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環境DNAを用いたクロダイの分布特性の解明

笹野, 祥愛 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23959

2022.03.23

概要

クロダイは沿岸や河口域に生息し、漁業や遊漁の対象としてなじみ深い魚種である。日本の沿岸漁業の漁獲量が大幅な減少傾向にある中、本種の漁獲量は例外的に安定している。スズキなど他の沿岸性魚類においては、汽水・淡水域の利用が沿岸域での繁栄に有利であることが示唆されてきた。クロダイも強い低塩分耐性をもち、河口域で稚魚や成魚が採集されるが、自然環境下での本種の汽水・淡水域利用を環境条件と合わせて具体的に調べた例はない。本研究では、海域や河川における本種の分布特性を環境DNA手法を用いて解明し、海域における沿岸や淡水流入への依存性、および河川における淡水域への進入実態に迫ることを目的とした。また、環境DNA研究の多くは陸水域の生物を対象に進められてきたが、海洋生物の時空間的な分布変化を評価した例はほとんどない。そこで、本研究における一連の調査を通して、水産資源生物の生態調査への環境DNAの有用性を提示することをもう一つの目的とした。

第1章では、クロダイの生態に関する既往の知見を整理し、本研究の背景と目的を述べた。

第2章では、海域の環境DNA検出に必要となる基礎特性を明らかにした。そのうち第1節では、飼育実験により受精卵や仔魚からの環境DNA放出を確認するとともに、成長に伴う個体あたりの環境DNA放出量の推移を分析した。クロダイを受精卵から生後6ヶ月まで飼育し、飼育水中の環境DNA濃度と水槽内の個体密度から個体あたりの環境DNA放出量を推定した結果、本種の環境DNAは受精卵や卵の段階でも検出され、また個体あたりの環境DNA放出量は全長の約2乗に比例し、体表面積に依存することが示された。第2節では、ミトコンドリア由来と核由来の環境DNAの検出特性の違いを海域において検証した。核環境DNAはミトコンドリア環境DNAより数十倍多く検出されることが示され、また核環境DNAとミトコンドリア環境DNAでは、産卵期における放出・分解などの動態が異なる可能性が示唆された。

第3章では、海域における本種環境DNAの分布特性の解明を目的とした。まず第1節では、沿岸から沖合にかけての本種環境DNAの分布を調査した。丹後海沿岸から沖合の12地点の定点で、2017年5月から原則毎月1回、1年間にわたり採水を行った。本種の環境DNAは離岸距離3 km以内からは通年検出されるとともに、産卵期には卵や仔魚に由来すると考えられる環境DNAが沖合からも検出された。これにより、本種の卵や仔魚は沖合に分散し、稚魚期以降は沿岸3 km以内に加入するという分布の変化を捉えた。稚魚期以降の本種は沿岸に限定的に分布するという前節の結果を受け、第2節では本種が沿岸の中でもどのような場所に多いのかを、特に沿岸域の淡水流入との関係に着目して検討した。房総半島南部の沿岸11定点で2年間にわたり隔週で採水された試料について、クロダイの環境DNA量を定量し、一般化線形モデルを用いて水温、塩分、淡水流入の影響との関係を評価した。なお、各採水定点が周囲の河川から受ける淡水流入の影響は、河川の規模と定点 – 河口間の距離をもとに算出した。房総半島南部の沿岸における環境DNA量は、水温が高いほど多くなり、また塩分が低く淡水流入の影響が大きいほど多くなると推定された。クロダイは沿岸の中でも比較的塩分が低く淡水流入の影響を受ける場所に多いことが示された。第3章を通して、稚魚期以降の本種が沿岸域や淡水流入に強く依存することが明らかとなった。

第4章では、河川進入の実態の解明を目的とした。まず第1節では、京都府の二級河川伊佐津川において、河口から3.3 km上流までに6地点の定点を設け、2017年から毎月1回、1年間にわたる採水を行った。クロダイの環境DNAは基本的に河口から550 m上流までの範囲で通年検出され、水温が約25 °Cを超える5月から9月には最大で河口から1.5 km上流の淡水域でも検出されることが示された。伊佐津川での結果を受け、第2節では河川の規模および潮汐環境の異なる河川として、京都府の一級河川由良川、広島県の一級河川太田川、および二級河川二河川において調査を実施した。全河川の結果に共通して、下流汽水域にはクロダイは通年生息し、水温が一定以上のときに上流淡水域にも進入することが示された。加えて太田川ではより幅広い水温条件で淡水域に進入し、塩分フロント付近に集まるという、河川進入の地域差を捉えた。

第5章では総合考察として、海産魚であるクロダイの柔軟な汽水・淡水域利用の意義、および環境DNA手法の有用性について論じた。本種の汽水・淡水域利用には、沿岸河口域の高い生産力の恩恵を受けるだけでなく、食性の広い本種が多岐にわたる場所で採餌できるという大きなメリットがあると考えられる。また、濁度の高い河口域は捕食者からの逃避に役立つほか、河川中流域は海域よりも本種にとって漁獲圧や釣獲圧が低い場所であると推測される。強い低塩分耐性をもつ本種の汽水域・淡水域利用は、沿岸で繁栄する上で非常に有利であり、資源量の安定化を駆動してきた可能性が高い。また、これまで本種の分布生態については、複数の採集知見などを組み合わせることで推察されてきた。本研究では環境DNA手法によって時空間的に大規模な情報を統合することで、その解像度を上げることに貢献できた。本種の生態を追った一連の研究はまた、水槽実験による基礎的知見と合わせて、水産資源生物の生態調査ツールとして環境DNA手法が極めて有用であることを示した。

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