Development of a Non-Invasive Urine Volume Sensor by Electrical Impedance Measurement
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名
野寄
修平
本論文は、尿失禁の症状を有する高齢者に対して、連続的な膀胱内の尿量推定に基づく個
別的な排尿ケアを提供するため、非侵襲・無拘束で尿量推定が可能なウエアラブル尿量セン
サの開発を目指すものである。まず、少電極電気インピーダンス計測による尿量推定の可能
性を検討するため有限要素シミュレーションを行い、システムに求められる仕様を決定し
た。続いて、小型電気インピーダンス計測システムの開発、若年健常人での計測を実施し、
以下の結果を得ている。
1.
8 電極電気インピーダンス計測が正確に尿量を推定できるかどうかを検討するために、
ヒト下腹部、膀胱を模したモデルを用いた有限要素シミュレーションを実施した。その
結果、8 電極電気インピーダンス計測で、線形回帰モデルを用いて尿量推定、膀胱の状
態推定(充満/非充満)が可能であることを示した。また、その推定誤差は既存の電気
インピーダンス計測システムで用いられる 16、32 電極による計測と同等であった。
2.
電気インピーダンス計測システムに求められる仕様を検討するために、シミュレーシ
ョンの条件を、インピーダンス計測のノイズレベル、尿の電気伝導度について変化させ
て推定誤差を評価した。その結果、既存のインピーダンス計測用アナログフロントエン
ドではノイズが大きすぎるためにノイズの低減が必要であることが示された。また、尿
の電気伝導度が一定でない場合には、ノイズレベルが低くても推定誤差が大きく、尿の
電気伝道度を加味した推定モデルが必要であることが示唆された。
3.
ヒトにおける 8 電極インピーダンス計測による尿量推定が可能であるか検討するため、
新規に開発した小型電気インピーダンス計測システムを用いて若年健常人を対象に排
尿前後のインピーダンス計測、尿量推定を行った。その結果、画像再構成を介さずとも、
インピーダンス測定値の線形回帰のみで尿量が正確に推定できることが示された。
4.
若年健常人での計測、尿量推定において、インピーダンス測定値に加え、尿が貯留して
いない状態での下腹部全体のインピーダンス、体重、Body mass index を変数として推
定モデルに組み込むことで、モデルの当てはまりが改善し、尿量推定誤差が小さくなっ
た。個人差を調整する因子としてこれらの変数による調整を行う必要性が示唆された。
5.
若年健常人での計測、尿量推定において、尿の電気伝導度を変数として使用したモデル
では、モデルの当てはまりが改善し、推定誤差も小さくなった。これは先行研究、有限
要素シミュレーションの結果を支持するものであるが、その改善の度合いは小さく、尿
の電気伝導度の尿量推定への影響は、ヒトでは無視できる程度のものである可能性が
示唆された。
以上、本論文は有限要素法によるシミュレーション、新規に開発した小型電気インピーダ
ンス計測システムを用いた若年健常人での計測により、8 電極電気インピーダンス計測によ
る正確な膀胱内尿量推定が可能であることを示した。これまでの研究では、尿量推定には 16
または 32 個と多数の電極が用いられていたが、ヒトにおいて、電極が少なくても正確に尿
量を推定できることを示した本論文は、尿量推定システムの小型化、ウエアラブルデバイス
の開発を加速し、将来的に高齢者の排尿ケアの質向上に重要な貢献をなすと考えられる。
よって本論文は博士( 保健学 )の学位請求論文として合格と認められる。