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大学・研究所にある論文を検索できる 「脳腫瘍のQOL 評価における簡便な代替指標の導入可能性に関する検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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脳腫瘍のQOL 評価における簡便な代替指標の導入可能性に関する検討

里見(津下), 奈都子 東京大学 DOI:10.15083/0002005061

2022.06.22

概要

【背景および目的】
脳腫瘍においては近年の治療技術の進歩に伴い、患者のQualityofLife(QOL)を考慮した治療開発が求められるようになっているが、日本においては脳腫瘍におけるQOLに関する研究は遅れている。また、脳腫瘍におけるQOL評価では巣症状のために評価自体が困難となったり、巣症状のQOL評価結果に与える影響の大きさから治療に伴う変化を検出しにくいといった限界がある。そのため、脳腫瘍患者のQOLを、より簡便で正確に評価できるようなQOL評価指標の導入が必要となっている。本論文においては、脳腫瘍におけるQOLを「身体的、社会的、精神的な問題の具体的な側面ではなく、それらが影響を与える全般的な主観的健康感」と定義した。脳腫瘍患者のQOLを簡便かつ適切に評価できるQOL評価尺度を検証し、今後の臨床研究や実臨床への応用に資することを目的に、EORTCQLQC30/BN20(C30/BN20)、EQ-5D-5L、つらさと支障の寒暖計(DIT)のコンプライアンス、併存的妥当性および反応性を評価した。

【方法】
2015年から2018年に国立がん研究センター中央病院の脳脊髄腫瘍科を受診した脳腫瘍患者にC30/BN20、EQ-5D-5L、DITを約6ヶ月毎に評価した。

コンプライアンスは期間内の初診患者で各質問紙を配布した人数のうち、各評価スケールの全設問に回答した人数の比率として算出した。

併存的妥当性は、C30/BN20を標準的スケールとして扱い、EQ-5D-5Lより算出されるQOL値、DITの各スコアとC30/BN20の各項目のスコアとの間のSpearmanの順位相関係数(以下、相関係数)を算出し、C30の6つの機能スケールとの間に十分に強い相関を認める場合に併存的妥当性があると判断した。さらに、臨床的にKPS60以下相当の患者のみを抽出して同様の解析を行うことによって、低KPS患者におけるQOL評価指標の適用における問題点を検討した。

反応性の検討においては、グレード3または4の神経膠腫の患者のうち、初回手術前のQOL評価がなされている患者を対象とし、1.初回手術前(preOP)を基準とし、2.初回手術後(postOP)/術後テモゾロミド併用放射線療法中(CRT)、3.術後テモゾロミド併用放射線療法終了後(postCRT)、4.維持化学療法中(maintenance)、5.第1寛解期(完全奏効または部分奏効を含む)(CR1/PR1)、6.第1再発期または初回増大(1strecurrence)、7.第2再発期または2回目の増大(2ndrecurrence)の時期におけるそれぞれの評価スケールのスコアとの差を算出してスコア変化という変数を作成し、上記2から7の6時点でのスコア変化の平均を算出し、一般化線形混合モデルを用いて反復測定の分散分析を行った。全てのP値は両側検定でありP

【結果】
コンプライアンスの解析においては、C30/BN20とEQ-5D-5Lでは290例、DITでは365例の症例が解析対象となった。C30/BN20とEQ-5D-5Lの解析対象の患者背景は年齢中央値62歳(20-89歳)、65歳以上が129例(44.5%)、KPSの中央値は90(30-100)であり、KPS60以下の症例が39例(13.4%)、70以下の症例が77例(26.6%)であった。神経膠腫が112例(38.6%)を占め、悪性脳腫瘍が205例(70.7%)であった。DITの解析対象においては年齢中央値60歳(20-89歳)、65歳以上が147例(40.3%)、KPSの中央値は90(30-100)であり、KPS60以下の症例が42例(11.5%)、70以下の症例が90例(24.7%)であった。神経膠腫が151例(41.4%)を占め、悪性腫瘍が263例(72.1%)であった。C30/BN20、EQ-5D-5L、DITのコンプライアンスはそれぞれ81.4%(95%CI76.4-85.7%)、86.9%(95%CI82.5-90.6%)、88.5%(95%CI84.8-91.6%)であり、C30/BN20と比較してDITにおいては有意にコンプライアンスが高かった(P=0.011)。65歳以上の高齢者、KPS70以下の患者においてはいずれのQOL評価指標においてもコンプライアンスが有意に低下していたが、65歳以上の患者とKPS70以下の患者のいずれの群においてもDITのコンプライアンスが最も高く、C30/BN20のコンプライアンスが最も低く、この両者の間には統計学的な有意差を認めた(それぞれP=0.041,0.047)。

