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大学・研究所にある論文を検索できる 「植物根に棲息するBradyrhizobium属細菌の生態に関する研究-窒素循環機能と環境中の動態-」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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植物根に棲息するBradyrhizobium属細菌の生態に関する研究-窒素循環機能と環境中の動態-

原 沙和 東北大学

2021.03.25

概要

序章
Bradyrhizobium 属細菌は、ダイズをはじめとするマメ科植物の根から単離されたものが多く、永らく根粒菌として認識されてきた分類群であった。しかし、近年の Bradyrhizobium 属細菌のゲノム解析などにより、 これまで考えられていたより多様な機能を持ち、様々な環境に適応していると考えられる。例えば、北アメ リカの森林土壌では 20~30%もの高い優占度を示し、その分離株は根粒形成能を欠き、芳香属化合物分解能を 持つことが報告された。また、光合成遺伝子、水素酸化能を有する株も報告されていることに加え、硝酸を 窒素に還元する脱窒能を有する株も多く、陸域生態系における窒素循環に寄与していると考えられる。さらに、Bradyrhizobium 属細菌は非マメ科植物の根内・根圏で土壌に比べて高い優占度を示すことが近年報告さ れている。非マメ科植物に生息する Bradyrhizonium 属細菌は、根粒菌と異なる生活様式を持っている可能性 があるが、系統的多様性や機能といった生態に関する知見は乏しい。そこで本研究は、非マメ科植物ソルガ ムに棲息するBradyrhizobium 属細菌の窒素循環機能と土壌-植物系での動態を明らかにすることを目的とした。

第一章 ソルガム根における Bradyrhizobium 属細菌の分離と窒素固定
福島県二本松市圃場で栽培したソルガム根から、低栄養選択培地を用いた直接分離法とダイズトラップ法で Bradyrhizobium 属細菌を分離した。ダイズトラップ法は根粒形成能を利用した方法で、ソルガム根から回収した細菌画分をダイズ種子に接種し、根粒から細菌を分離した。ソルガム根からダイズトラップ法で 38 株、直接分離法で 7 株の菌株を得た。分離株の 16S-23S rRNA 間ITS 領域配列による系統解析から、根粒菌(B. jaoponicum, B. diazoefficiens)と土壌低栄養光合成細菌 (B. oligotrophicum S58 等)に加えて、日本で分離例のない B. ottawaense に近縁な株が見出された。

分離株は、根粒形成能および自由生活条件における窒素固定活性より「根粒菌型」、「自由生活窒素固定型」、「非窒素固定型」の3タイプに分けられた。したがって圃場で栽培された単一系統のソルガム根には様々な窒素固定様式をもつ Bradyrhizobium 属細菌が同時に棲息することが示された。さらにB. ottawaense分離株には根粒菌型と非窒素固定型が共存しており、これらの性質の違いを生み出すゲノム類似性や構造の違いに興味が持たれた。

第二章 ソルガム根由来 Bradyrhizobium 属細菌のゲノム解析
第一章で分離した Bradyrhizobium 属細菌 16 株のゲノムを決定し、機能遺伝子保存性の比較を行った。その結果、脱窒過程とVI 型タンパク質分泌系の遺伝子群の有無または構成の多様性が見出された。脱窒は(NO3-→NO2-→NO→N2O→N2)の 4 段階で硝酸を窒素まで還元する嫌気呼吸反応である。B. japonicum はN2Oまでのみ還元する一方、B. diazoefficiens はそれに加えてN2O をN2 に還元するN2O 還元酵素(nosZ)を保有していることが報告されていた。ソルガム根由来の分離株 B. ottawaense は、B. diazoefficiens と同様にN2O をN2に還元する nos 遺伝子群を保有することが明らかになった。

B. ottawaense 系統群における「根粒菌型」と「非窒素固定型」株の完全長ゲノムを決定し、比較した。「根粒菌型」株は共生アイランド(共生窒素固定に必須なゲノム領域)を保有していたが、「非窒素固定型」株はこの領域を欠失していた。したがって「根粒菌型」と「非窒素固定型」の性質の違いは共生アイランドの有無に起因することが明らかになった。さらに「非窒素固定型」株にはtRNA とそれに隣接した部分反復配列が観察されたため、一度転移した共生アイランドが欠失した可能性が考えられた。

第三章 B. ottawaense の土壌-植物系における動態
B. ottawaense はカナダで分離された根粒菌であり、ソルガム根由来の B. ottawaense SG09 も根粒形成遺伝子群を持つ。しかし、日本の土壌から B. ottawaense 根粒菌が分離された報告はなかった。そこで、なぜソルガム根から B. ottawaense が分離されたのか興味が持たれた。第三章では B. ottawaense のダイズ根粒形成能およびソルガム根での優占度を含め、土壌-植物系における動態を解析した。

