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大学・研究所にある論文を検索できる 「MRI画像を用いたradiomicsと機械学習による神経膠腫の悪性度及びIDH変異の予測」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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MRI画像を用いたradiomicsと機械学習による神経膠腫の悪性度及びIDH変異の予測

高橋, 慧 東京大学 DOI:10.15083/0002002361

2021.10.13

概要

神経膠腫(glioma)は原発性脳腫瘍の中で髄膜腫と並び最も高頻度に見られる。神経膠腫はheterogeneousな腫瘍の集合であり、組織像を横軸とし、悪性度(grade )を縦軸として分類される。悪性度が最も高い膠芽腫glioblastoma(GBM)は、新しい治療方法が次々に提案されているものの、5年生存率は未だに10%程と非常に悪い。また、分子遺伝学的には、神経膠腫においてIDH1/2変異、ATRX変異、TP53変異、染色体1p/19q共欠失などが重要な遺伝子異常として知られる。IDHI変異およびそのホモログであるIDH2変異はその中でも最も重要で最も根幹となる遺伝子異常である。IDH1変異はlower grade glioma(LrGG)の50-80%、GBMの12%に認められ、予後に強く相関している。
 神経膠腫の診断のゴールドスタンダードは病理標本によるものであるが、外科的侵襲を伴うことや、原理的に腫瘍の一部分のみの診断になることなどの問題点がある。さらには悪性度やIDH変異の有無は、手術戦略を含め治療方針を決定づけ得るので、それらを治療介入前に予測できることが望ましい。
 MRIは術前診断、治療計画、臨床管理、治療判定等に日常的に使用されている。MRIは非侵襲的であることが大きなメリットである。
 非正規分布拡散に基づいたMRI撮像方法に拡散クルトーシス画像(diffusion kurtosis imaging, DKI)がある。DKIは拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging, DTI)よりも、理論上は正確に水分子の拡散の状態を表現されているとされ、DKIのいくつかのパラメータは神経膠腫の悪性度診断に有用であるとの報告がある。
 しかし、DKIを用いた神経膠腫の悪性度診断に関する既存の研究は、画像より抽出したいくつかのパラメータについてのみ検討したものである。これは、多数の特徴量を網羅的に探索し、検討するアプローチではない。このようなアプローチ方法はradiomicsと呼ばれている。Radiomicsは医療画像を絵としてではなく、データとして扱う、新たな学術分野を指し示すと同時に、医療用画像から多量のデータを抽出、分析し何らかの予測を行うworkflowを表現する言葉である。
 我々の研究の目的は、T2b0画像(T2b0), DWI, DTI, DKIよりradiomicsのworkflowを用い抽出した多数の特徴量を対象に機械学習を行い、神経膠腫の悪性度診断及びIDH変異予測を行う診断モデルを作成することである。

方法:
 東京大学医学部附属病院にて2014年9月から2018年1月までの期間に摘出術または生検術が行われ、病理診断にて神経膠腫と診断が確定した症例のうち、MRI画像が以下の2つの条件を満たしている症例を研究対象とした。
1. 術前にT2b0, DWI, apparent diffusion coefficient (ADC, DTIから得られるパラメータの1種), fractional anisotropy (FA, 同じくDTIから得られるパラメータの1種), そして、mean kurtosis (DKIから得られるパラメータの1種。以下MKと称する。)の全てのシークエンスが撮像されている。
2. MRI Gadolinium-enhanced T1WI (GdT1)とfluid attenuated IR(FLAIR)が両方ともまたはいずれかが撮像されている。
 また、2014年9月から2017年7月までの症例を学習用のデータセットに、2017年8月から2018年1月までの症例を独立テスト用のデータセットとした。
 悪性度に関しては、機械学習に足る症例数を担保するために、grade IVのGBMとgrade IIIとgrade IIのLrGGの二群に分けて解析を行うこととした。IDH変異はすべてSanger sequenceにて決定した。
 Volume of interest(VOI)付きの画像を使用し、1種類の撮影方法あたり8+9×(10+11+13+13+5)=476種類、1症例あたり476×6=2856種類の特徴量を抽出することとした。

