リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「腫瘍幹細胞を含む頭蓋底脊索腫細胞に対するSignal transducer and activator of transcription (STAT) 3 抑制による細胞増殖抑制効果の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

腫瘍幹細胞を含む頭蓋底脊索腫細胞に対するSignal transducer and activator of transcription (STAT) 3 抑制による細胞増殖抑制効果の検討

木野, 弘善 筑波大学

2021.08.17

概要

目的: 脊索腫は頭蓋底、脊椎、仙骨に発生する、まれな脊索由来の悪性腫瘍である。なかでも頭蓋底脊索腫については近年技術革新が進む経鼻・経口内視鏡手術による脳神経外科手術の介入頻度が増えているが、高線量で局所的な照射が可能な陽子線治療、重粒子線治療を行ったうえでの局所制御率は、80 カ月の観察期間中 50%程度と十分とは言えず、有効な化学療法、分子標的薬の登場が待たれる疾患の一つである。近年のがん研究ではがん細胞に加えてがん幹細胞に対する治療効果を検討することが必要とされており、今回著者は脊索腫細胞に加えて脊索腫幹細胞に対する治療効果も検討するために、脊索腫の増殖経路の一つであり、幹細胞の分化・増殖・アポトーシスに関係する Signal transducer and activator of transcription 3(STAT3)に着目し、治療標的としての評価を行った。

対象と方法: 筑波大学附属病院で手術を行った頭蓋底脊索腫患者より採取し初代培養を行った 4 細胞(TSK-CHO1, 2, 3, 4)と、頭蓋底脊索腫細胞株(UM-Chor1)を用いて脊索腫細胞の増殖速度と STAT3の活性型である phospho-STAT3(pSTAT3)の発現量について WST-8分析、Western blot 法を用いて評価した。また JAK/STAT3 経路阻害剤であるAZD1480 とStattic と、small interfering RNA (siRNA)の核内導入によるSTAT3 の発現抑制を使用し、UM-Chor1 での細胞増殖抑制効果について WST-8 分析を用いて評価した。脊索腫幹様細胞は、幹細胞に特異的なスフェア形成能を利用して UM-Chor1 より採取し、 AZD1480, Stattic, SiRNA を使用し JAK/STAT3 経路を抑制した際の増殖抑制効果を WST-8 分析を用いて評価した。この時のアポトーシスについてはTdT-mediated dUTP- biotin nick end-labeling (TUNEL)法を用いて評価した。細胞実験に加えて、筑波大学附属病院で 2011 年 12 月から 2018 年 5 月までに手術が行われた頭蓋底脊索腫患者 23 症例に対する 31 件の手術臨床検体(ホルマリン固定パラフィン包埋組織)を用いて、 pSTAT3 発現量は免疫染色法を用いて評価し、Brachyury 発現量はリアルタイムPCR 法を用いて評価した。これらが患者の予後と関係があるか評価した。

結果: 初代培養を行った 4 細胞(TSK-CHO1, 2, 3, 4)と、頭蓋底脊索腫細胞株(UM-Chor1)ではそれぞれ異なる細胞増殖度と pSTAT3発現量を示した。細胞増殖度と pSTAT3 発現量について回帰分析を行い、細胞増殖度が高い細胞ほど、指数関数的に pSTAT3 発現量が高値であった(y=0.0902e1.1108x, R=0.931)。UM-Chor1 を用いた JAK/STAT3 経路抑制実験の結果、AZD1480、Stattic、SiRNA 使用により negative control と比較して有意に細胞数の低下を認めた。脊索腫幹様細胞に対して JAK/STAT3 経路の抑制を行い、AZD1480、Stattic、SiRNA 使用により negative controlと比較して有意に細胞数の低下を認めた。24 時間 JAK/STAT3 経路を同様に抑制すると、AZD1480、Stattic、 SiRNA でそれぞれ 6.4 %,9.4 %, 17.0 %の細胞にアポトーシスが確認された。手術臨床検体を用いた解析で、Brachyury 発現量と pSTAT3 発現量は患者予後に関係は認められなかった。Brachyury発現量とpSTAT3発現量について回帰分析を行い、両者には相関関係を認めた(全検体での回帰分析(R=0.425, p=0.050)、初発例のみでの回帰分析(R=0.567,p=0.017)が、UM-Chor1 を使用し JAK/STAT3 経路を抑制してもBrachyury 発現量に変化はなかった。

考察:これまで頭蓋底脊索腫幹細胞に対する JAK/STAT3 経路を標的とした報告はなく、今回が初めての報告となる。JAK/STAT3 経路の抑制は頭蓋底脊索腫細胞の増殖抑制のみでなく、脊索腫幹様細胞の細胞数を低下させ、その一因としてアポトーシスへの誘導が考えられた。頭蓋底脊索腫に対する JAK/STAT3 経路の抑制実験は STAT3 SH2domain 選択的阻害剤である FLLL32 を用いた抑制実験のみで、siRNA を核内へ導入し STAT3 を選択的に抑制した増殖抑制効果の報告は初となる。過去の報告で Brachyury 発現量については頭蓋底脊索腫細胞を用いた検討で、腫瘍増大との関係性と、患者予後を規定する因子として報告されているが、今回の検討では pSTAT3 発現量と Brachyury 発現量は患者予後を規定する因子とはならなかった。その理由として症例数の違い、観察期間の違い、治療背景の違い、使用検体種の違いが考えられ、今後治療背景の均一な症例の蓄積が必要である。Brachyury 発現量と STAT3 発現量には手術臨床検体を用いた検討で相関関係が確認されたが、UM-Chor1 を用いた JAK/STAT3 経路の抑制では Brachyury 発現量に変化がなかった。このことからBrachyury と JAK/STAT3 経路に直接的な関係性はないと考えられた。今後は動物実験を含めた JAK/STAT3 経路の抑制による治療効果を評価することが必要である。

結語: JAK/STAT3 経路は脊索腫細胞のみならず脊索腫幹様細胞の細胞増殖にも関係しており、JAK/STAT3 経路を抑制することで脊索腫細胞の増殖を抑制し、脊索腫幹様細胞の細胞数を減少できる。また脊索腫幹様細胞に対しては JAK/STAT3 経路を抑制することでアポトーシスを誘導できる 。JAK/STAT3 経路と Brachyury 発現経路とは直接的な関連は無いため、Brachyury に対する分子標的薬の開発に加えて、脊索腫細胞および脊索腫幹細胞の増殖を抑制する JAK/STAT3 経路を標的とする治療の開発を検討すべきである。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る