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大学・研究所にある論文を検索できる 「イネ根圏での窒素固定細菌の細菌間相互作用に応じた機能動態の再現とその応用」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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イネ根圏での窒素固定細菌の細菌間相互作用に応じた機能動態の再現とその応用

吉留, 大輔 東京大学 DOI:10.15083/0002006879

2023.03.24

概要





















吉留

大輔

現代農業は化学窒素肥料の大量消費に立脚しており、極めて高い生産性を達
成している。ところが、このことは化石燃料の大量消費や水圏の汚染などをもた
らし、農業由来の環境負荷の増大が問題となってきた。この解決策として期待さ
れてきたのが、窒素固定細菌を生物窒素肥料として活用することである。しかし、
土壌細菌叢における窒素固定細菌の能力を正確に把握することは現在でも困難
であり、生物窒素肥料の開発は未だ発展途上にあると言える。本論文では、イネ
根圏に棲息する単性窒素固定細菌である Klebsiella oxytoca と Azospirillum
lipoferum を題材に、イネ根圏細菌叢との相互作用を試験管培養によって解析す
ることで、両細菌が稲作における生物窒素肥料として効果を発揮する機序を明
らかにしたものである。本論文は、序論と総合討論を含む 6 章で構成されてい
る。
研究の背景および目的を述べた第 1 章に続き、第 2 章ではイネ根圏細菌叢を
試験管内に再現する培養系の構築について述べている。構築されたロックファ
イバーブロック導入試験管ケモスタット培養系で形成される細菌叢は、ロック
ファイバーブロックへの高い定着状態、イネ根圏の pH である pH 6.5 の状態、
高い窒素固定活性という点でイネ根圏細菌叢を良く再現している。さらに、この
ケモスタット培養系が、バッチ培養系や Fed-バッチ培養系と比較して、稲作に
おける追肥時期の根圏環境をより忠実に再現しているとの考察も行っている。
これらより、構築された培養系は、イネ根圏における窒素固定活性の動態を探る
強力なツールであると評価できる。
第 3 章では、上記培養系で形成した根圏細菌叢に K. oxytoca NG13 と A.
lipoferum FS を接種した際の窒素固定活性の動態解析について述べている。細
菌叢の菌体量の約 1/100 量の NG13 株と FS 株を接種することで、接種後 14 日
間にわたって細菌叢のみの窒素固定活性より 3 割程度高い窒素固定活性が発揮
されることを明らかにしている。さらに、PCR 解析により、上記培養系で形成
される根圏細菌叢に Azospirillum 属細菌は存在するものの Klebsiella 属細菌は
存在しないこと、NG13 株と FS 株の接種により Azospirillum 属細菌の存在量

は 30 倍程度となり Klebsiella 属細菌の存在量もそれと同程度となることも明
らかにしている。これらの結果は、稲作の追肥時期に両株を接種することで生物
窒素肥料としての効果を発揮させうる基盤を示したものとして評価できる。
第 4 章では、NG13 株と FS 株が窒素固定を行う際の生理機能の解析結果をも
とに両株共存時に起こる相互作用に関して述べている。窒素制限状態において、
両株とも糖と有機酸の両方を資化して増殖するものの、窒素固定活性を発揮す
るのは NG13 株では糖を資化する時、FS 株では有機酸を資化する時であること
を明らかにしている。さらに、NG13 株は糖を資化して酢酸を生成すること、な
らびに FS 株は酢酸を資化して窒素固定活性を発揮することも明らかにしてい
る。これらの解析結果を踏まえて、両株を試験管ケモスタット培養系で共培養し
た際の窒素固定活性と酢酸存在量の動態を解析した結果から、共培養によりも
たらされる相加的以上の高い窒素固定活性は、FS 株が NG13 株の生産する酢酸
を資化することで実現されていると考察している。さらに、試験管ケモスタット
培養系で形成したイネ根圏細菌叢においても酢酸が生産されることを明らかに
し、酢酸が根圏細菌叢の高い窒素固定活性の発揮に関与していると推定してい
る。窒素固定細菌の酢酸の利用は新しい知見であり、生物窒素肥料の実現を今後
目指していくうえでの重要な成果である。
第 5 章では、広範な窒素固定細菌における酢酸を介した細菌間相互作用を解
析した結果について述べている。まず、試験管ケモスタット培養系で形成した根
圏細菌叢から 15 属 25 種類の窒素固定細菌を単離して、これらの生理機能をバッ
チ培養時の培養液 pH の変化に基づいて推定し、NG13 株に類似する(タイプ
N)7 種と FS 株に類似する(タイプ F)18 種に分類している。そして、タイプ
N 細菌は、イネ分泌炭素源を資化して酢酸を生成すること、タイプ F 細菌のほ
とんどが酢酸を資化して窒素固定を行うことを明らかにしている。さらに、タイ
プ N 細菌とタイプ F 細菌を様々に組合せて共培養すると、相加的以上の高い窒
素固定活性を発揮する組み合わせがあり、それには酢酸が関与することを明ら
かにしている。
第 6 章では、総合討論として、酢酸を介した相互作用を多様な窒素固定細菌
に適用して生物窒素肥料を実現することへの展望、試験管ケモスタット培養系
を応用微生物学的に利用することへの展望を述べている。
以上の研究成果は、学術上応用上寄与するところが少なくない。よって、審査
委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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