p62 タンパク質が蓄積しており、
かつ mTOR inhibitor である PP242 の PTEN/SCAPΔL ウスへの投与が肝障害を改善した事
から PTEN KO による mTOR の活性化とそれによるオートファジーの低下が脂質合成
阻害と協調的に肝障害を引き起こしているという仮説が考えられた。Autophagy に必須
の分子である ATG5 を用いて肝特異的 ATG5/SCAP DKO マウス(ATG5/SCAPΔL)を作成し
たところ、ATG5 KO マウス(ATG5ΔL)に比べて ATG5/SCAPΔL マウスでは肝障害の増悪が
見られ、SCAP KO による脂質合成阻害はオートファジー阻害と協調的に肝障害を増悪
させる事が実証され、我々の仮説を支持する結果が得られた。
以上本論文は、PTEN/SCAPΔL マウスにおける肝障害は 1)脂質合成阻害と不飽和脂肪酸の
リン脂質への取り込み阻害による ER stress と 2)PTEN KO によるオートファジー障害が協
調的に作用して生じるものである事を示した。また本マウスモデルの結果をヒトの臨床に
当てはめると、NASH において強力に脂質合成を阻害する事はむしろ病態を悪化させる可
能性があり、進行 NASH で生じている SREBP 機能低下はリン脂質組成の変化を介して病
態進行を促進している可能性がある事を明らかにし、NASH の新たな病態解明と新しい治
療法の開発に重要な貢献をなすものと考えられる。
よって本論文は博士(医学 )の学位請求論文として合格と認められる。

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