結果:
悪性度診断
 55例が対象となり、内訳は14症例のgrade IIの神経膠腫(びまん性星細胞腫diffuse astrocytoma 3例、乏突起膠腫oligodendroglioma 11例)、12症例のgrade IIIの神経膠腫(退形成性星細胞腫anaplastic astrocytoma 7例、退形成性乏突起膠腫anplastic oligodendroglioma 5例)、grade IVの症例が29例(全てGBM)であった。磁場強度1.5Tの条例下で27症例、磁場強度3.0T条件下で28症例が撮像されていた。1症例のみ(diffuse astrocytoma)1.5T、3.0Tの2つの条件で撮像されていた。独立テスト用のデータセットは11例であり、全て3.0Tで撮像されていた。
 最も精度の高い悪性度診断の機械学習モデルは、k_ROIGSumAverage, k_LLLLGRE, k_HHLZSN, k_LHLStrength, d_LHLEntropy, d_LLLGCorrelationの6つの特徴量を使いSVM(kernel is rbf, c is 1.0)を使用した場合で、独立テスト用データセットに対する予測率は0.91(10/11)、AUCは0.93±0.03であった。
IDH変異予測
 磁場強度1.5Tの条件下で26例、3.0Tの条件下で24例の計50例が対象となった。1症例のみ(grade II diffuse astrocytoma、悪性度診断と同様の症例)1.5T、3.0Tの2つの条件で撮像されていた。内訳はIDH野生型が25例(anaplastic astrocytoma 2例、glioblastomas 23例)、IDH1変異型が25例(diffuse astrocytoma 3例、anaplastic astrocytoma 4例、oligodendroglioma 10例、anaplastic oligodendroglioma 4例、glioblastoma 4 例)であった。IDH変異は全てIDH1変異(R132H)であり、IDH2変異は認めなかった。悪性度診断と同様に独立テスト用のデータセットの11例は全て3.0Tで撮像されていた。
 最も精度の高いIDH変異予測モデルはk_LHLStrength, b2_LLLGVariance, b2_HLLGCorrelation, b2_LLLLRHGEの4つの特徴量を使用し、SVM(kernelはsigmoid, cは500, gammaは0.0001)を用いた場合で、独立テスト用データセットに対する予測精度は0.82(9/11)であり、AUCは0.92±0.03であった。

考察:
 本研究では、MRI画像から抽出した特徴量のみを用いて高精度に、神経膠腫の悪性度診断及びIDH変異予測を行う機械学習モデルを作成した。特に有用な特徴量は悪性度診断ではADCとMKから、IDH変異予測ではb2000DWIとMKからそれぞれ抽出された。
 Radiomicsとは、放射線画像を画像ではなくデータとして扱う新しい学術分野である。画像データから多数の特徴量を抽出し解析することで、臨床的、病理的な事象を予測する。特に画像データを入力として、遺伝子異常を予測する場合はradiogenomicsと呼ばれる。本研究は、T2b0, DTI及びDKIの多種類のMRIシークエンスを用いて神経膠腫の悪性度診断及びIDH変異予測の機械学習モデルを作成し、その有用性を比較検討した、渉猟し得る限り初めての研究である。
 高b値DWIは水分子のslow componentsの描出により優れている可能性が示唆されており、高b値DWIがIDH変異予測に有用であると期待されている。
 本研究においても、高b値DWIから抽出された特徴量はIDH変異予測に有用である可能性が示された。
 ADCは拡散の大きさを、FAは拡散の異方性をそれぞれ表していると考えられている。ADCは細胞密度を反映しておりADCは神経膠腫の悪性度診断に有用であると言われている。HanらとKangらは高いb値のDWIより算出されたADCがgradingに有用であることを示したが、これは我々の結果と矛盾しない。
 MKは水分子の拡散がどの程度制限されているかを画像化したものになる。理論的には、DKIはDTIよりも生体内での水分子の挙動をより正確に反映する。DKI、特にMKが神経膠腫の悪性度診断に有用であることは既にいくつもの研究で示唆され、メタ解析によっても示されている。本研究でもMKより抽出された特徴量が悪性度診断を行う機械学習モデルを作成する際に重要な役割を果たしている。IDH変異予測については、BisdasらがIDH変異の予測にDKIが有用である可能性を示したが、IDH変異の有無は主に免疫染色によって決定され、独立した試験データセットによる検証は行われていない。我々は、サンガー法によりIDH変異の有無を決定したデータセットから、MKより抽出された特徴量であるk_LHLstrengthがIDH変異予測モデルの精度向上に寄与していることを見出し、さらに独立した試験データセットを用いて示した。
 特徴量はsemanticとagnosticなものに大別される。Sematicな特徴量とは位置や、形状、大きさ等、一見して人間に認知可能な特徴量である。一方、agnosticな特徴量は画像に解析処理を加えたものになり、画像を眺めるだけで特徴量の違いを認知することは難しい。Agnosticな特徴量はさらに一次および二次以上に分けられる。一次のagnosticな特徴量は、個々のボクセルの値の分布に対しヒストグラム解析を行うことで得られる。一方、二次以上agnosticな特徴量の抽出方法で、よく用いられるものの一つにテクスチャ解析がある。本研究において、悪性度診断及びIDH変異予測に特に有用である可能性が示された特徴量は、一次のagnositcな特徴量であるd_LHLEntropyを除いて、全て二次以上のagnosticな特徴量であった。
 本研究にはいくつかの課題が存在するものの、DWI, DTI, DKIのradiomics解析と機械学習モデルの作成が神経膠腫の悪性度診断とIDH変異予測に有用である可能性が示された。

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