モンモリロナイトおよびナノポーラスシリカを用いた抗菌性を有する常温重合レジン材料の開発
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モンモリロナイトおよびナノポーラスシリカを用いた抗菌性を有する常温重合レジン材料の開発
大坪, 周平
北海道大学. 博士(歯学) 甲第15487号
2023-03-23
10.14943/doctoral.k15487
http://hdl.handle.net/2115/89693
theses (doctoral)
Shuhei_Otsubo.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
博 士 論 文
モンモリロナイトおよびナノポーラスシリカ
を用いた抗菌性を有する
常温重合レジン材料の開発
令和 5 年 3 月申請
北海道大学
大学院歯学院口腔医学専攻
大
坪 周 平
緒
言
平成29年の初診矯正患者数が1日あたり800名であったのに対して令和2年で
は2900名と近年矯正歯科治療の需要は拡大している [1]。矯正歯科治療では、
常温重合レジンを使用する場面は非常に多く、アクチバトール、咬合斜面板な
どの機能的矯正装置、拡大床などの床矯正装置、加強固定に用いられるナンス
のホールディングアーチや、保定治療に用いられるリテーナーなど多くの装置
に使用されている。これらの矯正装置の多くは数年間にわたり長期的に使用す
るが、固定式装置の場合には装置と粘膜の間にプラークがたまりやすく、炎症
が起こることが報告されている[2]。また、レジン材料は長期間の使用によって
細菌が内部へ侵入、汚染し、装置の劣化にも繋がることが知られており[3]、細
菌に汚染されたレジンの削合調整による削片飛散を原因とした診療室内の汚染
についても報告されている[4,5]。この解決については修復物に抗菌性を付与す
るための試みが多くなされており[6-8]、コンポジットレジンにクロルヘキシジ
ンを直接添加する試みもあるが、周囲に溶出した薬剤により一時的に抗菌効果
を発揮するものの、徐々に溶出量が低下し、抗菌効果は消退する[9]。一方、酒
匂ら[10]や中野田ら[11]は銀を吸着させたアパタイト系抗菌剤や抗菌性ゼオラ
イトを用いたレジン材料の作製を試みているが、銀は口腔内では硫化されAg2S
の形で析出してしまい、抗菌効果が減弱する可能性があるとしている[12]。こ
のように抗菌性レジン材料の開発は、抗菌効果が持続しないことが短所として
挙げられ、実際に製品化されたものは少ない。そこで、本研究では、薬剤担持
機能および再取り込み能をもつモンモリロナイト(Mont)とナノポーラスシリカ
(NPS)に着目した。Montは、ベントナイトと呼ばれる鉱物に含まれており、食品
にも用いられているため、一定の安全性が担保されている。また、日本各地で
採取可能なため安価で応用しやすい材料でもある。構造としては、ケイ酸塩の
四面体が連なってできた層と、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムの八
面体が連なってできた層から構成されており、1枚の八面体層を2枚の四面体層
で挟んだ構造になっている[13]。八面体構造の中のアルミニウムが一部マグネ
シウムに同形置換されていることにより、層の表面では電荷が不足し、マイナ
スの電荷を帯びた状態となっている。この電荷の不調和を改善するために層間
にはNa+、Ca2+、K+、Mg2+などのプラス電荷をもつイオンが取り込まれている。
これらの層間の陽イオンはその他の陽イオンと交換可能(陽イオン交換
能)[13-17]で、これを利用して薬剤を層間に取り込むことができる [16,17]。
Matsuoら[17]は、Montにカチオン性抗菌剤である塩化セチルピリジニウム(CPC)
を取り込ませることによって抗菌性を有した歯科用接着材を開発している。
一方、NPSは二酸化ケイ素を主原料としたナノサイズの細孔を有した材料で、
表面処理や細孔の形態・サイズなどの調整が可能なため、近年ドラッグデリバ
リーシステムへの応用などが期待されており、多くの研究がなされている
[18-21]。NPSの表面はマイナス電荷を帯びているため[22]、カチオン性抗菌剤
を引き寄せ、これを細孔に取り込むことができる。すでにフェンブフェン[23]、
銀[24]およびクロルヘキシジン[25,26]を担持し徐放できることが確認されて
いる。
本研究では、抗菌性常温重合レジンの開発に向け、Mont、NPSを薬剤のキャリ
