リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「乳酸菌による糖・脂質代謝異常の改善に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

乳酸菌による糖・脂質代謝異常の改善に関する研究

内藤, 栄一郎 筑波大学

2022.11.28

概要

肥満人口の爆発的増加により、糖尿病罹患者の増加が続いている。この背景には、肥満に起因した慢性炎症とインスリン抵抗性が存在する。インスリン抵抗性は、食後やグルコース負荷後の高血糖を主徴とする耐糖能異常、および 2 型糖尿病の発症基盤となる。また脂質代謝や血圧調節にも異常をもたらす。これら代謝異常の集積は動脈硬化の発症リスクを相加的に高めることから、肥満者の代謝異常を包括的に改善することの意義は大きい。

近年、肥満や 2 型糖尿病において腸内フローラの構成が大きく変化するとの知見が蓄積されている。この変化は腸管透過性を亢進させて腸内細菌由来のリポ多糖 (LPS) の流入を促進し、慢性炎症とインスリン抵抗性を誘導すると考えられている。また、腸内フローラの改変が病態を修飾することも明らかにされている。これらのことから、腸内フローラや腸内環境に対して有益な作用をもたらす微生物、「プロバイオティクス」は、代謝異常の改善に有益なツールとなり得ると期待される。本研究では、プロバイオティクスの一種である乳酸菌 Lacticaseibacillus paracasei strain Shirota (LcS) [旧名称:Lactobacillus casei strain Shirota]による代謝異常の予防や改善の可能性について検討した。

まず、高脂肪食により肥満を誘導した食餌性肥満 (DIO) マウスを用いた検討を行った。このマウスに LcS を投与し、インスリン負荷試験とグルコース負荷試験 (OGTT) を実施した結果、本菌がインスリン抵抗性と耐糖能を改善することを明らかにした。また、本菌が脂質代謝を改善することも判明した。さらに本研究では、腸管透過性のマーカーである LPS 結合タンパク質 (LBP) の血中濃度が種々の肥満マウスで増加していること、LcS を投与したDIO マウスではこの増加が抑制されることを明らかにした。この結果は、LcS が腸管透過性の亢進とLPS の体内への流入を抑制した可能性を支持する。

次に、グルコース負荷後の高血糖を有する糖尿病予備群の肥満者を対象に、本菌の有効性を検証した。その結果、血糖値には群間で差はなかったが、血糖コントロールの指標の一つであるグリコアルブミン (GA) に関しては、プラセボ群と比較して LcS 群で改善が みられた。また、LcS 群においてのみ、OGTT1 時間後の血糖値、GA、および HbA1c が飲用前に比べて低下した。さらに、総コレステロール、LDL コレステロールおよび non-HDLコレステロール (non-HDL-C) も改善あるいは改善傾向にあった。以上の結果は、LcS がヒトにおいても有益な作用を及ぼし得ることを示している。一方で、本試験で観察された有効性は穏やかなものであったことから、本試験の被験者は、LcS の有効性が顕著に発揮される被験者と、さほど効果の発揮されない被験者が混在していた可能性が推測された。

そこで、本試験のデータをもとに、LcS の有効性が顕在化する集団の特定を試みた。被験者を種々の指標に基づいて層別し、各層ごとに LcS 群とプラセボ群の糖・脂質パラメーターおよび血圧の変化量を比較した。その結果、non-HDL-C や血圧の異常をもつ被験者層では、LcS 群で糖代謝、コレステロール代謝および血圧に改善がみられたのに対し、両者が正常範囲の被験者ではいずれも改善しなかった。また、両被験者層の背景因子を比較し、脂質や血圧以外にもいくつかの差異を見出した。以上の結果から、LcS の有効性は non-HDL-C や血圧の異常を併せもつ肥満・糖尿病予備群において顕在化し、糖・脂質代謝および血圧を改善すると考えられた。また、LcS の多面的な代謝改善作用には共通のメカニズムが存在すると推測された。

肥満に付随した代謝異常の集積はメタボリックシンドロームとして良く知られた病態であり、LcS の有効性が顕在化した被験者集団の特徴は DIO マウスの表現型とも良く一致する。DIO マウスを用いた検討では、本菌の有効性が腸管透過性の改善に起因したものである可能性を提示した。腸管透過性の亢進には腸管免疫系の異常が関与すること、LcSの菌体成分は腸管免疫系を修飾することが既に報告されている。これらを総合すると、 LcS のヒトにおける有効性の少なくとも一部は、腸管透過性の改善を介した作用と推測される。今後、詳細な作用メカニズム解析、および活性成分の特定を行うことにより、より有効性の高いプロバイオティクスの取得につながり得ると考えられた。

以上、本研究により、LcS が肥満に起因する種々の代謝異常に対して有益な作用をもたらす可能性が示された。本研究で得られた知見は肥満者の疾病予防の観点からも意義深いと考えられる。また、乳酸菌やプロバイオティクスの機能性研究への貢献、ならびに新たな可能性の提示につながるものと期待される。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る