リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「亜急性期脊髄損傷ラットに対するヒトMuse細胞投与による治療効果の検証」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

亜急性期脊髄損傷ラットに対するヒトMuse細胞投与による治療効果の検証

高橋 義晴 東北大学

2022.03.25

概要

脊髄損傷は、転倒や交通事故等による強い外⼒により⽣じる傷害である。症状は、四肢・体幹の運動障害、感覚障害、膀胱直腸障害を呈し、重度の後遺症となり ADL の著明な低下をきたす。本邦の調査において、平均年齢は 70 歳と⾼齢であり、⾼齢化社会において問題となる疾患の⼀つである。しかし、脊髄損傷に対する根治的治療は未だない。近年、世界的に幹細胞を中⼼とした再⽣医療の基礎研究、臨床治験が進められている。東北⼤学においては、⾻髄由来の多能性幹細胞である Multilineage-differentiating stress enduring cell (以下 Muse 細胞) による再⽣治療研究が取り組まれている。Muse 細胞は、損傷組織へ直接投与するのみでなく経静脈的に投与することによる治療効果を有する。その機序として、スフィンゴシン-1-リン酸 (S1P) -S1P 受 容体 2 システムを介して体内の損傷部位を⾃動で認識、遊⾛し、必要な細胞へ分化することで損傷組織を修復することができる。これまで脳梗塞、⼼筋梗塞、肝障害、腎障害など種々の臓器損傷に対する基礎研究結果が報告され、臨床治験も進められている。当研究室の先⾏研究において、急性期の脊髄損傷モデルラットに対するヒト Muse 細胞製品「CL2020」(株式会社⽣命科学インスティテュート、東京、⽇本)を経静脈的に移植することによる治療効果を報告した。しかし、脊髄損傷に対する幹細胞移植治療の⼀般的な⾄適時期とされる脊髄損傷亜急性期における Muse 細胞移植による治療の効果は未検証であった。したがって、本研究では、亜急性期の脊髄損傷モデルラットに対してヒト Muse 細胞製品「CL2020」を経静脈的に移植することによる、神経機能回復の効果とその機序について検証することを⽬的とした。

脊髄損傷モデルは、200 ‒ 230 g の成体 Sprague-Dawley ラットの第 9 胸椎に圧挫損傷を加えることにより脊髄損傷を作成した。脊髄損傷後 2 週⽬に Muse 細胞製品「CL2020」のうち 300,000(細胞/匹)を尾静脈より経静脈的に投与した。脊髄損傷ラットは、CL2020 群(n = 8)と対照群(n = 12)に分けた。