アーとして用い、それぞれにカチオン性抗菌剤を添加させ、Mont含有常温重合
レジン(resin-Mont)、NPS含有常温重合レジン(resin-NPS)を作製し、薬剤徐放
能、再取り込み能、抗菌効果、機械的特性、色調を評価した。カチオン性抗菌
剤には、含嗽剤や歯磨剤として口腔内に応用されており、mutans streptococchi
などの口腔内細菌やCandida Albicansなどの真菌に有効である第4級アンモニウ
ム塩系カチオン性抗菌剤であるCPCを用いた[27]。
材料と方法
1. 素材
Mont はクニピア-F(クニミネ工業、日本)を用い、NPS(Sigma-Aldrich、USA)
は粒子径 2.0 μm で細孔径 4.0 nm のものを用いた。常温重合レジンはオーソク
リスタル(JM ORTHO、日本)を用いた。またカチオン性抗菌剤は CPC(東京化成工
業株式会社、日本)を使用した。
2.試験片の作製
Mont 粉末、NPS 粉末をそれぞれ 10.0 wt%CPC の水溶液に添加し、12 時間、50 ℃、
1500 rpm で攪拌し、これを濾過、乾燥させた。得られた粉体を常温重合レジン
の粉末成分にそれぞれ 10.0 wt%の濃度で混合した(resin-Mont、resin-NPS)。調
整した粉末と液体をメーカーの添付文書に記載の配合率(P/L=1.00/0.45)で混
合し重合させ試験片を作製した。抗菌剤の徐放能、再取り込み能、抗菌効果お
よび色調の評価のための試験片は高さ 1.0 mm、直径 10.0 mm の円板状とし、機
械的性質の評価のための試験片は幅 40.0 mm、奥行き 10.0 mm、高さ 1.0 mm の
直方体状とした。また、今回使用した Mont の陽イオン交換容量は 1.19
mmol/g[17]で、担持できる CPC 量は試験片に対して 2.7 wt%と算出された。そこ
で、CPC を 2.7 wt%常温重合レジンに直接添加し、同様の方法で試験片を作製し
て、control(resin-CPC)とした。
3.抗菌剤の徐放能の評価
作製した resin-Mont、resin-NPS、resin-CPC の試験片をそれぞれ 3 個ずつ 3.0
ml の蒸留水に 37.0 ℃で 24 時間浸漬した。その後、試験片を溶液から取り出し、
再び 3.0 ml の新しい蒸留水に浸漬した。このサイクルを 14 日間継続した。得
られた 14 日分の上澄み液の吸光スペクトルを液体クロマトグラフィ(Nexera
X2,Shimadzu Corporation,日本)にて測定し、CPC の徐放量を評価した。
4.再取り込み能の評価
CPC の再取り込み能を評価するために、14 日間の徐放が終わった後の試験片
を 3 個ずつ、10.0 wt%の CPC 溶液に 37.0 ℃で 24 時間浸漬し再取り込みを行っ
た。これを水洗、乾燥後、それぞれの試験片を 3 個ずつ 3.0 ml の蒸留水に浸漬
し 37 ℃で 24 時間浸漬した。その後試験片を取り出し、新しい蒸留水 3.0 ml に
浸漬した。このサイクルを 7 日間繰り返し継続した。得られた 7 日分の上澄み
液の吸光スペクトルを液体クロマトグラフィ(Nexera X2,Shimadzu Corporation,
日本)にて測定し、CPC の徐放量を評価した。
5.抗菌効果の評価
まず、mutans streptococchi(ATCC55677)を Brain Heart Infusion(BHI)(Becton
Dickson and Company、Franklin Lakes、USA)培地で 24 時間培養し、24 時間後
に分光光度計(Double Beam Spectrophotometer U-2910、HITACHI、日本)で測定
し、その光学濃度(濁度)を 1.0 に希釈し菌液を調製した。得られた S.mutans 菌
液をさらに 10 倍に希釈し、各実験に使用した。抗菌試験には、7 日間、14 日間、
再取り込み後 7 日間、CPC を蒸留水中で徐放させた後の試験片を用いた。BHI 液
体培地 5.0 ml に、調整した S.mutans 菌液より 1 白金耳と、試験片を 1 試験に対
してそれぞれ 1 個ずつ添加し、37℃で静置にて培養した。control として BHI 液
体培地に、調整した S.mutans 菌液より 1 白金耳を加えただけのものを作製した。
24 時間経過後の培養液の濁度を分光光度計(Double Beam Spectrophotometer