福島県二本松市圃場および宮城県大崎市圃場(東北大鹿島台圃場)の土壌でダイズおよびソルガムを栽培し、ダイズ根粒、ソルガム根および供試土壌から抽出した DNA を用いて、Bradyrhizobium 属細菌の種組成を非培養法で調査した。その結果、B. ottawaense は両土壌で 3.7〜6.8%相対存在比を示すが、ダイズ根粒からはほとんど検出されなかった(Bradyrhizobium 属内の相対存在比 0.03%〜1.1%)。 一方、B. diazoefficiens は根粒で 57〜74%の高い相対存在比を示した。したがって、土壌に棲息する B. ottawaense のダイズへの根粒形成効率が低いことが示唆された。そこで競合的条件における B. ottawaense の根粒形成能を確認する目的で、ソルガム由来の B. ottawaense SG09 株と B. diazoefficiens USDA110 株の混合菌体をダイズに接種したところ、 SG09 株はUSDA110 株と同等の根粒形成能を示した。これは耕地土壌の非培養法解析の結果と矛盾しており、B. ottawaense が自然環境でダイズに根粒を形成しない原因の解明が課題となった。

第四章 ソルガムに内生する B. ottawaense の分離とゲノム解析
自然界に棲息する B. ottawaense の根粒形成能を明らかにする目的で、ソルガム根から直接分離法で新たに Bradyrhizobium 属細菌を多数分離し、その中から B. ottawaense を選択して共生アイランドの有無を調査した。その結果、分離した 8 株全てが共生アイランドを欠損していた。この結果とこれまで日本のダイズ根粒から B. ottawaense が分離されていないことを考慮すると、供試土壌に棲息する当該細菌のほとんどが共生アイランドを持たず、ダイズへの根粒共生を行っていない可能性が示唆された。

第五章 B. ottawaense のN2O 還元活性とその制御機構
N2O は地球温暖化効果ガスであり、CO2 の約 300 倍の温暖化係数をもつ。人為的な排出源は主に農業であることから、地球温暖化を防止するためには農地からのN2O 削減が重要である。一方、N2O は土壌中の硝化と脱窒反応の中間産物として発生し、一部の細菌はN2O をN2 に還元する機能をもつ。B. diazoefficiens USDA110 株もN2O 還元能を示し、USDA110 株 nasS 変異株では nos オペロンの転写が促進され、nasS 変異株をダイズに接種すると根圏のN2O 発生が抑えらる。本研究では B. ottawaense SG09 においてもN2O 還元遺伝子が発見されたため、活性の強度を測定した。

N2O を唯一の電子受容体とする嫌気培養条件においてSG09 株はUSDA110 株に比べて約 5 倍高いN2O還元活性を示した。SG09 株の nos オペロン上流を解析すると、USDA110 株に存在し NasST 制御系が認識すターミネーター構造が保存されていなかった。加えて、SG09 株の nasS 欠損変異体は、野生株に比べてN2O還元活性に有意な差は認めらなかった。したがって、B. ottawaense においてターミネーター構造が維持されないことによりNasST を介した nos オペロンの発現制御が機能せず、野生株で常に nos オペロンが高発現していることが示唆された。以上から、B. ottawaense SG09 株は地球温暖化効果ガスN2O の削減という目標に向けての応用効果が期待される菌株であると考えられる。

第六章 Bradyrhizobium 属細菌の機能遺伝子の多様化 -B. cosmicum およびその近縁株のゲノム比較による可動性ゲノム領域の探索-
Bradyrhizobium 属細菌は共生窒素固定以外にも脱窒遺伝子、光合成遺伝子など多様な機能遺伝子を持ち、その柔軟な代謝様式から陸域環境に広く適応している。光合成遺伝子は当属内にモザイク状に分布しており、水平伝播などが起きている可能性が議論されている。さらに 4 段階の脱窒過程の遺伝子(nap, nir, nor, nos)の うち、最終反応を触媒するN2O 還元遺伝子(nos)は B. japonicum で欠き B. diazoefficiens で保有することから両 者のゲノム比較が行われ、水平伝播の可能性が議論されてきた。本章では B. cosmicum における光合成遺伝子 群と nos 遺伝子群のゲノム比較を行った。

S23321、58S1 両株に共通に存在する光合成遺伝子群の両端には tRNA とその直列部分反復配列が存在しており、光合成遺伝子群はゲノミックアイランドとして水平伝播している可能性が示唆された。一方、nosクラスターについては、nos を持たないS23321 株では、58S1 株の nos クラスターを含む 79 kb のゲノム領域が欠損していた。このゲノム領域にはN2O 還元酵素 nosZ への電子供与体であるシトクロームC が含まれており、nos クラスターと同時に伝播している可能性が考えられた。しかし tRNA などの典型的な転移構造は観察されなかったことから、未知の転移機構により水平伝播している可能性が考えられた。今後、他の Bradyrhizobium 属菌株の比較解析を行うことにより、新たな転移機構の解明につながることが期待される。

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