細胞移植の治療効果は、神経機能回復の有無を⾏動評価で、その後に神経機能回復の機序を組織学的に検討した。⾏動評価としては、ラット後肢運動機能を B.B.B(Basso, Beattie, Bresnahan)運動評価尺度を⽤いて、脊髄損傷直後から脊髄損傷後 20 週⽬まで隔週毎に⾏動評価を⾏った。20 週⽬まで⾏動評価を⾏った後、各群 n=3ずつ Diphtheria toxin を腹腔内に投与することによる機能喪失試験を追加した。Diphtheria toxin は、齧⻭類よりヒト由来細胞に感受性が⾼く、ラットに投与することによりヒト由来の Muse 細胞が機能喪失させることができる。これを⽤い、Muse 細胞移植により回復した神経機能が再増悪するか、B.B.B 運動評価尺度を評価し検討した。次に、組織学的評価を⾏った。20 週まで⾏動評価を⾏った後にラットを sacrifice し、それぞれ脊髄の軸位断の凍結切⽚を作成し、組織学的に評価した。組織学的な評価項⽬として、脊髄損傷部における空洞体積の測定、脊髄前⾓部の神経軸索数の定量的評価、脊髄損傷部及び頭尾側組織における Muse 細胞の同定と神経細胞への分化の有無について評価した。まず、Hematoxylin-Eosin 染⾊を⽤いて、脊髄損傷部での空洞体積を算出した。脊髄損傷後慢性期の組織変化として、損傷部を中⼼とした空洞形成が起きるが、両群の空洞体積を⽐較することにより Muse 細胞移植により空洞形成が抑制されるかを評価した。次に、脊髄損傷遠位部の脊髄前⾓部における 5-HT (5-Hydroxytriptamine = serotonin) fiber 陽性数を計測した。5-HT fiber の蛍光染⾊では、脊髄前⾓部を⾛⾏する下降性脊髄路の神経軸索が陽性となる。次に、脊髄損傷部に遊⾛したMuse 細胞を同定し、さらに Muse 細胞の神経細胞への分化の有無を評価した。蛍光免疫染⾊として、hMit (human Mitochondria) と核を⽰す DAPI (4',6-diamidino-2-phenylindole)、そして神経細胞を⽰す MAP2 (Microtubule Associated Protein 2)、星状膠細胞を⽰す GFAP(Glial fibrillary acidic protein、希突起膠細胞を⽰す GST p (i Glutathione S-transferase pi)の各々と三重染⾊を⾏い評価した。そして、脊髄損傷部の近位部、中⼼部、遠位部における、それぞれ三重染⾊の陽性細胞の割合を算出した。また、それぞれの細胞の脊髄組織内での分布も評価した。

⾏動評価の結果として、CL2020 群において脊髄損傷後 6 週⽬から B.B.B 運動評価尺度の有意な改善を認め、さらにその効果は 20 週⽬まで持続した。その後、Diphtheria toxin を腹腔内に投与することにより CL2020 群 において、⼀度改善を認めていた B.B.B 運動評価尺度が再増悪を呈した。⼀⽅、対照群では Diphtheria toxin を投与後も B.B.B 運動評価尺度の変化は認めなかった。組織学的評価の結果として、まず脊髄損傷部の空洞 の体積は、CL2020 投与群で対照群と⽐較して有意に⼩さかった。次に、脊髄損傷部遠位部の脊髄前⾓部にお ける 5-HT fiber 陽性数は、CL2020 群において対照群と⽐較して有意に多かった。次に、Muse 細胞の同定⽬ 的で⾏なった蛍光免疫染⾊において、脊髄損傷部辺縁の脊髄切⽚においてhMit 陽性細胞のうち、MAP2、GFAP、 GST pi にそれぞれ陽性と呈する細胞を確認した。それらの細胞の⽐率は、MAP2 陽性細胞 > GFAP 陽性細 胞 > GST pi 陽性細胞の順であった。

また、先⾏研究であるラット脊髄損傷急性期移植と⾏動評価結果を⽐較したところ、脊髄損傷後 8 週⽬までB.B.B 運動評価尺度に有意差を認めなかった。

本研究結果から、亜急性期の脊髄損傷ラットに対してヒト Muse 細胞製品「CL2020」を経静脈的に投与することにより脊髄損傷により障害された後肢運動機能が改善したと考えた。その機序を組織学的に評価した結果、Muse 細胞移植により、脊髄損傷部における空洞形成が抑制され、脊髄損傷遠位部で 5-HT fiber がより多く温存されたと考えた。これは、CL2020 の神経保護作⽤が関与した可能性を⽰唆した。それに加え経静脈的に投与した「CL2020」に含有の Muse 細胞が脊髄損傷部を認識、遊⾛し、種々の神経細胞へ分化していることを確認した。これらが脊髄損傷部において、どのように機能し、運動機能の回復に寄与したかの評価が今後必要であると考えた。また、急性期移植と亜急性期移植における神経機能回復機序の違いについても更なる検討が必要であると考えた。

本研究において、先⾏研究結果に続いて、ヒト Muse 細胞製品「CL2020」は、急性期のみならず亜急性期の脊髄損傷に対しても新規の治療法となる可能性が⽰唆された。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る