併存的妥当性の検討は699例2120調査に対して実施された。1症例あたりの調査回数の平均は3.0回/人であった。年齢中央値は58歳(20-97歳)で、65歳以上が270例(38.6%)であった。KPSの中央値は90(40-100)、KPS60以下の症例が53例(7.6%)、70以下の症例が138例(19.7%)であった。神経膠腫が314例(44.9%)を占め、悪性脳腫瘍が469例(67.1%)であった。EQ-5D-5Lを用いて算出したQOL値とC30の健康度(QL)との間の相関係数は0.632(P<0.001)であり、QOL値とC30の6つの機能スケールとの間の相関係数はいずれも0.5以上であったため、併存的妥当性があると判断された。DITにおいては、つらさの寒暖計(DT)とQLとの間の相関係数は-0.674(P<0.001)、支障の寒暖計(IT)とQLとの間の相関係数は-0.623(P<0.001)であり、DT、ITとC30の6つの機能スケールとの間の相関係数の絶対値はいずれも0.5以上であったため、併存的妥当性があると判断された。

しかしながら、臨床的にKPS60以下相当の症例において、QOL値とC30のQLとの間の相関係数は0.381(P<0.001)と弱い相関にとどまった。その他の機能スケールについても、運動機能(PF)、趣味や仕事などの遂行(RF)とは相関係数0.5以上とやや強い相関を示すのに対し、学習・記憶(CF)との相関係数の絶対値が0.3未満と弱い相関にとどまった。それに対し、DTとC30のQLとの間の相関係数は-0.665(P<0.001)、ITとQLとの間の相関係数は-0.620(P<0.001)とやや強い有意な相関を示した一方で、C30の運動機能(PF)、趣味や仕事などの遂行(RF)、学習・記憶(CF)との相関はQOL値よりも弱かった。

最後に、反応性の検討結果について記載する。反応性の検討は24例を対象に行われた。年齢中央値は66.5歳(20-80歳)であり、男性が75.0%を占めた。疾患別では膠芽腫が14例(58.3%)であった。術前評価時のKPS中央値は90(60-100)であり、85以上の症例が13例(54.1%)であった。C30QLにおいては上記6つのいずれの時点でも統計学的に有意なスコア変化を認めなかった。それに対し、QOL値においては初期治療中から維持療法中にはQOL値はほぼ維持され、第1寛解期と初回再発、第2再発時には統計学的に有意なスコア低下を認め、反応性があることが確認された。DTのスコアは初期治療中にはほぼ維持され、維持療法中には-1.55(P=0.004)と有意に改善しており、こちらも反応性があることが確認された。

【考察および結論】
脳腫瘍患者において、これまで標準的なQOL評価指標として使用されてきたC30/BN20はコンプライアンスが低く、特に高齢者やKPS不良の患者においては評価そのものが困難であること、経時的に評価した場合に患者の状態の変化に伴う反応性が不良であることといった問題点があることが明らかとなった。過去の脳腫瘍の臨床試験でQOLを評価項目としたものの多くでQOLの改善または悪化を示せていないが、この評価指標そのものに問題がある可能性が示唆された。それに対して、EQ-5D-5LおよびDITは良好なコンプライアンスと反応性を示し、C30/BN20との間の併存的妥当性も担保されたQOL評価指標であることが示され、C30/BN20に代わる簡便なQOL評価指標として臨床研究および実臨床に導入可能である可能性が示された。しかしながら、EQ-5D-5LやDITは各症状に対する評価の網羅性という点についてはC30/BN20に劣る点、KPSの低い患者では評価できる側面が限定される点などの課題も見出された。今後はこれらの指標を用いて臨床研究および実臨床の領域で脳腫瘍患者のQOL評価を積極的に行い、脳腫瘍患者のQOLの問題点の抽出とその改善のための努力をしていくことが重要である。

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