U-2910、HITACHI、日本)を用いて濁度を測定し、抗菌効果を評価した。
6.機械的強度の評価
resin-Montおよびresin-NPSについて、3点曲げ試験を行い機械的強度の評価
を行った。万能試験機(Model 3366、Instron、Canton、USA)を用いてクロスヘ
ッドスピード5.0 mm/min、支点間距離20 mmで試験片が破折するまで測定し、曲
げ強度を最大荷重点の荷重から算出した。試験は同一試料をそれぞれ5個用いた。
また、常温重合レジン単体(resin-cont)をcontrolとして用いた。
7.色調の評価
resin-Mont および resin-NPS について、CR-20(KONIKA MINOLTA,日本)を用い
て色調を評価した。背景は黒色とした。7 日後、14 日後、再取り込み後 7 日後
の試験片をそれぞれ 3 個ずつ測定した。また、control として、レジンのみ重合
させた試験片を作製した。L*a*b*表色系を用いた。色差は以下の式で算出した[28]。
結果
1. resin-Mont および resin-NPS の CPC 徐放能の評価
上澄み液の液体クロマトグラフィによる測定から、以下の結果を得た(Fig.1)。
すべての試料において CPC の徐放量は徐々に減少する傾向を示した。徐放量の
比較では、resin-Mont、resin-NPS の徐放量は resin-CPC と比較してどの日数に
おいても多く、resin-CPC は 9 日目で 1ppm 以下(検出限界以下)となった。
resin-Mont と resin-NPS では、1-5 日目では、resin-Mont の方が徐放量は多か
ったが、6 日目以降はほぼ同等の徐放量であった。 (Fig.1)
Fig.1 resin-Mont、resin-NPS、resin-CPC の CPC 徐放量の変化
2. 再取り込み能の評価
再取り込み後 1 日目の徐放量は、resin-Mont、resin-NPS、resin-CPC の全
ての試験において再取り込み前 14 日目の徐放量よりも増加した。また、CPC
徐放量は再取り込み前と同様に徐々に減少した。また、CPC 徐放量は概ね、
resin-Mont、resin-NPS、resin-CPC の順に多かった。resin-Mont の徐放量
は、再取り込み後 7 日目においても再取り込み前 14 日目の徐放量よりも高
かった。resin-NPS の徐放量は再取り込み後 5 日目で 1.0ppm まで低下し、再
取り込み前 14 日目の徐放量を下回った。また、resin-CPC の徐放量は 2 日目
ですでに 1.0 ppm を下回り、再取り込み前 14 日目と同等まで低下した。
(Fig.2)
Fig.2 再取り込み後の CPC 徐放量比較
3. 抗菌試験による抗菌効果の評価
7 日目の試験片と 14 日目の試験片を用いた試験では control と比較し全て
の試験片で濁度が低く、抗菌効果を認めた。濁度は resin-Mont、resin-NPS、
resin-CPC の順で小さく、この順に抗菌効果が高かった。また、14 日目は 7
日目と比較すると濁度は大きくなっており抗菌効果が徐々に減弱すること
が確認された。
再取り込み後 7 日目の試験では resin-Mont、resin-NPS の 2 つについては
control と比較して濁度が小さく抗菌効果を認めた。また、resin-Mont の濁
度は resin-NPS よりも小さく、resin-Mont の方が抗菌効果は高かった。また、
resin-Mont、resin-NPS ともに再取り込み前 14 日目の結果と比較して濁度
は小さくなっており、CPC の再取り込みによる抗菌効果の増強を認めた。そ
れに対し、resin-CPC は control と同等に濁度が大きく、再取り込みの効果
はみられなかった。(Fig.3)
Fig.3 抗菌試験による濁度の変化の比較
(‘再取り込み後’を‘R’で表記した。)
4.機械的強度の評価
曲 げ 強 度 に つ い て 、 resin-cont(85.8 Mpa) 、 resin-NPS(64.0 MPa) 、
resin-Mont(54.9 Mpa)の順で大きく、Mont、NPS を添加すると機械的強度は低下
した。(Fig.4)
resin-cont に比較して、resin-NPS では 25%、resin-Mont では 36%の曲げ強さ
の減弱を認めた。
Fig.4 3 点曲げ試験結果
