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大学・研究所にある論文を検索できる 「機械学習を利用したサイバーナイフ動体追尾照射の追尾誤差予測システムの開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

機械学習を利用したサイバーナイフ動体追尾照射の追尾誤差予測システムの開発

大川, 浩平 筑波大学

2022.11.22

概要

⽬的
 サイバーナイフは⼩型の直線加速器をロボットアームに搭載した放射線治療装置であり,その特徴を活かして,呼吸性移動を伴う標的に対しては動体追尾照射を⾏う.動体追尾照射の照射位置精度は患者呼吸に依存するため,患者個々に追尾誤差を評価し,その誤差は治療計画時にマージンとして設定する必要がある.追尾誤差の評価法は幾つか報告があるが,これらの⽅法は煩雑で時間がかかる事が問題であった.そこで,追尾誤差評価をより簡単に短時間で評価するために,機械学習に着⽬した.本研究の⽬的は機械学習を利⽤したサイバーナイフの動体追尾照射における追尾誤差評価システムを開発する事である.

⽅法
 機械学習アルゴリズムはサポートベクター回帰(Support Vector Regression; SVR)を使⽤した.SVRは不感帯(ε)を設定し,その外側にある説明変数と⽬的変数の関係を⽰したインスタンスとの距離(ξ)を最適化することでモデルを構築する.つまり,モデルの形状は不感帯の外側にあるインスタンスのみに影響を受けるため,SVRはデータセットが限られた場合でも汎化能⼒の⾼いアルゴリズムとして知られている.本研究に⽤いたデータセットの数は200に満たないため,SVRは最適なアルゴリズムである.
 学習モデル構築のためのデータセットは横浜サイバーナイフセンターにおいて動体追尾照射による放射線治療を⾏うにあたって追尾誤差の評価が⾏われた169の呼吸波形データから得た.説明変数は呼吸振幅の標準偏差,頭尾⽅向,前後⽅向それぞれの標的の平均速度,標的と体表の位相差の4項⽬とし,⽬的変数は追尾誤差とした.
 SVRにはモデル構築にあたって重要なパラメータとしてε,C,γがある.εは不感帯の幅を決めるパラメータであり,Cはξを最適化するための罰則パラメータである.さらに,γはカーネルに関する係数である.カーネルの種類に関しては放射基底関数(radial basis function; RBF)カーネルが⼀般的に⽤いられている事からRBFカーネルを使⽤した.これらのパラメータはグリッドサーチにより求めた.
 得られた学習パラメータを使⽤して学習モデルを構築し,性能評価を⾏なった.性能評価はデータセットを学習データセットとテストデータセットに9:1の割合でランダムに分け,交差検証により⾏なった.本システムが予測した追尾誤差と実際の追尾誤差の差(予測誤差Δ)を評価した.また,予測した追尾誤差と実際の追尾誤差の関係について,相関係数と決定係数の評価も⾏なった.さらに,臨床使⽤を考慮して“本システムにより予測された追尾誤差が実際の追尾誤差を下回らない精度”を得るために,仮想データセットを⽤いたデータセットの拡張や,安全側に⽬的変数を修正したデータセットの利⽤など,データセットの調整を⾏なった.

結果
 学習パラメータはε:1,C:1000,γ:0.001であった.
 データセット調整前に性能評価を⾏なった結果,予測誤差Δの平均値,最⼤値,最⼩値はそれぞれ-0.1mm,1.7mm,-2.4mmであり,相関係数と決定係数は0.773と0.597であった.予測誤差Δの平均は,ほぼ0であり,-2mmから2mmの範囲で追尾誤差を予測できており,⼤きな予測誤差Δは認められなかった.しかし,臨床使⽤を想定した場合,本システムで予測した追尾誤差は治療計画時にマージンとして付与される事になる.そのため,マージンを過⼩評価してしまうと治療成績に影響を与える可能性が考えられる.従って,本システムによって予測された追尾誤差が実際の追尾誤差を下回る事は避けたいと考えた.そこで,データセットの調整を⾏なった.
 データセット調整後の性能評価の結果は,予測誤差Δの平均値,最⼤値,最⼩値はそれぞれ0.7mm,2.2mm,-0.4mmであった.また,相関係数と決定係数は0.823と0.677であった.データセット調整前の結果と⽐較しマイナスの予測誤差Δは⾒られなかった.また,相関係数と決定係数も改善された結果が得られた.
 データセットの調整を⾏うことで,0〜2mmの誤差範囲で追尾誤差を評価でき,“本システムにより予測された追尾誤差が実際の追尾誤差を下回らない精度”を持ったシステムを構築する事ができた.

考察
 本研究ではサイバーナイフの追尾誤差評価に機械学習を利⽤するという新しい試みを提案し,さらには幾つかの⼯夫を加える事により,0〜2mmの誤差範囲で追尾誤差を評価できる精度のシステムを構築する事ができた.データセットの拡張は機械学習の分野でも⼀般的に⾏われている事であるが,⽬的変数を修正したデータセットの使⽤は,機械学習の分野において,⼀般的な⼿法ではなく,新しい試みであった.しかしながら,本システムの様に許容できる誤差の⽅向が決まっている場合には有⽤な⼯夫であると考えている.また,この⽅法は他の回帰問題にも応⽤できると考える.
 従来の追尾誤差評価法では時間がかかり,専⽤の機器やソフトウェアが必要であったが,本システムを使⽤することで数分のうちに追尾誤差の評価が可能となり,必要な機器も⼀般的な処理速度を有するコンピュータのみである.この様に本システムを使⽤する事により,装置,時間,⼈員,いずれも削減が可能であり,これが本システムを利⽤する最⼤の利点であると考える.
 本システムはデータが少なかった追尾誤差5mmと6mmのデータセットについて追加⽣成を⾏なっている.そのため,追尾誤差が5mmと6mmについては予測の不確かさが残る可能性が考えられる.さらに,当施設での経験上,5mmや6mmの追尾誤差が得られた場合には頭尾⽅向とそれ以外の⽅向で,追尾誤差が異なる傾向が⾒られるが,本システムでは⽅向別の追尾誤差の評価はできない.これらの事から,5mmや6mmの追尾誤差が得られた場合には,従来の⽅法での評価が望ましいと考える.⽅向別の追尾誤差の予測については深層学習の利⽤により⾏える様になることを期待しているが,今後の課題である.

結論
 SVRを利⽤したサイバーナイフの動体追尾照射における追尾誤差を予測するシステムを開発した.本システムの予測誤差Δは0〜2mmであり,“本システムにより予測された追尾誤差が実際の追尾誤差を下回らない精度”で予測可能である.さらに,本システムの利⽤により,追尾誤差評価において従来の煩雑な過程は省かれ,より短時間で簡単に評価が可能である.

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