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大学・研究所にある論文を検索できる 「頭頸部癌におけるBACH1の機能解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

頭頸部癌におけるBACH1の機能解析

六郷 正博 東北大学

2022.03.25

概要

【背景】
頭頸部がんは嚥下、発声、味覚、聴覚、嗅覚といった人としての重要な機能を司る頭頸部領域に発生する悪性腫瘍の総称である。頭頸部がん治療では根治性と Quality of life のバランスを常に念頭に置きながら治療方針を決定する必要がある。頭頸部がんの 9 割以上は扁平上皮癌である。頭頸部がんの治療の主体は外科的治療であるが、根治性に比重を置き切除範囲を拡大した場合は嚥下・発声など重要機能の損失に直結するというジレンマをはらんでおり非外科的治療も含めた集学的治療が必要となる。しかしながら扁平上皮頭頸部癌に対する薬物療法においては良好な抗腫瘍効果を持つ分子標的薬剤は乏しく、新規分子標的薬剤の登場が待たれる状況である。最近では、世界的にみると HRAS 変異を有する割合の高い頭頸部癌に HRAS の活性化に必要なファルネシルトランスフェラーゼ(FT)選択的阻害剤である Tipifarnib が有効である可能性が示唆されており適応拡大が期待される。一方、頭頸部がんではその 90% 以上に EGFR の高発現がみられる。EGFR は RAS/RAF/MAPK、JAK/STAT、PI3K/AKT/mTOR の3つのシグナル伝達経路を活性化することで発癌や癌悪性化を促す。転写抑制因子 BACH1 は RAS/RAF/MAPK 経路シグナル伝達を活性化することが知られている。またヘムオキシナーゼ 1(HO-1)やフェリチンといった複数の鉄代謝関連遺伝子の発現を直接抑制することが知られており、加えて Gclm や Gclc などのグルタチオン合成経路の遺伝子を抑制することで鉄に依存した細胞死であるフェロトーシスの活性化因子となることが報告されている。頭頸部癌における BACH1 の機能解析に関する報告はなく、未知である。

【目的】
今回 BACH1 に着目し、頭頸部癌における BACH1 の発現や予後との関係、あるいは頭頸部癌細胞に及ぼすBACH1 の影響およびその作用機序を明らかにする。

【方法・結果】
頭頸部癌細胞株である HSC-2 と Ca9-22 を用いて RNA 干渉法による BACH1 の発現抑制を行ったところ細胞死が誘導された。BACH1 は RAS/RAF/MAPK 経路を活性化するため、RAS/RAF/MAPK 経路含め主要な細胞内シグナル伝達を確認したが BACH1 の発現抑制によって細胞内シグナル伝達のリン酸化状態に変化は認めなかった。BACH1 は HO-1 の抑制によって自由鉄を低下させている可能性もあるため、BACH1 ノックダウン時に Mito-FerroGreen を用いてミトコンドリア内鉄量の定量化を行ったところ、BACH1 の発現抑制時はミトコンドリア内鉄量が減少しており、この細胞死がフェロトーシスでは無いことが判った。HSC-2 に鉄キレート剤 25 µM Deferosirox(DFX)を添加したところ細胞死が誘導され、この細胞死は鉄(FeSO4)の添加によって抑制され、本細胞が自由鉄の不足で容易に細胞死を惹起することを発見した。また、DFX によって死ぬ細胞の形態は、BACH1 ノックダウン時のそれと似た細胞形態を示した。このことから BACH1 ノックダウン時に惹起される細胞死は細胞内自由鉄の欠乏状態が原因である可能性が考えられた。そこで、BACH1ノックダウン時に鉄を添加したところ、細胞死は完全に抑制された。これまで、細胞内の鉄のキレートによる細胞死はこれまでも観察されているものの、その細胞死は定義されていない。私は今回、この細胞内の自由鉄が減少することに起因する細胞死を“デフェロトーシス(deferroptosis)”と名付けた。BACH1 ノックダウン時の自由鉄量の低下の原因を探るため、鉄貯蔵タンパク質であるフェリチン遺伝子の RT-qPCR を行ったところ、BACH1 ノックダウン時に増加することが分かった。さらに HSC-2、Ca9-22 での抗 BACH1 抗体を用いた免疫沈降シーケンス法(ChIP-seq)を行ったところ、頭頸部癌細胞においてもフェリチン遺伝子の発現が BACH1 により直接抑制されていることを見出した。HSC-2 の BACH1 ノックダウン細胞における RNAシークエンス(RNA-seq)を実施し、GO 解析を行ったところ、BACH1 ノックダウンでコレステロール合成に関係する遺伝子群の発現が減少していた。最近、コレステロール生合成は鉄によって亢進することが報告されており、細胞内自由鉄の低下が関与していることが示唆された。さらに BACH1 ノックダウン時に、本来は HSC-2 に対して抗腫瘍効果を示さない濃度の FT 阻害剤である Tipifarnib を添加すると、BACH1 ノックダウン単独時よりも細胞死がさらに誘導された。BACH1 の阻害がTipifarnib の薬剤感受性を高めることを見出した。また、この Tipifarnib の薬剤感受性は、BACH1 のノックダウン後に鉄を投与した場合は消失した。 BACH1 発現抑制によりどのような細胞死誘導機序が活性化されたかは今後の検討課題である。

【結論】
本研究はBACH1 が頭頸部癌細胞 HSC-2 の細胞内自由鉄のホメオスタシス維持にとって極めて重要であること、また HSC-2 の細胞死が細胞内自由鉄量に直結することをはじめて見出し、これまで提唱されたことの無いこの自由鉄欠乏による細胞死をデフェロトーシスと名付けた。さらに、BACH1 の阻害がTipifarnib の感受性増強に寄与することを発見し、将来的に BACH1 阻害剤と Tipifarnib の併用が本剤の適応拡大に貢献できる可能性を示した。

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