4. 色調の評価
Control について、L*は全ての試験片の中で最も小さく、a*、b*はほぼ 0 であっ
た。0 日目の試験片の比較では L*は resin-Mont、resin-NPS、resin-CPC、control
の順で大きかった。また、control と比較して全ての試験片で b*が大きく、わず
かに a*は小さかった。7 日目では全ての試験片で L*は小さくなり、暗い色調にな
った。また、a* 、b* が大きくなった。再取り込みを行うと resin-Mont および
resin-NPS では L*は大きくなり 7 日目よりも明るい色調になったのに対して、
resin-CPC では L*は 7 日目よりもさらに小さくなり、暗い色調になった。また、
resin-CPC では a*、b*に変化はなく、resin-Mont では a*、b*はともに大きく、
resin-NPS では a*が小さくなった。さらに、色差について、2.3 を丁度可知差異
として評価すると[28]、全ての試験片において control と比較して 0 日目と 7
日目と再取り込み後 7 日目の試験片の色差は丁度可知差異を超えており、人が
識別できる程度に色調が変化していた。また、resin-Mont、resin-NPS、resin-CPC
の順でこの値は大きかった。(Fig.5)
control
0day
7day
R 7day
resin-CPC
resin-NPS
resin-Mont
Fig.5 色調の変化
考察
本研究の結果より、Mont あるいは NPS を常温重合レジンに添加することで長
期間の CPC の徐放や再取り込みが可能になることが分かった。resin-Mont は
resin-CPC と比較し、初回徐放時、再取り込み後の徐放時の両方においてすべて
の期間で CPC の徐放量は多かった。理論上、同量の CPC が試験片内に添加され
ているため、Mont を薬剤のキャリアーとして用いた方が、CPC を徐放できるこ
とが示唆された。Namba ら[29]は光硬化型のボンディング材に直接 CPC を添加し
て、ほとんど徐放しないことを報告している。一方 Matsuo らは one-step 法の
セルフエッチング接着材に直接 CPC を添加して、数日間の CPC の徐放を確認し
ている。本実験の結果は Matsuo ら[17]の結果に近い。resin-CPC では、粒子状
の CPC が常温重合レジン内で重合され封入されるが、CPC 粒子はレジンと結合は
していないため一定の可動性をもち徐々に放出されたと考えられる[29]。しか
し、レジン内部の緊密性は高いため、表面、あるいはごく表面近傍の CPC のみ
が徐放し、深部に封入された CPC は徐放できなかったと推察される。一方
resin-Mont では、Mont の層間に CPC が担持されており、徐放される。そのため、
Mont の一部(層間の出口)が表面もしくは、表層に存在すれば、CPC が放出可
能であることが予測される。また、レジン内部に封入された Mont からも内部の
Mont をたどって一部徐放した可能性もある。そのため、CPC 単体でレジンに混
和するよりも、キャリアーとして Mont を用いた方が、徐放量が増加したものと
考察できる。一方、resin-NPS では、NPS の表面が負電荷を帯びているため[22]、
電気的に CPC を引き付け担持し、徐放する。resin-NPS も表面、もしくは表層に
ある NPS から CPC が徐放されたものと考えられる。また、Mont と同様に内部の
NPS をたどって徐放する可能性も考えられる。CPC の徐放量は 5 日目までは
resin-Mont の方が resin-NPS よりも多く、6 日目以降は resin-Mont と resin-NPS
で徐放量はほぼ同等であった。これは、Mont の方が、NPS と比較して、電気的
に薬剤を担持する力が弱く徐放しやすいこと、同質量であれば担持できる量が
多いことなどが理由として考えられる。今回、resin-Mont と resin-NPS は再取
り込み後数日間の CPC の徐放がみられたのに対し、resin-CPC は再取り込み後、
1 日目のみの放出だった。これはレジン表面に付着した CPC のみが放出したと考
えられ、キャリアーを用いなければ常温重合レジン内に再取り込みできないこ
とがわかった。また、resin-Mont の方が、resin-NPS よりも再取り込み後の徐
放が多かった。これは、取り込める許容量の差などが理由として考えられるが、
詳細については今後の調査が必要である。
抗菌試験の結果から、resin-Mont、resin-NPS、resin-CPC の全てで 14 日間抗
菌効果が持続し、resin-Mont、resin-NPS は再取り込み後 7 日目も抗菌効果を維
持していた。薬剤のキャリアーを添加することで、CPC の再取り込みが可能とな
り、抗菌効果も長期に維持できることがわかった。また、CPC 徐放量との関連性
を考えたとき、resin-NPS の再取り込み後 7 日目では、再取り込み前 14 日目よ
り CPC 徐放量は少なく、検出濃度以下であったにもかかわらず、抗菌効果を示
した。これについては再取り込み時に、NPS に CPC が取り込まれたことのほかに、
徐放はしないものの NPS 表面に電気的に付着している CPC 量が増加し、材料表
面において抗菌効果が発揮したことが理由として考えられる。実際、Namba ら
[29]はボンディング材に固定され、徐放しない CPC についても抗菌効果をもつ
ことを報告している。また、試験片作製時は、NPS に CPC を担持させた後、レジ
ンと混和し、試験片を作製するため、メチルメタクリレート、第三級アミン等
の影響により、NPS と CPC の電気的な付着が弱くなった可能性がある。再取り込
み時には有機成分の影響がないため、表面に露出した NPS と CPC が電気的に強
固に付着したことが可能性として考えられるが、電気的な付着や徐放のメカニ
ズムなどの現象を明らかにするには今後さらなる検討が必要である。
本研究では抗菌効果の評価には mutans streptococci を用いた。mutans
streptococci はう蝕の原因菌としてよく知られている菌であるため[30]、本開発
品を用いた装置周囲のう蝕発症の予防が期待できると考える。一方、レジンを
用いた装置の長期間の使用では、レジン下の粘膜およびレジンそのものには
Candida albicans を多量に含むプラークの付着を認めることが知られている。
[31]これに対して Nikawa らは Candida albicans の床下粘膜およびレジンへの付
着能は疎水的相互作用や静電的相互作用が関係すると報告している[32]。しか
し、品田らはこれのみでは強固な付着は獲得できないとして、Candida albicans
と mutans streptococci の共生について報告した[33]。また Howard らの報告では
Candida albicans がレジンに強固に付着するには mutans streptococci などの口腔
微生物との凝集が関与するとされている[34]。以上より、本研究の抗菌試験の
結果は Candida Albicans の、レジンおよびレジン下の粘膜への付着に対して有効
であり、粘膜の炎症に対しても有効であることが期待できる。また、CPC は
Candida Albicans への直接的な殺菌効果があることがわかっている。今後、
Candida Albicans への抗菌効果の検証が必要である。
機械的強度は resin-Mont、resin-NPS、resin-cont の順で小さく、Mont を添
加した試験片では機械的強度が最も低下することが分かった。Mont は、陽イオ
ン交換能を利用して層間の陽イオンを有機陽イオンと交換することで、無機物
質である Mont を疑似的に”有機化”させることができ、常温重合レジンのよう
な有機物質とも親和性を示す特徴を持つことがわかっている[35,36]。これによ
って Mont を有機化し、有機物質である常温重合レジンへの親和性を高めること
ができる。また、CPC は C21H38NCl と長い炭素鎖を持ち有機的な成分を多く含む
[37]。そのため、Mont の層間に担持することにより、疑似的に有機化が可能で
あり、レジンとの親和性の向上を図ることができ、添加による機械的特性の大
きな変化はないことを予測していた。しかし、今回、常温重合レジンに Mont を
10 wt%添加すると resin-cont と比較し機械的強度が低下し、NPS を添加したも
のよりもわずかに低下した。松本ら[36]は、レゾール(フェノール樹脂の一種)、
ノボラック(フェノール樹脂の一種)に Mont を添加し、機械的強度を評価してい
るが、それぞれ 4phr、3-5phr で曲げ強度は極大値を示し、それ以上の添加では
機械的強度は低下していた。 ...